ココル誘拐
ココル起動から一週間がたった。
ココルは、愛菜の話の内容をちゃんと理解しているのかはわからないけれど、ニコニコ笑って大人しくしている。
「今日はね、学校の調理実習でお菓子を作ったんだよ。でもね、わたし、砂糖と塩をまちがえて入れちゃって。テヘヘ……。いつもバトラーがやっているうっかりミスをまさかわたしもしちゃうとは思わなかったよぉ~」
「……なあ、愛菜。そんなくだらない話、家の中でもできるだろ。なんで、わざわざ公園でおしゃべりするんだ?」
ココルと愛菜が座っているベンチから少し
勇治は、
いつ、サーペント団がココルを狙っておそってくるかわからない。おそわれたら愛菜もケガをするかも知れないのに、ココルを連れてのこのこと外を出歩くなんてのんきすぎる。
いくら家から目と鼻の先で、研究所からもけっこう近い公園でも、
それに、マスコミも「カラクリ天才夫婦が作った最新型アンドロイド」を取材しようと、毎日のように研究所に押しかけているらしい。
「サーペント団がココルの起動の邪魔をしたせいで、電子頭脳に
と言って、何とか今のところはごまかしている。
でも、ココルが公園にいるとわかれば、たくさんの記者たちが公園にやって来るだろう。そして、ココルの電子頭脳がいかれているとバレたら、ネットニュースでどんなひどい記事を書かれるかわかったものではない。
サーペント団にココルを
勇治は、姉の愛菜に傷ついてほしくなかった。だから、警戒心が薄い愛菜にイライラしていたのだ。でも、勇治の気持ちに気づいていない愛菜は、
「公園の美しい自然や可愛いお花を見ながらおしゃべりしたほうが、ココルも楽しいでしょ? ココルには、『楽しい』という気持ちをもっと教えてあげたいの」
と、勇治に熱心に語った。すっかり、ココルの
「ロボットに花を見せても、何も感じないぞ。ロボットの心は、キレイなものや芸術作品を見ても感動できないんだ」
「でも、ココルは花を美しいと思う心を持っているって、お父さんが言っていたよ。ココルは心が成長したら、
「ウソつけ。そんなロボット、聞いたことがない」
「ウソじゃないってばぁ~。ねえ、バトラー。お父さんがその話をしている時、バトラーも聞いていたでしょ?」
「はい、愛菜お
バトラーは、本物の
信人は、ココルをサーペント団から守るため、バトラーとチェイサー一体、キーパー一体を
パワー不足だったチェイサーはほんの少しだがパワーアップさせ、キーパーも簡単には転ばないように
「フン……。たとえそんな
勇治は冷たくそう言った。
「むぅ~! 勇治のおたんこなす! なんで、ココルのことをそんなにイジメるのよぉ~! いくらロボットが嫌いだからって、ひどいじゃない!」
愛菜がベンチから立ち上がってプンスカ怒ると、ココルも「おたんこなす~!」と言ってキャハハと笑う。この一週間で、姉弟ケンカをしている時の愛菜のお決まりのセリフを覚えたらしい。
「おい、ココル。ロボットのくせして、持ち
「ココルのことを物あつかいしないで! ココルはわたしたちの家族だよ!」
愛菜がそう言いながら勇治につめよると、
「ロボットが家族だぁ~? クックックッ。面白いジョークを言うお嬢ちゃんだなぁ。……ロボットは、どれだけ高性能になっても、人間の道具にしかなれないんだぜ?」
という小馬鹿にしたような声が愛菜の後ろで聞こえた。
これは勇治が言ったのではない。勇治は愛菜の目の前にいる。
このゾッとするほど冷たい声は、アケディアだ。アケディアの左右には手下の
「さ……サーペント団⁉」
愛菜と勇治はおどろき、同時に
直後、バトラーが素早い動きで愛菜と勇治の前に出て、悪党三人組とにらみあう。
チェイサーとキーパーも、「
「じ、ジョークなんかじゃないよ! お母さんが言っていたもん! 遠くない未来に、人間とロボットがパートナーとなって仲良く生きていける世の中になるって! ロボットを悪いことに使っているあんたたちにはわからないでしょうけど!」
「フン。わかりたくもねぇな。おい、熊! ねこ! ココルを捕まえろ!」
アケディアが命令すると、熊坂とねこは、
「夕飯どきに働かせるのやめてくれよぉ~。腹減ったぁ~」
「に、にゃあ……。わたしと熊坂さんばっかり働かされてる……」
と、それぞれ
しかし、その三秒後、二人は吹っ飛ばされていたのである。
バトラーが目にも止まらぬ
ねこは、「ふにゃにゃ⁉」と叫びながらも空中でくるりと回転して何とか着地した。ロボットスーツで運動能力がアップしているとはいえ、ものすごい体の
でも、のろまで体が大きい熊坂にはそんな体操選手みたいなことはできない。吹っ飛ばされた熊坂の巨体は、またもやアケディアを
「ぎ、ぎえぇぇ~! 重い~!」
「に、にゃあ~! アケディアさん、熊坂さん、だいじょうぶですか~⁉」
「ね、ねこ! あの執事みたいなかっこうをしたロボットは、かなり高性能だ。人間が
「は、はい……」
ねこは顔をくもらせて少しの間ためらっていたが、やがて、左腕につけている腕時計型コンピューターをカチャカチャと操作しだした。
「な……何をする気だ?」
勇治が警戒していると、ココルが急にベンチから立ち上がり、下を向きながら「うー! うー! うー!」と騒ぎだした。
「……あれ? 地面が
愛菜がそうつぶやいた直後、
ズ……ズゴゴ……ズゴゴゴゴーーーっ‼
足元の地面が
愛菜と勇治は「う、うわわ⁉」とおどろいて尻もちをつく。
地下から現れたロボットは、直径一三〇センチほどで、ヘビやムカデみたいに体をうねうねと動かしている。
「このモジュール型ロボット、ニュースで見たことがあるぞ。最近、何者かによって盗まれたレスキュー隊の人命救助用ロボット『ムート』だ! サーペント団が盗んでいたのか!」
勇治がそう叫んだ。
モジュール型ロボットは、モジュールと呼ばれる小さなロボットを一つ一つつなぎ合わせてできている。ムカデなどの
中でもこのムート(ドイツ語で勇気)は、たくさんの災害現場で活躍していた高性能なモジュール型ロボットだった。サーペント団はそれを二週間前に
「キュキュー!」
会話機能がないムートは、独特な
「ココルを守れ! ココルを守れ!」
チェイサーが四本の腕を伸ばし、ムートを捕えようとする。しかし、ムートは体をうねうねと動かして全てかわした。
ココルは、自分におそいかかろうとするムートをボーっとした表情で見つめている。逃げようという気はないみたいだ。
「
ムートがココルの体に巻きつこうとした直前、キーパーが
ムートの体の
「勝利! 勝利! 今日は活躍できた!」
キーパーはムートをやっつけたと思い、ガッツポーズをとる。
「キーパー! 油断をしてはいけません! モジュール型ロボットは体がバラバラになっても平気なのです!」
バトラーが
「キュキュー! キュキュー!」
バトラーが警告した直後、バラバラになった
さっきも説明したとおり、ムートの体の
モジュールたち十二体は、体に
ビュッ! ビュッ! ビュッ!
と、ネバネバの
「行動不能! 行動不能! ぐ、ぐぎぎぎぎ! 何じゃこりゃぁ~!」
強力な粘着液をかけられたキーパーとチェイサーはその場から動けなくなってしまった。この液体は、アケディアにムートの改造を命令されたねこが各モジュールに武器として
「愛菜! 危ない!」
モジュールたちは、ココルのそばにいた愛菜にも粘着液をかけようとした。
しかし、勇治が愛菜を突き飛ばし、かわりに勇治に粘着液がかかった。
ドタンと
「ゆ、勇治!」
「こっちに来るな! 粘着液でおまえまで動けなくなるぞ! バトラー、愛菜を
「
バトラーは空高くジャンプして、モジュールの一体に飛び蹴りをくらわせた。
強力なキックによって、モジュールは遠くまで吹っ飛ぶ。
しかし、かなりがんじょうなボディらしく、
モジュールたちは、この執事ロボットはかなり
そして、突然、パッ、パッと別々の場所へと散らばった。
「む? 何をする気でしょうか……?」
モジュールたちは、木のかげや草むらの中に身を
ビュッ! ビュッ! ビュッ!
木のかげや草むらの中から、粘着液が飛んでくる。
「し、しまった!」
バトラーは一発目、二発目、三発目はかわすことができたけれど、四方八方から飛んでくる粘着液をかわしきれず、ついに背中や左足に当たってしまった。
「キュキュー! キュキュー!」
モジュールたち十二体はコロコロと回転して合流し、ガチャン、ガチャンと合体した。
そして、元のムカデの姿にもどったムートは体をくねらせて飛び、バトラーにタックルをした。バトラーはあおむけに倒れ、背中の粘着液が地面にくっついて動けなくなった。
「愛菜お嬢様! ココルを連れてお逃げください!」
バトラーはそう叫んだ。しかし、ムートは体をうねうねさせながら素早く移動し、ココルと愛菜の逃げ道をふさいでしまったのである。
「ムート。あなたは、たくさんの人の命を救ってきたロボットなんでしょ? こんなひどいことをするのはやめて!」
愛菜はムートにそう呼びかけたけれど、ムートは「キュキュー! キュキュー!」と鳴きながら愛菜とココルに飛びかかった。
「き、きゃあ!」
ムートはヘビみたいに巻きつき、愛菜とココルはドタンと倒れる。
「む、ムート! お願い! わたしたちをはなして!」
「何を言っても
アケディアが下品な笑い声をあげ、愛菜とココルに歩み寄る。
(こいつら、ロボットにウイルスを感染させて、悪いロボットにしているのね。許せない!)
愛菜は怒りに身を
ココルは、「泣カナイデ、愛菜チャン。泣カナイデ、愛菜チャン」とまたもや言葉の無意味な繰り返しを始めて、自分の身に危機がせまっていることに気づいていない様子だ。
「熊、ねこ。ロボットと博士の娘を連れて逃げるぞ」
「ええぇ~? 二人も運ぶのは
「アケディアさん。さすがに人間を
「ヘッヘッヘッ。博士も大切な娘が誘拐されたら、心配するだろう。
ロボットの開発をしている博士だから金をたくさん持っているだろう。そう考えたアケディアは、愛菜も誘拐して
「や、やめろー! 愛菜を連れて行くなーっ!」
勇治が、声がかれるほど叫んだが、アケディアたちはココルと愛菜を公園の前にとめていたトラックの
「ち……ちくしょーう!」
勇治の
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