タロースとの出会い

 家出したココルは、愛菜あいな勇治ゆうじが通っている中学校へと向かった。どうしても、学校というところをこの目で見てみたかったのである。


「ええと~。ここを右に曲がってあとは真っ直ぐ行けば、愛菜ちゃんと勇治くんの学校だね」


 ココルは電子頭脳にインプットしてある地図で学校を検索し、目的地に設定せっていして歩き出した。


「うわぁ~。大きな建物がいっぱい! 人やロボットもたくさんいるぅ~!」


 雲をつくほどの高さの高級アパートやオフィスビル。


 デパートの屋上の駐車場に車をとめようとしている空中のスカイカーたち。


 陽気な音楽を歌いながらクレープを売る美少女型アンドロイド。


 その歌をうっとりとき、クレープを仲良く食べているカップル。


 おばあさんが乗っている車イスを押しながら横断歩道を渡る介護かいごロボット。


 犬型ロボットと本物の犬を連れて散歩している女の人。


 初めて一人で外に出たココルは、チェリーピンクの瞳をキラキラかがやかせ、街の景色を電子頭脳でんしずのうのメモリーに焼きつけた。


 しかし、そんなふうにココルが楽しそうな街の様子に夢中になっていると、近くで複数の悲鳴が聞こえてきたのである。


「う、うわぁー! スカイカーが落ちてくるぞ! 逃げろーっ!」


「え? なになに?」


 空を見上げると、なんと一台のスカイカーがものすごいスピードで地上へ落下しようとしていたのである。


 しかも、落下中のスカイカーの真下には、若いお母さんと三歳くらいの男の子が!


(危ない! 助けなきゃ!)


 ココルはバビューーーン! と走り出し、危機一髪ききいっぱつの母子を助けようした。


(あっ。でも、スカイカーの中にいる人も助けなきゃ。どうしよう。わたし、忍者みたいに分身の術とか使えないし……)


 走りながらココルがそんなことを考えていると、


「君はあの親子をたのむ。オレはスカイカーに乗っている人を助ける」


 いつの間にかココルの横を並走へいそうしていた警察けいさつの服を着たロボットがそう言った。


「えっ、あなたはだれ⁉」


「オレの名はタロース。警察ロボットだ」


 警察ロボット「タロース」は、そう名乗ると、地面をって空へとジャンプした。そして、スカイカーの運転席側のドアをものすごい力でこじ開けてサラリーマンの男性を車の中から救い出した。


 ココルも、母親と子供を両脇りょうわきに抱えて、遠くへジャンプした。


 親子が立っていた場所にスカイカーが墜落ついらくして大爆発だいばくはつが起きたのは、その直後のことだ。


(近くにいる人たちが、爆風ばくふうで吹っ飛ばされちゃう!)


 電子頭脳がとっさにそう判断し、ココルは両手を前に出して「プラズマシールド!」と叫んだ。すると、ココルの瞳が虹色にじいろに輝き、かかげた両手の先から超強力な電磁波でんじはによるプラズマがピカピカッと発生した。


 プラズマとは、個体・液体・気体につぐ物質の第四の状態じょうたいのことである。気体に高温加熱や放電などをすると、非常に強力なエネルギーを持ったプラズマとなる。自然現象でいうと、雷やオーロラ、炎などもプラズマである。


 ココルが発生させたプラズマは目に見えないシールドを作り、スカイカーの大爆発による衝撃波しょうげきは吸収きゅうしゅうして、近くにいた人たちを守った。


 でも、このプラズマシールドは、爆風などの衝撃を弱める力はあっても、物理的な攻撃はふせげない。だから、車の破片はへんは飛んできた。


「オレにまかせろ!」


 タロースは人々の前に立ち、車の破片を大きくてじょうぶなボディでぜんぶ受け止めた。


(うわぁ、カッコイイ!)


 ココルは、昨日観たアニメに出てきた正義のロボットにタロースがていることに気づき、目を輝かせた。


 タロースは、ひと目でロボットだとわかる見た目をしている。


 燃えるように赤い鋼鉄こうてつのボディ、金色に輝く両目、二五〇センチほどある身長。そして、とても勇敢ゆうかんそうなつらがまえ。まさに、正義のロボットである。


「タロース、よくやったぞ! さすがはロボット犯罪対策部はんざいたいさくぶほこる警察ロボット隊のリーダーだ! 正義は必ず勝ぁぁぁつ! わっはっはっは~!」


 全てが終わった後、底ぬけに明るい声とともに、二十代半ばぐらいの警察がけつけた。


 なぜか、冬でもないのにずいぶんと厚手あつでのトレンチコートをはおっている。


「オレ一人の力ではありません、長谷川はせがわ警部けいぶ。このアンドロイドの少女が見事なサポートをしてくれたおかげです」


「ああ、そうだな。……こほん! そこの可愛いアンドロイドちゃん。タロースに協力してくれて、どうもありがとう。ボクはロボット犯罪対策部に所属しょぞくする警部の長谷川鉄平てっぺいという者だ。君はどこのロボットだい?」


 長谷川警部は人懐ひとなつっこい笑みを浮かべてココルに話しかけた。


「わたしは、唐栗からくり信人のぶと博士はかせと奥さんのこころ博士が使ったロボットだよ。ココルっていうの」


「おお、あのカラクリ天才夫婦の研究所のロボットか! なるほど、道理ですごい能力を持っているはずだ!」


 ココルは、長谷川警部の感情の電気信号でんきしんごうを読み取って、彼がとてもウキウキしているのを感じた。どうやら、ロボットのことが大好きで、最新型のロボットであるココルと出会えたことを喜んでいるようだ。


「いやぁ、本当に助かったよ。ココルのおかげで大惨事だいさんじにならなくてすんだ。最近、ディアボロス・ウイルスに感染かんせんしたロボットや乗り物が事故を起こしてしまう騒動そうどうが多いんだよ」


 ウイルスが原因の事故が多発しているせいで、マスコミはカラクリ天才夫婦が作った最新型アンドロイドのことはすっかり忘れて、その事故の報道ほうどうばかりしている。


 実際、これは非常に大きな社会問題だった。ロボットだけでなく、自動運転の車や電車、飛行機にも人工知能がついている。もしも人々を運ぶ乗り物の人工知能がくるってしまったら、さっきみたいな大パニックが街で起きてしまうからとても危険なのだ。


「サーペント団がディアボロス・ウイルスを使って、悪いことをしているの?」


「それが、どうもサーペント団だけじゃないみたいなんだよ。サーペント団の幹部のアケディアは、一般人にディアボロス・ウイルスを高額こうがく値段ねだんで売っているらしいんだ。だから、今回の事故がサーペント団の犯行か、サーペント団からウイルスを買った悪質あくしつな人間の犯行か、調べる必要がある」


 ディアボロス・ウイルスは、サーペント団がやとっているディアボロス博士が発明したナノロボットなのだ。目では見えないほど小さなディアボロス・ウイルスはロボットの体内に侵入しんにゅうして人工知能を汚染おせんし、ロボットを凶暴化きょうぼうかさせるのである。


 ディアボロス・ウイルスの情報は、ココルもバトラーとの勉強(という名のデータ転送てんそう)でちゃんと知っていた。


「ココル。市民の安全を守ってくれて、オレからも感謝する。君のあのジャンプ力と高性能こうせいのうなシールドにはおどろかされた。警察ロボット隊にスカウトしたいぐらいだ」


 タロースはそう言いながら手を差し出し、ココルに握手あくしゅを求めた。身長一五〇センチほどしかないココルの手が届くようにガシャンとひざをついてほほ笑む。


 正義のロボットらしく、とても紳士的しんしてき性格せいかくのようだ。


「タロースもカッコよかったよ! アニメに出てくる正義のロボットみたいだった!」


 ココルは両手でタロースの大きな右手をにぎりながら、ニコッとほほ笑み返した。


「ハッハッハッ! そうだろ、そうだろ? タロースは有名なロボットアニメの主役機しゅやくきをモデルに作られた正義のロボットなんだ! ボクの自慢じまん相棒あいぼうさ!」


 長谷川警部はまるで自分がほめられたみたいにうれしそうに笑い、タロースのがんじょうなボディをパシン、パシンとたたいた。


(長谷川警部とタロースは、愛菜ちゃんとわたしみたいに仲良しなんだね。こころ博士が言っていた「人間とロボットがパートナーとなって仲良く生きていける世の中」って、愛菜ちゃんとわたし、長谷川警部とタロースみたいな、人間とロボットの仲良しさんがたくさんいる世の中のことなのかな?)


 ココルは、生前のこころ博士の言葉を電子頭脳にたくさん記憶きおくしている。こころが「人間とロボットがパートナーになる」ことを夢見ていたことも知っている。ココルは、生みの親の一人であるこころの夢が実現したらいいなと思っていた。


 だから、長谷川警部とタロースのような信頼しんらい関係かんけいきずいている人間とロボットと出会えて、とてもうれしかった。


(学校で愛菜ちゃんと勇治くんに会ったら、長谷川警部とタロースのことを話してあげようっと!)


 消防隊しょうぼうたいけつけて炎上していた車を完全に消火した後、ココルは長谷川警部たちと別れて、学校に向かうのだった。

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