第8話 中川海未

僕は喫茶店に『中川海未なかがわうみ』なる人物を呼び出した。

僕はココアを飲みながら待っていた。

ついにその人物がやってきた……!

「まさかあなたが『中川海未』さんだったとは…如月きさらぎさん…」

僕はココアを飲む手が震えた。


「そうよ。私の本名は中川海未……両親が離婚して今は如月海未。高校卒業後母親と一緒にアメリカに行ったの」

如月さんが椅子に座って僕を見る。


「下の名前はどうして「めぐ」に?」

ボクは気になりいてみた。


「私とありすは生まれ変わりたくて名前を変えたのよ。才能に『めぐ』まれますようにめぐって私がつけたの」


「ありす? 笹野ありすのこと覚えているんですか? 」

如月さんも笹野ありすのことは忘れたと思っていたから驚いた。


「当たり前じゃない。なぜ私が忘れるの? 忘れたのは蔵子でしょう? 」

如月さんがぽかんとしているので、僕は4の儀式によって笹野さんの記憶が消され、会社の人間も小豆沢蔵子と認識していることを説明した。


「それはたぶん蔵子は橘さんの記憶をなくしたことにより大きく変わりすぎてしまった。その補正をするために橘さんの会社の人間の記憶を改変されたじゃないかしら」

如月さんが僕の左側を見ながら言った。


「わしはそんなことしてないぞ! 」

権蔵が首を横に振る。


「たぶん橘さんと権蔵さんは長いこと一緒に居るから無意識に橘さんの4の儀式のお願いの効果が強まって記憶が消えたんだと思うわ」

また如月さんが左側を見ながら言った。


「なるほどじゃ」

権蔵が納得している。


「もしかして如月さん……権蔵のこと見えてます……るの!?」

タメ語でいいと言われたが抵抗があるな。


僕の左側には権蔵が座っている。もしかして……


「慣れないなら丁寧語でもいいわよ。実を言うとね。最初会った時から見えてたわよ。橘さんが倒れて運ばれた時に蔵子と権蔵さんが話してるのを聞いてピンと来たの。蔵子と橘さんが上手く行けば誠も蔵子のことを諦めるかもって、その時は思ったの。それでお見合いの時に橘さんを強引にえにしくんの結婚式に連れてきたのよ」

如月さんは紅茶を1口飲んだ。


「ということは4の儀式をしたんですか?」

権蔵が見えるということは4の儀式をしたってことだ。


「そうよ。父親のことを忘れる代わりに母親が苦労しないぐらい稼げるようになりたいと願ったのよ。だから私には父親の記憶がないの。忘るの儀式のことは蔵子とアメリカで再会して思い出したのよ。高校時代は前髪で目を隠して分厚いメガネをかけたの。アメリカに行ってイメチェンして私はだいぶ変わったわ。でもありす……蔵子は私が変わっていたのに覚えていてくれた」

如月さんは微笑んでいる。


「あの時のおなごか! 」

どうやら権蔵は思い出したようだ。


「正直蔵子さんのことどう思っていたんですか? 高校時代から」

僕はそう言ってココアを1口飲んだ。


「高校時代の蔵子のことは何もかも手に入れていて羨ましくと妬ましく思っていたわ。蔵子がいなければもっと上に行けるのにって。でも話してみると違ったわ。蔵子は欲しいものを何も手に入れられなかった」

如月は寂しそうな顔をした。


「高校時代に蔵子さんが脅迫されていたんですが、何か関係することは覚えていませんか? 」

僕は必死になって言った。


「私は1度橘さんが学校の2階の階段から突き落とされそうになったのを1階から見たのよ。顔を見えなかったけど、学ランを着ていたから男性じゃないかしら。蔵子が2階に来たからそいつはどこかに行ってしまったけど……」

如月さんがひそひそと言った。


「えっ僕は階段から突き落とされそうだったんですか? 」

僕はそんな危険な目にあっていたのか……


僕は『階段から突き落とされそうだった』『学ランを着ていた』をメモした


「そうよ。橘さんはありすに守られていたのよ」

如月さんは寂しそうに言った。


「次は誰に話を聞きに行くの……? 」

如月さんはニコッと言った。


天沢智あまさわさとる不知火しらぬいに話を聞きに行こうかと思ってました」

智は同窓会の時飲みに行こうと言っていたし、不知火にはこないだの飲み代払ってもらわないといけないしな。


「し、不知火くんに? 私も行っていいかしら」

急に前のめりで如月さんが言ってきた。


何で如月さんは不知火との飲み会に行きたいんだろう……?


「ええ。僕1人が誘ってもあいつは来なそうだからちょうど良かったです」

不知火は女性には優しいからな……男には厳しいが。


そして如月さんに縁から聞いたことを話した。


「吹奏楽部の合宿に行ってない人かあ。小清水くんと青柳くんかな?それだけでは決められないよね」

如月さんは頭を悩ませる。


そして特に明確な犯人が浮かばず僕達はそれぞれ帰ることにした。


僕が自分の部屋に帰る道で権蔵がぽつりと呟いた。

「如月は不知火のことが好きだったんじゃな」


「そりゃあ。ないだろ!? 不知火だぞ」

あのナルシストで自己中で人を見下しているようなやつだぞ。如月さんみたいに姉御肌の面倒見の良い人が好きになるわけないだろ!


「人の好みは自由じゃろうが。笹野ありすも変わった好みをしてるじゃろうが」

権蔵は僕をじっと見ながら言った。


「そうそう。笹野さんも変わった好みしてるよな……」


今は記憶を失って今猿さんと付き合っているのは小豆沢蔵子だから……

笹野ありすってことは……


「って僕のことかい!」


「今までのがおかしいじゃろ! あんな美人が性格は悪い、容姿は悪い、稼ぎもない、告白する勇気もないやつを一途に想うなんて……奇跡じゃったのに……」

権蔵はぶつくさぼやいている


「やめてやめて! 僕のメンタルが崩壊する! うん。権蔵の言う通りだ……! 人の好みは自由だね! 」

自分で言ったことがブーメランで返ってきた。

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