第28話 2度あることは3度ある
~回想~入学式の朝
その日は大雨だった……私はカッパを着て傘をさして高校に向かっていた。
車が目の前の大きい水たまり目掛けて猛スピードで飛ばしてきた。
歩道にも水しぶきが大きく跳ねた。
その時1人の傘をさして歩いている男子高校生が通りかかり豪快に転けた。
水しぶきがかかりその男子高校生はびしょぬれになった。
「大丈夫ですか? 」
私は思わず声をかけ、持っていたハンカチで男子高校生の服をふいた。
「大丈夫ですよ! ありがとうございます……! 急いでいるので」
そう言って、その男子高校生は走って行き、友達と合流した。
後日、高校に行くため歩いていると前の方には、こないだの男子高校生がいた。こないだの友達と一緒のようだ。
「
その男子高校生は権太という名前なのか。そこで初めて名前を知った。
「僕は吹奏楽部か軽音部にしようかな。音楽好きだし」
その男子高校生が部活一覧を見ている。
「俺はウエートリフティング部と吹奏楽部迷ってた! 権太が行くなら吹奏楽部のが楽しそうだな! 」
隣の友達はマッスルポーズをしながら言った。
~部活見学~
結構たくさんの人達が部活見学に来ていた。
こないだの権太くんが来ている。
私達は教室の椅子に学科順に座らさせられた。
どうやら権太くんは私と同じ学科だったようだ。
しかも権太くんは私の隣に座ろうとしていた。
なんか権太くんは私のことをじっと見ている。
チラチラ見ていたのがバレたのかな?
権太くんは椅子で派手に転んでしまった。後ろにいた友達も驚いている。
周りにクスクス笑われて、しかも権太くんは腕を怪我していた。なんかいたたまれないなくて私はまた思わず話しかけていた。
「大丈夫ですか?腕怪我されてますよ」
「だ、大丈夫ですよ! 」
権太くんはうろたえていた。初めての部活見学で緊張しているのだろうか?
私はポーチから
「はい。私は普通科の小豆沢蔵子です!よろしくね」
権太くんを見てると面白いな。もっと仲良くなりたいな。
「あ、ありがとうございます!僕は普通科の橘権太です」
橘くんは真っ赤になっていた。目立って恥ずかしいんだろうなと思った。
~楽器選び~
結局私は吹奏楽部に入った。橘くんも入部したようだった。
「私が吹奏楽部部長の小栗沙耶や。みんなよろしゅうな。担当する楽器は決めてきたかな?」
小栗部長が私達に訊いてきた。
「僕はホルンがいいです。体力がつきそうだから」
みんなどんどん決めていくな……
「橘くん……たちちゃんでええかな?」
小栗部長は名簿を見ながら橘くんに言った。
「はい。小栗部長」
橘くんは軽く返事をした。
「楽器の経験あるかな? 」
小栗部長がにこにこと橘くんに質問した
「ないです」
橘くんは即答した。
「せやったらフルートかトランペットがええで」
小栗部長がフルートとトランペットを持ってきた。
私だったらかっこいいからトランペットがいいな。
「じゃあトランペットで」
橘くんはトランペットを指さした。やったあ! 私と同じ考えだ!
「小豆沢さんにはフルートが似合うと思うな」
さっき私のことをずっと見ながら自己紹介してた人だ。
「初めまして。普通科の
不知火くんに気さくに話しかけてもらって緊張がほぐれた。
「嬉しいですけど私はやってみたい楽器があるんです」
フルートもいいけどトランペットの方がかっこいいよね。橘くんも気になるし、やっぱりトランペットだな。
「小豆沢さん……あずちゃんってええかな?」
小栗部長はニコリと言った。
「部長。光栄です」
あずちゃんってあだ名で呼んでもらえた~!
「あずちゃんは楽器は何がええんかな?」
小栗部長は私の方に前のめりで質問した。
「……トランペットです。」
なんか橘くんと同じがいいからトランペットって言ったみたいで恥ずかしい。まあ同じがいいからなんだけど……
「僕もトランペットがいいです」
不知火くんが急に楽器を決めた。
さっきまでフルートがいいって言ってたような……
結局新入生のトランペットは私と橘くんと不知火くんと普通科の
大人しそうな真面目な男の子で私のことをチラチラと見ていた人だ。
「初めまして。普通科の天沢
よかった。話しやすそうな人で……
「僕は普通科の不知火駿一です。トランペット経験者です。よろしく」
不知火くんは得意げに言った。
経験者だったんだ。すごいなと思った。
「私は普通科の小豆沢蔵子です。初心者ですがよろしくお願いします」
私は緊張しながら自己紹介した。
「僕は普通科の橘 権太です。同じく初心者だけどよろしくお願いします」
『同じく初心者』か。『一緒に頑張ろうね。橘くん』とか言えたらいいのに
「僕は経験者だからいつでも教えてあげるよ」
不知火くんが橘くんを背にして私だけに向かって言った。
「それはよかった。僕にも教えて下さいね」
橘くんはわざわざ不知火くんの前に回り込んで言った。
「教えてあげるよ! ビシバシと! 」
不知火くんは橘くんを睨みつけた。
橘くんと不知火くんは面白いな。
〜回想終わり現在〜
「最初の方は
蔵子さんが語り終えたようだ。僕が想う前から僕のことを想っていてくれたのか。
「じゃあ僕と結婚してください」
僕は感情が抑えきれずに蔵子さんに言った。
「それはできない」
この流れで断られるとか思わなかった。
「誠のことを裏切れない。今まで私のことを支えていてくれたとっても大事な人なんだ」
蔵子さんにそんなことを言われると辛いよ……
聞きたくない……
そう言って、蔵子さんは去ろうとした。
僕は蔵子さんの手を引っ張り自分の方に引き寄せた。
「どうせ蔵子さんのことだから僕に黒幕探しを止めさせるために言ってるんでしょ! 」
「黒幕探しは……やめとけ。いくら権蔵がいても橘くん自身は生身だ。普通の人なんだ。勝てるわけがない」
蔵子さんは淡々と言った。
「そんなことやってみないと分からないじゃないですか? 」
「それにこの問題はもう
なんで蔵子さんはそんなに心配そうで寂しそうな顔で言うんですか?
「また同じことを繰り返しているじゃないですか! 僕を守るためにすぐ去ろうとする。もう同じことは繰り返したくないんでしょ! 」
「そうだ。私だって橘くんのことが好きだ!一生懸命努力した……でも今回のことでわかったんだ。私も普通の女だ。私では橘くんを守りきれない……誠も失えない……もう無理なんだよ。来世でまた出会い今度は一緒になろう」
僕は蔵子さんをさらに引き寄せ強引にキスをした。
「そんなの勝手すぎます……僕は守ってくれなんて頼んでません! 僕は諦めませんから! 蔵子さん」
「じゃあな。橘くん」
蔵子さんは泣いていて僕を置いて帰って行った。
僕もその場で号泣していた。
「つらいのう……」
権蔵は僕の頭をぽんぽんとして慰めてくれていた。
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