Episode2 ココルとタロース
学校に行きたい!
ココルが完全に目覚めてから、二週間後。
ココルは、まだ
「ねえ、ねえ、バトラー! わたしに料理を教えて! わたし、
ココルが最初に興味を持ったのは、料理である。
妹ができてうれしいのか、バトラーはココルにつきっきりで料理を教えた。
「ココル。料理で一番大切なのは何かわかりますか?」
「わかんな~い。何が大切なの?」
「塩と
「胡椒と唐辛子は、見た目がぜんぜんちがうよ?」
「油断をしてはいけません。料理中にうっかりミスをしてしまうほど恐ろしいことはないのです。これまでの努力が水の
「う、うん……」
真剣な表情で言うバトラーに、ココルは大人しくうなずき、「うっかりまちがえてしまった
本格的な料理の
「まず、
「バトラー、それ塩だよ?」
「次に、しょうゆを少々」
「わー! わー! それはソースだよぉ~!」
「そして、
「それは唐辛子でも胡椒でもないよ⁉
「……ち、ちょっと、今日は電子頭脳の調子が悪いようです。うっかりミスを連発してしまいました」
(わたしがしっかりしなきゃ……)
ココルは、強くそう思った。そして、自分でも料理のレシピを調べ、料理の練習も毎日がんばり、めきめきと料理の腕を上げていったのである。
ちなみに、ココルの電子頭脳はインターネットに
「おいしい! すごいよ、ココル! たった二週間でよくここまでできるようになったね!」
「うん、うん。
愛菜と
「オレは、もっと濃い味つけのほうがいい」
「もう、
「……オレ、そろそろ学校に行くよ。愛菜もゆっくりしていると遅刻するぞ」
「あっ! 待ってよ、勇治! わたし、まだパジャマなのにぃ~!」
愛菜は朝ご飯を急いで食べると、二階の自分の部屋にもどって制服に慌てて着がえた。
愛菜たちが通う学校の制服は、学校の
制服には健康をチェックできるコンピューターが
「愛菜、遅いぞ。早くしろ」
何だかんだ言いつつも
「ま、待ってぇ~!」
「ねえ、ねえ、愛菜ちゃん。わたしも学校っていうところに行ってみたい」
ココルは、パタパタと二階から降りてきた愛菜のスカートをつまんでそう言った。
愛菜がいつも学校の友達の話を楽しそうにココルにするため、「学校って、どんなところなんだろ?」と興味を持ち始めていたのである。
「ココルが学校へ……? それ、いいかも! ココルが学校に通ったらいろんな子たちとふれあうことができて、ココルの心もきっとすぐに成長するわ!」
「あのなぁ~……。ロボットが学校で勉強するなんて、聞いたことがないぞ」
勇治は、腕時計型コンピューターで時間をチラチラ
「でも、ココルは人とふれあうことで心が成長していくロボットなんだよ? いろんな子がいる学校は、ココルが感情を学んでいくのにちょうどいい場所じゃない。お父さんもそう思うでしょ?」
「そうだなぁ~……」
信人は
「たしかに、たくさんの子供たちと共同生活を送ったら、ココルは大きく成長するだろう。母さんもココルを学校に通わせたいと言っていた。それに、ロボットは教材や教師役、生徒の
「つまり、ダメってこと?」
「いや、ダメだとは言っていないが……。まあ、今のところは、ココルは家の中で勉強していたほうがいいだろう」
「むぅ~……」
愛菜はほっぺたをふくらませた。ココルも、マネしてほっぺたをふくらませる。
「愛菜。いい
「ああ~ん、待ってよぉ~!」
勇治に再びせかされた愛菜は、
(行きたいなぁ~、学校。毎日お家で
二人が出ていって、自動で閉まったドアを見つめながら、ココルはそう思うのだった。
午前中、ココルは信人に連れられて唐栗ロボット研究所で健康診断を受けた。
「ふむ。ウイルス対策のためのナノロボット『エクソシスム』を体内に入れてから一週間たつが、特に
「博士ぇ~。体の中に何かいると思うと、あまり気持ちよくないよぉ~」
「まあ、
サーペント団が悪用しているディアボロス・ウイルスは、数年前からロボットを
ナノロボットとは、
カラクリ天才夫婦が作ったナノロボット「エクソシスム」は、ココルの体内に百個ほど入れられており、二十四時間パトロールしている。もしもウイルスがココルの体に入ってきたらやっつけてくれるのだ。ちなみに、
ディアボロス・ウイルスに人工知能を狂わされていたムートも、信人が少量のエクソシスムを注入してあげて元にもどり、今ではレスキュー隊のロボットに
ただし、エクソシスムの欠点は、とても高性能で小さすぎるロボットなので、作るのにかなりのお金と時間、技術が必要となることだった。世界中の全てのロボットのためにエクソシスムを作れるほど
「ココル。もう家に帰っていいぞ。バトラーに勉強を教えてもらいなさい」
「はぁ~い……」
ココルはあまり楽しくなさそうに返事をした。
社会の常識を身につけるため、ココルはお勉強中なのである。でも、その勉強は料理に比べるとぜんぜん面白くなくて、ココルは毎日退屈だった。
「ココル、今日は
ココルがキーパーに送ってもらって
(しっかり
と、ココルは心の中でつぶやく。勉強といっても、ココルが机に向かってせっせと道路交通法の本を読むわけではないのだ。
「では、いきますよ」
ココルと向かい合ってイスに
バトラーの電子頭脳にある道路交通法のデータをココルの電子頭脳に
「はい、終了。
バトラーはココルの頭を
「……まんない」
「はい?」
「つ・ま・ん・な・い‼」
ココルは
「こ、ココル?」
「こんな勉強のしかた、つまんないよぉ~!」
バトラーから送信されたデータをただ受け取って電子頭脳に
「わたしも、愛菜ちゃんみたいに、たくさんの友達と一緒に授業を受けたい! 先生に当てられて問題を解いたり、みんなで調べ物をして発表したりしたい! 一人でさびしくお勉強なんてつまんないよぉ~!」
「ココル……」
「あと、
「いや、それは愛菜お
「わたし、お馬さんじゃないよぉ! バトラーのおたんこなす!」
「あっ……ココル! 待ちなさい!」
ココルは、バトラーが止めるのも聞かず、家から飛び出してしまった。
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