目覚めの時
「
ココルと
バトラーが無線通信の機能でロボット研究所の信人に電話し、ココルと愛菜が誘拐されたこと、自分と勇治は
「もうしわけありません、信人
「バトラー、おまえは
いくらすごいパワーを持っていても、今のココルでは自分の身を守れない。信人もそのことはちゃんとわかっていた。
しかし、愛菜たちが学校に行っている間、ココルは家でバトラーと
自分と他人の区別もつかない電子頭脳で本当に「さびしい」と感じているかは不明だったが、愛菜がそばにいない時のココルはとても大人しく、不安そうな顔をしていた。
(もしかしたら、ちょっとずつ感情が
信人は、家の外でもっといろんな
でも、こんなことになるのなら、愛菜とココルを公園に行かせるべきではなかった……。
「父さん。今はだれが悪いとか言っている場合じゃない。あの悪党たちを早く追いかけよう」
「う、うん。そうだな。今すぐ、その粘着液を取ってやるから、待っていろ」
冷静な勇治にはげまされた信人は、車のトランクから
「こんなこともあろうかと発明していた、粘着液だけを
「名前、そのまんまじゃん! ていうか、吸われてる! 吸われてる! 粘着液だけじゃなく、オレの体まで吸われてるーっ!」
勇治は危うく掃除機に頭から吸われそうになったが、バトラーが勇治の腕をにぎってふんばってくれたおかげで助かった。
「吸われる! 吸われる! お助け~!」
チェイサーとキーパーも吸われかけたけれど、フルパワーを出してふんばり、何とか吸われずにすんだ。
「父さん! その発明、絶対に失敗作だろ!」
「さ、さあ、愛菜とココルを助けに行くぞ! みんな、車に乗りこめ!」
「バトラー。愛菜たちが今どこにいるかは、わかるな」
「はい。あの悪党たちは、
バトラーとココルは、カラクリ天才夫婦が作った兄妹ロボットなので、遠く離れていてもおたがいの位置を
「よし!
信人は運転席にある空色のボタンを押した。すると、車の屋根に
さらに、信人は別のボタンを押し、自動運転モードから手動運転モードに切り
「げ、げげっ……。やめろよ、父さん。自動運転にしとけよ。運転下手くそなんだからさ」
「急いで愛菜たちを追いかけないといけないんだ! 手動運転モードでかっ飛ばす!」
「だったら、わたしがかわりに運転しましょう」
勇治だけでなく、バトラーの声もかなりあせっていた。
自動運転の車が一般化してからかなりの年月がたったものの、自分の手で車を運転したい人もいる。だから、車は自動運転と手動運転に切り替え可能だった。
ただ、空を飛ぶ車は運転技術が下手な人間が手動で
信人はいちおうその特殊免許を持っている。ただし、十五回もチャレンジしてようやく取れたので、運転技術はかなり
「行くぞーっ! しっかりつかまっていろよ!」
スカイカーは急発進し、
ぐらり、ぐらりと車内が大きく
「こ……こんなの、愛菜に追いつく前に
ちょうど同じころ。ココルと愛菜は、アケディアたちの隠れ家へと向かうトラックの
荷台にはアケディアがロボットを使って盗んだいろんな物があり、どこかの美術館に飾られていた
また、ムートがココルと愛菜をじっと
そんな最悪な
「信人サン、オヒゲ
「……ここにはお父さんはいないよ」
「勇治クン、転ンジャッタノ? 痛イノ痛イノ飛ンデケ~!」
「勇治もいないってば。……ねえ、ココル。わたしたち、誘拐されいてるんだよ? わかる?」
「泣カナイデ、愛菜チャン! 泣カナイデ、愛菜チャン!」
「ココル……」
愛菜は、ぽろぽろと涙を流した。ココルは、わけがわからない赤ちゃんのまま、悪いロボットにされてしまうのだろうか。
(そんなの、ココルがかわいそうすぎる。それに、お母さんもきっと天国で悲しむよ)
ココルが
ロボットの研究が
泣き虫の愛菜がわんわん泣いていたら、頭を優しくなでてなぐさめてくれた。
小さいころは
そして、放っておくとヒゲを生やしたいほうだいの信人に、ちゃんとひげを剃らないとダメだよとよく注意していた。こころが亡くなってからは、それは愛菜の役目になったけれど。
まだボディを持たず、電子頭脳だけだったココルは、ペンダントのアクセサリーの中で家族への愛がこめられたこころの言葉をちゃんと聞いて記憶していたのだ。
(電子頭脳さえ完全に目覚めたら、ココルはきっとお母さんみたいに優しい女の子になれる。でも、このままだと、ココルは心を持つ前に悪いロボットにされてしまう。嫌だよ、そんなの……)
真っ暗な荷台の中で、愛菜はしくしくと泣き続ける。
わたしのせいだ、と愛菜は思っていた。勇治が外は危ないと
「ぐす……ひっく……。わたしがいけないんだ。ぜんぶ、わたしのせいなんだ……」
愛菜は声をあげて泣き出した。
「泣カナイデ、愛菜チャ……」
愛菜のしゃくりあげるような泣き声を耳にしたココルは、ピクリと肩を
そして、
ココルの電子頭脳は半分しか目覚めていない。今、どんなに大変なことになっているかは理解できていないのだろう。でも、人の感情を感じ取るココル・ハート・システムは動いているはずだ。
ココルは愛菜の
(……だったら、わたしがもっともっと強い感情をココルにぶつけたら、ココルの電子頭脳に大きな
ハッと気づいた愛菜は、
「お母さんが言っていたよ。ココルは、人間と心を
「…………」
ココルはずっと黙っている。でも、電子頭脳はピピピ、ピピピと忙しく動いていた。愛菜の強い愛情を
――トテモ強イ電気信号ガ押シ寄セテ来ル。ナゼダロウ。電子頭脳ガ、ポカポカスル。
かつてないほどの電子頭脳への刺激。そして、ぽかぽかとした
――コノ
ココルは、電子頭脳のメモリー内にあるこころ博士の言葉をまた脳内で再生した。
「毎日研究ばかりしていて忙しいから、家族となかなかスキンシップがとれないのが悩みなのよねぇ~。だから、家族とふれあう時間がある時は、たくさんの愛をこめておしゃべりしているの。あなたにボディができたら、わたしたちといっぱいスキンシップしましょうね」
電子頭脳に記憶されていた言葉は、こころ博士の家族への愛情がこもった言葉だった。
ココル・ハート・システムは、こころ博士から受信したぽかぽかと温かい電気信号と、たったいま受信した電気信号はまったく同じだと判断した。
――今、理解シタ。コレガ愛ノ温モリダ。
――ワタシハ、今、彼女ノ愛ニ
ここで、ココルの電子頭脳は自らにまた問いかける。
――ワタシ、トハ? 彼女、トハ?
――ソレハ……。愛ヲクレテイルノガ、彼女。愛ヲモラッテイルノガ、ワタシ。
――ワタシモ愛ヲアゲタイ。泣イテイル彼女ニ……愛菜ちゃんにわたしの愛をあげたい!
「泣かないで、愛菜ちゃん」
ココルはそっと手を伸ばし、愛菜の涙を指でぬぐった。
「ココル……?」
愛菜は、またココルが無意味なおしゃべりを始めたのかと
ココルは、愛菜と同じように今にも泣き出しそうな顔をしていたのである。
「わたしのことを心配してくれているの……?」
愛菜がそう聞くと、ココルはパステル・ブルーの髪を
「こ、ココル! ええと、その、あの……この鏡に
愛菜はドキドキしながら、近くに置かれていた鏡でココルの姿を映した。
「わたし! ココルが、映ってる!」
ココルはにこーっと笑い、白い歯を見せた。
「じ、じゃあ、わたしがだれかわかる?」
「うん! 愛菜ちゃん! わたし、愛菜ちゃん大好き!」
電子頭脳が半分目覚めていなかった時は舌足らずなしゃべりかただったが、今ではハキハキと話せるようになっているようだ。
「や、やったぁ~! ココルが目覚めたぁ~!」
愛菜は大喜びして、ココルにもう一度抱きついた。
「ねえ、ねえ、愛菜ちゃん。ここ、どこぉ~?」
「あっ……。そ、そうだった。こんなことをしている場合じゃなかったよ! ココル、ここから早く逃げ出そう! わたしたち、悪いヤツらに誘拐されているところなの!」
「ここから出ればいいんだね。うん、わかった! あそこのドアをバコーン! って
ココルは無邪気に笑いながら、トラックの荷台の後ろにあるドアを
すると、ココルたちが
「ココル! 危ない!」
ムートは、ココルの体に巻きつく。でも、ココルはきつくしめつけられているにも
「う~……。この子、
ほっぺたをぷくぅ~とふくらませたココルは、「えいっ」と軽く両腕を広げた。
「キュ⁉ キュキュ~!」
ココルの
「え? この子、
ココルはムートを
「だいじょうぶよ、ココル。ムートは、体がバラバラになったり、合体したりできるの。それよりも、早くここから出ましょう!」
「あっ、そうなんだ。よかったぁ~!」
ホッとしたココルは、荷台の後ろへ行くと、「て~い!」と気のぬけるようなかけ声でドアをパンチした。
ドゴーーーン‼
荷台の後ろに大穴が開く。愛菜は、ココルのパンチの
(さっきのはすごい音だったから、運転席にいるアケディアたちが気づいたかも)
と、あせった。
「ココル、急ぎましょ! わたしを抱き上げて、ここから下りられる⁉」
「へーき! へーき!」
ココルは愛菜をひょいと抱き上げてお姫様抱っこをすると、ものすごいスピードで走っているトラックからピョーンと飛び降りた。
「き、きゃあ~!」
愛菜は恐くて、ココルにギュッとしがみつく。ココルがちゃんと着地できなかったら、大ケガをするだろう。
「あっ、愛菜ちゃん」
「な、何⁉」
「空飛ぶ車が、わたしたちに向かって飛んで来るみたい」
「えーーーっ⁉」
それは、アケディアたちを
もう少しで追いつきそうだったところに、ココルと愛菜がトラックから飛び降りて、今まさにスカイカーとココルたちは
「ぎゃーーーっ! あ、愛菜とココルがトラックから飛び出てきたぁ~!」
「父さん! よけろ! よけろ!」
「信人博士! ハンドルを右に切ってください!」
「み、右⁉ 右ってどっち⁉」
「パニックになりすぎだろ、父さん!」
「お
ここで、バトラーはうっかり忘れていたことがある。信人は左利きだから、左手でお箸を持つのだ。信人はハンドルを左に回した。
「ひ、左に行ったら、森の中に突っ込むじゃんか~!」
勇治が
現在、アケディアたちのトラックと信人のスカイカーは、アケディアの隠れ家がある山のふもとの道路を走っている。周囲は、
信人は慌てて
「ココル! あの車はお父さんのだよ! 助けてあげて!」
「わかったぁ~!」
ココルは、左に曲がって自分たちをよけていくスカイカーの右の翼を片手でつかみ、ぐいっと力を加えた。すると、わずかにスカイカーの進行方向が右寄りになり……。
ズガーーーン‼
アケディアたちのトラックの上に
「ぎゃあ~!
「に、にゃうう……。上から何かが降ってきたみたいですぅ~……」
「ボスぅ~、ねこぉ~! 危ないから外に出ようぜぇ~!」
おどろいたアケディアたちはトラックからほうほうのていで出て来た。
「あっ! ロボットと博士の娘が、脱走してるぅ~!」
「ちくしょう! さっきの大きな音は、やっぱりこいつらが逃げ出した音だったか」
「アケディアさん! トラックの上を見てください!
今度は、ねこがトラックの上のスカイカーを指差す。
「この悪党たちめ! よくも大切な娘と新しい家族をさらってくれたな!」
「愛菜を返せ!
スカイカーから出てきた信人と勇治は、アケディアたちを上から見下ろし、そう怒鳴った。そして、バトラーが右手で信人、左手で勇治を抱え、トラックの上からピョンと飛び降りる。
「お父さん! 勇治! ココルが目覚めたよ! わたしをトラックの荷台から助け出してくれたの!」
愛菜は家族のもとに
(電子頭脳に何だかパァ~ッと明るい感じの電気信号が伝わってくる。これはきっと「喜び」の感情だよね? 二人はわたしのために喜んでくれているんだ! わたしもうれしい!)
ココルは、愛菜と信人が喜んでいることを知り、自分も何だかうれしい気分になった。
「チッ。あの怪力ロボット、どうやら電子頭脳が
「ええ⁉ そんなむごいことをするんですかぁ~⁉ に、にゃう~……。気が進みませ~ん」
「馬鹿野郎! あのロボットに
「う、うう……。でも……」
「早くやれ!」
アケディアはねこの耳元で怒鳴った。ねこは「ひぃ~ん」と泣きながら、腕時計型コンピューターを操作する。
腕時計みたいに腕に装着するこの小さなコンピューターは、近ごろではだれでも持っている人気商品である。サーペント団はこのアイテムを改造して、ディアボロス・ウイルスによって電子頭脳が
「キュキュー! キュキュー!」
ボロボロになったトラックの荷台から、ムートの十二個の部品モジュールたちがコロコロと転がって出て来た。
「ココル! あのロボットたちが吐き出す粘着液に気をつけてください!」
バトラーがそう警告した直後、モジュールたちは素早く転がりながら散らばり、道路わきの木々のかげに隠れた。
バトラーを倒した時のように、姿を隠して
しかも、今は太陽が完全に沈んでしまい、あたりは真っ暗だ。十二体のモジュールたちがどこに隠れているのかを目で探すのは非常に難しいだろう。
「何? 何? わたしと遊んでくれるの?」
ココルは何か
電子頭脳が完全に目覚めても、少しずつ心が成長していく学習型ロボットなので、
「馬鹿! おまえをイジメようとしているんだよ! 油断したら、痛い目にあわされるぞ!」
勇治が
ビュッ! ビュッ! ビュッ!
暗闇の中から、たくさんの粘着液がココルめがけて飛んできた。
「こ、ココル!」
愛菜はココルがやられてしまうと思い、そう叫んだ。しかし――。
「よっ! ほっ! はっ! あはは、これけっこう楽しいかも~!」
ココルはキャッキャッと笑い、飛んできた粘着液を軽々とかわした。
かわされても、かわされても、モジュールたちは粘着液をしつこく飛ばす。
でも、ココルにはかすりもしない。後ろから飛んできた粘着液も、ジャンプしてかわした。
「な、何だ、あいつ⁉ 後ろに目でも生やしているのか⁉」
アケディアがおどろきの声をあげる。愛菜や勇治もビックリして、勇治は「あいつ、いったいどんな能力で攻撃をかわしているんだ……?」と言った。
信人がえへん、えへん、と自慢げにせきばらいをして、愛菜と勇治に
「ココルの目を見てみなさい。チェリーピンクだった
「超音波センサー? お父さん、それはどんなセンサーなの?」
「人間の耳には聞こえない空気の
「す、すごーい!」
愛菜が
ココルの
まるで、バレリーナが
「あれ? もうおしまい?」
モジュールたちの攻撃がストップした。どうやら、粘着液がなくなってしまったらしい。
「キュキュー! キュキュー!」
モジュールたちはココルの前に姿を
そして、ムートは、ムカデのような体をくねくねさせながらココルに突っ込んで来た。
「ココル! ムートは直前で飛んで、タックルをしてくるはずです!」
バトラーは、公園でムートにタックル攻撃をくらったのを
ココルはスッと右手を前に出す。その直後、ムートは「キュキュー!」と鳴きながらココルに飛びかかった。
ガシッ!
ココルの右手は、ムートの全力のタックルをやすやすと受け止めた。まるで、力の弱い子が投げたドッジボールの
「キ……キュキュー! キュキュー! ……キュ……キュ……」
ココルに空中でキャッチされたムートはしばらく
「お、おい、ねこ! ムートのヤツ、動かなくなったぞ⁉」
「たぶん、エネルギー切れだと思います……」
「やべぇよ、ボスぅ~。オレたちだけじゃ、あのおチビのロボットにやられちまうよぉ~」
「くっ……。しかたねぇ……。おまえたち、逃げるぞ!」
アケディアは
ロボットスーツでパワーアップしている
「ま、待ってくれよぉ~! ボスぅ~! 今日は働きすぎてお腹ペコペコだぁ~!」
熊坂もアケディアを追いかけ、お腹をグーグー言わせながら森の中へ走っていく。
「アケディアさん! 熊坂さん! わたしたちのトラック、どうするんですか⁉」
取り残されたねこは、しばらくの間、一人であたふたしていたけれど、ボロボロになったトラックを気にして自分が捕まったら元も子もないと思い、
「に、にゃーーーん!」
と、泣きながら全速力で逃げていった。
「くそっ……。逃げられてしまったか」
信人は
「ココル。ムートを
勇治が、行動
愛菜は慌てて「だ、ダメ! そんなのかわいそうだよ!」と言った。
「この子は悪い人たちに
「あのなぁ、愛菜。いくらロボットが好きでも、ちょっと考えが甘すぎるぞ」
姉弟はまたもや言い争いになりかけた。
ココルは、二人からピリピリとした電気信号を受信し、おろおろした。
「ココル! 早くムートを壊せ!」
「ダメ! ココル、ムートを壊さないで!」
「あ、あうう~。博士ぇ~、わたしはどうしたらいいのぉ~?」
ココルは信人のよれよれの
「ココル。おまえは、心を持ったロボットだ。だから、自分の行動は自分で決められるんだよ。……ココル、おまえはどうしたいんだい?」
信人が優しい声で、ココルにそう問いかける。ココルは「ええと~……」としばらく考えた後、こう言った。
「わたし、この子とお友達になりたいの。……博士、この子を助けてあげられる?」
「ああ。オレが、ムートを凶暴化させているウイルスを取り
信人がココルの頭をなでながらそう言うと、ココルは「ヤッター!」とはしゃいだ。
(やっぱり、ココルは優しい子だわ。これから、たくさんの友達を作れるといいね、ココル)
愛菜はホッとして、ココルを温かいまなざしで見つめた。そして、
「お父さんがちゃんと
と、勇治に言った。
「まぁ……そういうことなら」
勇治はブツブツとそう言うと、プイッと顔をそむけて、「さっさと帰ろうぜ。ここ、寒いよ」と信人をせかした。
「博士。スカイカーが
スカイカーの運転席に乗りこんで動かそうとしていたバトラーが、信人にそう
「修理は可能ですが、たぶん二時間ぐらいかかりそうです」
「それは困ったな……。二時間もこんな山のふもとにいたら、
「わたしが博士と愛菜ちゃん、勇治くんをかついで帰るよ!」
ココルは愛菜をおんぶして「しっかりつかまっていてね!」と言うと、勇治と信人を両手で持ち上げた。たぶん、バトラーが二人を両手で持っていたのを見て、マネしたのだろう。
ココルの電子頭脳には、世界中の地図がインプットされている。ちゃんと
「ココルは博士たちを連れて先に家に帰ってください。わたしは、チェイサーとキーパーに手伝ってもらってスカイカーを修理します。ムートも、わたしが連れて帰りますから安心してください」
「はーい!」
ココルはバトラーに元気よく返事をすると、「みんな、行くよ~!」と言った。
バビューーーン‼
地面を
「あ、あわわ!
「ぎょえ~! こ、ココル、もっとスピードを落としてくれぇ~!」
「馬鹿ココル! オレたちを殺す気か!」
愛菜、信人、勇治が悲鳴をあげたが、ココルは「わーい! わーい!」と楽しんでいて、まったく聞いていない。
「じゃーーーんぷ‼」
「わーーーーーーっ‼」
夜空に浮かぶ満月に気づいたココルは、満月に手が届きそうなほど大きくジャンプした。
ココルは満月を見て「うわぁ~、キレイ!」とはしゃぐ。ココルには、普通のロボットにはない、自然や芸術を見て感動する心があるのだ。
「あれが、こころ博士が言っていた月かぁ~!」
「え? お母さんが?」
ココルは、ボディがなかったころにこころから教えてもらった言葉をたくさん
「こころ博士、わたしが生まれたらみんなで月に旅行したいって言ってた! いつかみんなで行こうね!」
「お母さん、そんなことを言っていたんだ……」
「母さん……」
愛菜と勇治はちょっと涙ぐんで、こうこうと輝く満月を見上げた。
(愛菜ちゃんと勇治くん、さっきはプンプン怒ってケンカしていたのに、今は優しい気持ちになっているみたい。電気信号も、ほんわかしたあったかい感じだもん。よかったぁ~!)
ココルもホッとして、ニコリと笑う。
月に照らされたココルのパステル・ブルーの長い髪はキラキラと光り、ココルはまるで本物の天使のようだった。
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