ココル、落ちこむ
ココルは
「学校関係者
犬の姿をした警備ロボット「
「わたしは
「生徒ノミナサンハ授業中デス。授業ガ終ワッタラ、アナタノ家族トイウ生徒ニ連絡シマス。ソレマデハ、ココデ待ッテイテクダサイ」
「授業って、あと何分ぐらいで終わるの?」
「五分前ニ始マッタバカリダカラ、アト四十五分デス」
「ええ~⁉ そんなに待っていられないよぉ~!」
見た目は十三歳ぐらいでも
「ソンナ顔ヲサレテモ、
「むぅ~! むぅ~! むむぅ~!」
ココルはさらに頬をふくらませる。でも、ウォッチドッグは学校の門番をまかされているロボットだから、ココルが本当に生徒の身内か
「むぅ~! ……あっ、愛菜ちゃんだ!」
大好きな愛菜を発見できてうれしいココルは、思わず大声で愛菜を呼んでしまった。
「あーーーいーーーなーーーちゃーーーん‼」
ココルの
「キ、キャウウウン⁉」
ビックリしたウォッチドッグは、どてーん! とひっくり返る。
同じ
「くっ……。み、耳が痛い。この声は、ココルだな。あの馬鹿ロボット、何しに来たんだ」
勇治が
「ゆ、勇治ぃ~。ココルが学校に来ちゃったみたい。どうしよう?」
「どうするって、オレたちが止めに行くしかないだろう。あんな大声で
クラスメイトたちは教室の窓から顔を出し、
「校門に可愛い女の子がいるけど、さっきの大声はあの子かしら?」
「あれは人間じゃなくてロボットだろ。水色の髪をした人間なんて見たことがない」
「染めているだけかもよ?」
「馬鹿ねぇ~。人間がスピーカーみたいな大声を出せないわよ」
などと騒いでいた。数学
(学校が大騒ぎになる前にココルのところへ行かなきゃ!)
愛菜と勇治は、安藤先生に「すみません! 校門前にいるロボットは、うちのロボットなんです。わたしたちが帰るように言ってきます!」と事情を話して許可をもらうと、大急ぎで校門へと走った。
「ココルぅ~! 大声を出したらダメだよぉ~! はぁはぁ……」
校門に到着すると、運動不足ぎみの愛菜は息切れしながらココルを注意した。
「あっ! 愛菜ちゃんと勇治くんだ! あのね、わたし、さっき街で
愛菜と勇治が来てくれたことを喜んだココルは、パァッ~と笑顔を
「あんな大声を出すなんて、おまえは何を考えているんだ。完全に
「ご、ごめんなさい……。でも、学校がどんなところか見てみたくて……」
「まだそんなわがままを言うつもりなのか。人間の命令に
ココルの考えなしの行動に腹が立っていた勇治は、かなり
愛菜は弟の発言におどろき、「それはちょっと言いすぎだよ!」と勇治に食ってかかった。
「言いすぎなもんか。欠陥品のロボットは、これぐらい言わないとわからないんだ」
「欠陥品、欠陥品って言わないで! ココルの心はまだ成長
「な……なんだって⁉ 愛菜こそ言いすぎだろ! 弟よりもロボットをかばうのかよ!」
愛菜と勇治は、またケンカを始めた。
(愛菜ちゃん……。勇治くん……。ど、どうしよう。わたしのせいで二人が……)
ココルは、おたがいを傷つける言葉を
この感情の正体はわからないけれど、自分のせいで姉弟がケンカをしていることはココルにもわかる。
愛菜も、勇治も、相手をののしる言葉を口から出す時、何だかとても苦しそうな顔をしている。ココルは、二人の苦しげな表情を見るのがとてもつらかった。
(わたしがいけないことをしたせいで、二人が一生口をきかなくなったらどうしよう……)
そう思ったココルの
「ココルが……泣いている……?」
「ロボットなのに、涙を流せるのか?」
「うっ……ぐすん……ひっく。愛菜ちゃん、勇治くん。わたし、
「わぁー! わぁー! ココル、泣かないで⁉ ケンカやめるから!」
愛菜は
勇治も小声で「オレも……その……ちょっと言いすぎた」とココルに言った。
姉の愛菜が泣き虫で、何かあるとすぐに泣かれてしまい、どうなぐさめようかと
「おいおい、三人とも。校門で何をもめているんだ?」
ココルがわんわん泣き、愛菜がおろおろして、勇治が気まずそうにしていると、スカイカーが校門前にとまった。運転席の窓から顔を出したのは、
信人は、バトラーから「ココルが家出しました。学校がある方角に向かっています」という
「父さん。ココルってロボットなのに涙を流すのか?」
「ああ。ココルのエネルギーは、水素と酸素を化学反応させて電気を発生させる
(そういえば、ココルがトイレから出てくることがたまにあるな。「ロボットがトイレで何やっているんだ?」と思っていたけれど、そういう理由だったのか。それにしても、どこまで人間っぽいロボットなんだ、こいつは……)
ロボット嫌いの勇治でさえ、ここまで人間っぽいココルの泣き顔を見てしまうと、冷たく
「ココル、もう泣きやみなさい。愛菜と勇治が困っているぞ。さあ、
信人がココルの頭を
「ココル。また家で話そうね!」
ココルが助手席に座ってスカイカーが陸上走行モードで走り出すと、愛菜がそう言いながら手をふった。勇治も無言でココルを見送る。
「……勇治。さっきはひどいことを言ってゴメン」
信人とココルがいなくなった後、愛菜はポツリとそう言った。勇治も「オレのほうこそ……」と小声でつぶやく。
おたがいに
自動運転中の車内。
ココルは、愛菜と勇治がケンカしながらひどく心乱れていたことを信人に話した。
「ケンカをしている間、愛菜ちゃんと勇治くんはずっと苦しそうな顔をしていたの。二人から伝わってくる感情も、胸を刃物でブスッと刺されたような痛い感じの電気信号だった。あの感情は、何だったんだろう……」
「それは『悲しみ』の感情の
オレも、こころとケンカしてしまった時は、とても悲しくて、苦しくて、なんであんなひどいことを言ってしまったのだろうと反省したものさ。たぶん、愛菜と勇治も今ごろは反省しているだろうなぁ……」
(心が傷つく――「悲しみ」の感情というのは、こんなにも苦しく切ないんだ)
愛菜と勇治は、
(それって、つまり、わたしが二人の悲しみの
こころ博士は、人間とロボットがパートナーになれると信じていた。でも、今のココルは人間のパートナーになるどころか、愛菜と勇治の悲しみの原因を作ってしまっている。
(わたしって、本当に欠陥ロボットなのかも……)
そう考えたココルはひどく落ちこんでしまった。そして、またポロポロと涙を流し始めた。
「お、おい、ココル。泣くなって」
勇治と同じく女の子に泣かれると弱ってしまう
「勇治に
「え? 勇治くんが? わたし、勇治くんが笑ったところを見たことない」
おどろいたココルが顔を上げて、信人を見つめる。
「母親を亡くしてからずっとふさぎこんでいるんだ。……でも、もしかしたら、おまえなら勇治の心を開かせて、元の明るい勇治にもどせるかも知れないとオレは思っている」
「わたしは勇治くんに嫌われているよ? たぶん、無理だよ……」
「そんなことはない。おまえの
……だから、おまえは、愛菜と勇治のお母さんの心を受け
(わたしが二人を守る? 怒られてばかりのわたしに、そんなことできるのかな……)
ココルは、自分の電子頭脳を
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