18.1933秋 爛熟時代の終焉

 中京商の夏3連覇によって閉じた夏の甲子園の2ヶ月後、もう一つ大会が開催された。明治神宮競技大会。野球をはじめ、水泳や陸上などもある今でいう国体のようなものである。この年の野球部門に中京商と明石中は選ばれた。10月31日から始まったこの大会で、中京商は浪華商を4対0、松本商を3対1と破り、決勝へ進出。吉田は絶好調で18回を投げて、27奪三振。失点は松本商に四球で出した走者をエラー絡みでホームに返した1失点のみであった。


 一方の明石中も北海中を3対1、大正中を3対0と破り決勝へ進出。延長25回の最後にバックホームが高めに浮いてしまった嘉藤が好調で2試合で7打数3安打。中田の投球も冴え16.2回を投げて1失点。楠本はというと、初戦の北海中戦では先発し、初回には安打を放ち盗塁まで成功させたものの2回で途中降板。続く大正中戦では代打で1打席立ったのみであった。体調が優れない中での大会だった。

 11月3日、大観衆の中、延長25回を戦った両校が決勝の舞台に登場した。春の準決勝、夏の準決勝に続き、この年3度目の対決である。春は明石中、夏は中京商が勝ち1勝1敗。どちらも1点差の好ゲーム。中京商の先発はもちろん吉田。オーダーは延長25回のときと全く同じである。明石中の先発は中田。楠本の名はなく、ベンチスタートである。


 午前10時、プレイボール。先に点をあげたのは明石中だった。2回表、先頭の中田が四球で出塁すると、続く吉岡のバントを吉田が2塁へ悪送球。続く深瀬のバントは中田が3塁でアウトにされたものの、次の嘉藤が四球を得て一死満塁。この年、吉田と対戦した2試合33イニングで1得点しか挙げられていない明石中はここでスクイズを選択。8番福島が見事に決めノーヒットで先制点をあげた。続く2回裏。先頭の神谷が遊ゴロを打つものの嘉藤が悪送球し出塁。岡田がバントを成功させ、野口の投ゴロの間に神谷が3進。二死三塁となったところで、鬼頭のニゴロを吉岡が悪送球。こちらもノーヒットで同点に追いついた。

 3回裏、中京商は杉浦がレフト線へ二塁打を放ち二死ながら得点圏にランナーを置く。次の田中が四球出歩いた後、神谷が一二塁間を破る安打を放って勝ち越し。中京商は延長25回から合わせて28イニング目にしてついに中田からタイムリーヒットを打つことに成功した。


 6回表、明石中は横内が右中間へ二塁打を放つ。続くのは4番中田。吉田の球を打ち返し、打球は右中間を破った。同点三塁打。これも明石中にとって、33年春の初対決から数えて実に40イニング目にして初のタイムリーヒットであった。

 6回裏、7回表と3者凡退の後、7回裏中京商の攻撃。先頭の野口が四球で出塁。次の鬼頭のバントが内野安打となるも野口が二三塁間に挟まれてしまう。鬼頭は二塁まで到達できたが野口はアウト。ごたついたものの3回以来の得点圏である。バッターは延長25回に終止符を打った大野木。中田が放った投球を打ち返すと打球はフラフラっと上がった。当たり損ねの打球であったがこれが右中間に落ちる。25回のときは二塁へのゴロであったが今回はタイムリーヒット。中京商再び勝ち越しである。


 8回表、明石中は三者凡退。8回裏、中京商は二死から岡田のライト前ヒットに野口の放った三ゴロを二塁手の吉岡が捕球ミス。一二塁と中田を攻め立てる。続く鬼頭の打球はレフトへ上がる。しかしヒットになることなくチェンジ。

 9回。最終回である。明石中はこの日2安打と好調な3番横内。打った打球は三塁手の福谷のグラブに吸い込まれる。しかしここで福谷が悪送球。同点のランナーが出塁した。続くのは4番中田。横内とともにこの試合安打を放っている打者である。しかし外野へ打球を飛ばすもレフトフライに倒れる。次の吉岡も遊ゴロに倒れ二死。あと一人。次の打順は6番深瀬。


 ここで明石中竹山監督が動く。代打、楠本。吉田正男対楠本保。中京商・明石中を共に弱小校から全国大会の決勝戦まで導いた立役者同士の対戦となった。吉田がボールを投げる。楠本がスイングする。ボールがバットに当たる。打球は上に飛び、そして捕手の野口のミットに収まった。捕邪飛。11時56分、試合終了。


 中京商と明石中によるこの年3度目の対戦は中京商の勝利に終わった。同時にこの大会をもって、吉田と楠本の5年に渡る中等野球生活は終わりを告げたのである。

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