15 黒幕の正体!?
右手で蒼井くんの義手を持ち、水中を泳いでいく。
ううっ、制服を着ながらだから泳ぎづらい。中に競泳水着を着てるけど……
左手で蒼井くんの腕を握り、なんとか顔を水に入れないようにした。
ごめんなさい、ムリさせちゃって。
彼の右手を見てみる。紫色に腫れてる。強くぶつけた……いや、この跡、まるで上履きで踏まれたような……
「蒼井くん、大丈夫?」
「げほっ、げほっ……平気」
(体がうちつけられたみたいに痛い)
そうだ、3メートルの高さからヘタな姿勢で飛び込んだら痛いよね。ごめんなさい、うまく飛び込めなくて。
「右手は……」
「大丈夫だから」
手の様子を確認しようとしたけど、パシンと突っぱねられた。
よ、よけいなお世話、だったよね。
「機転を利かせたつもりみたいだけど……
結局コイツらをどうにかしなければ、ゲームオーバーだ」
プールサイドまで着いたけど、そこには黒水晶の傀儡がわったーを塞ぐ。
(腕、返して)
「え、う、うん」
蒼井くんに義手を返すと、それをはめて、自力でプールから上がった。
「コイツらは簡単に片付けられる。けど、アイツは心の隙がある限り、アンタを排除しようとする。黒水晶の持ち主はソレにつけこんだんだから、彼女はアッサリとアンタには屈しない」
「じゃあ、黒水晶をなくすには……」
「アイツの意思を変える。アンタの、思いの力で」
濡れた体で、右手を空気を切るように振る。その右手で、目の前の人たちに触れながら前に進んだ。触れた人たちがバタバタと倒れていく。襲いかかる人たちも、蒼井くんに触れればピタリと黙って、膝を崩した。
すごい、やり手の格闘家みたい!
……わんも、できることをしなくちゃ。
ギシ、ギシ、とハシゴを使う音がする。降りてきたんだ……児玉さん。
けど、顔のアザは消えないまま。パールを与えたのに、状態が変わらない。それに……通行手形を持ってないのに、彼女の周りには黒水晶が浮いているのが見える。
信じられなくて、怖くなったけど、わんもプールから上がって、まっすぐに児玉さんを見つめた。
「……チッ、あっさりと引き上げやがって」
児玉さん……すごく、傷つくよ。スポーツマンシップって、正々堂々と戦ってお互いを高め合うものだって、コーチ、言ったじゃない。相手を蹴落としたって、しょうがないよ。
どうして、こんなことをするの? 本音もそうなの? 教えて……あなたの過去に、なにがあったの?
『ギフト』に込められた思いを覗きに、歩き出し……彼女の黒水晶を、握った。
(グレン、陸上やるの? じゃあアタシは水泳やるわ)
(なぜだ翠! 今までハードルがんばってたじゃないか!)
(アンタとくらべれば足手まといだったわよ。
……もう、陸上とかあきたし)
児玉さんと……児玉くんの声だ。
こんなこと言うとまぎらわしいな。児玉さんと、お兄さんの会話……
翠さん、小学校は陸上やってたんだ。
(兄の七光りとか、思われたくない……
アタシはアタシなのに、どこで走っても『児玉紅蓮の妹』……
アタシは、『児玉翠』なのに!)
お兄さん、昔から強かったんだ。
それで、児玉さんは自分自身としての評価をもらえなかったから、転向して水泳をはじめたんだ。
……まだ、記憶の続きがある。
(沖縄から来ました、内海真珠です。
……よろしくおねがいします)
(専門、受賞経験は?)
(自由形、です。沖縄のほうで、何度か受賞しました……)
(なに、アイツ。沖縄出身ってわりにテンションひっく。声ちっさ。
ウザいなあ……ん? いま、こっちを見た瞬間目をそらした?
……そんなに怒らせたくないってビクついてんの? やっぱウザすぎ)
ああ、思ってたな、児玉さん。もうすでにこのときから、わんのことが気に入らなかったんだ。
(アタシと記録が近い……ビビリのクセに?
アタシが一番にならなきゃ……気に入らない、コイツ!)
それから、ずっとわんの隣のレーンで泳ぐようになったんだよね。
やっぱり、本当に目ざわりだったんだ、わんのことが。原因は、わんがいつも児玉さんに怯えてること、児玉さんと実力が互角だということ。
中等部で一番速い、1個上の安馬先輩は、おとなしいけど後輩の面倒見がいいから、児玉さんにとってはライバルであり、いい先輩だった。だから敵意はプールの中以外では向けなかったんだ。
まともに会話をしなかったけど……児玉さんは、わんをライバルだと思ってたんだ。
うん、わかった。こんなにたくさんの人を巻きこんでまで、わんを恨んだ理由が。
まだ、ナゾは残ってるけど……
黒々としたような思いが頭に張りついてくる。大丈夫、大丈夫……
清水くんが、いる。
「真珠ーっ!」
清水くんの声がする。そう、彼はいつも、わんのことを名前で呼ぶ。どうして、いきなり名前で呼んだんだろう。今なら、きっと宝石と同じ名前だから、そう呼んでるんだって納得がいく。
「お前なに無茶してんだ……! 自ら呪いに行くなんてフツー考え……」
「だい、じょうぶ……ほら、パールの『ギフト』、あるから……」
「真珠、お前な……黒水晶を受けて自我を保てるってよっぽど精神が強くなきゃできねえんだぞ……
やっぱ、パール持ってるから黒水晶に打ち勝てるのか……?」
とりあえず拭いとけ、とタオルをたくさん差し出した。わったーが突き落とされたのを見たのかな。
髪がぬれてはりつく。制服も、水を吸って重たくなってる。蒼井くんは自力で立ち上がるけど、いつも以上にフラついてて危ない。
また、あのときのように殺気立たせて、飛び込み台にいる児玉さんをにらみつけた。心が読めなくても、金剛さんを傷つけたこと、脅したことがものすごく許せないと言ってるのがわかる。
「なあ真珠、アイツって普段もアレなのか?」
「ううん、わんにはにらみつけるくらいしかしなかったよ……
だから、黒水晶をもらっちゃって、キライって感情を、大人数を使って言おうとしたんだ」
「なに? 狙いはお前だけだったのか!?」
「うん……ひとりが言うより、大人数で攻撃したほうがひどく傷つけられるからって、思った……のかな……
清水くん、児玉さんの元々の『ギフト』の宝石言葉ってなに?」
わんの予想に、あんまり納得がいかないと言いたげに首をかしげる清水くん。
……そうじゃない、かな。
「アイツの、エメラルドの『ギフト』の宝石言葉は『幸福』……なぜそこまで人を、真珠を恨む!?」
「なによ、アンタまで……
なんでだれも、アタシを幸せにしようとしてくれないのよおおお!」
ピィィィィッ! と、またするどいホイッスルを鳴らした。
ああっ、またゾンビたちが動いた……! しかも、その中の一人の黒水晶を口に入れて、また自分の『ギフト』を黒水晶にした! ああっ、また顔に黒いアザが!
けど、わんと清水くんのパールがあれば……!
「オイ、そのアザは!」
「キヨミズ様からいただいたものよ……あの方に黒水晶を献上すればアタシの幸福は確実なの! ジャマしないで!」
「キヨミズ!? ソイツは」
清水くんが言い切る前に、児玉さんは彼に向かって機関銃を撃つように激しく鋭く、黒水晶を放つ。これじゃ、清水くんが痛いどころじゃなくなる……!
えーと、蒼井くん、こんな感じにしたのかな……!
パールを集めて、清水くんの前に盾をつくった。カカカカカ、としばらく弾く音がした。か、間一髪で守れた……!
攻撃が止まる音がした。けど、盾を解除したら、目の前には児玉さんの姿がなくなっていた。いつの間に……!
「し、清水くん……」
「……まさか……」
清水くん、またありえないスピードで頭のなかをめぐらせてる。
まさか、って言ってたし、なにかわかったことがあったのかも。
それにしても、児玉さんがわんをねらった理由は、わんがキライなことを伝えるため、じゃないの……?
だって、黒水晶は自分の本音を攻撃に変わっちゃうものなんだよね?
……宝石言葉が『気分転換』だって言ってたけど……
児玉さんにとっての『気分転換』って、わんを悪く言うことなの?
『現実逃避』としてのわんへの攻撃なら……自分が一番になれないことの、責任の押しつけ?
……あれ?
どうして、いつも児玉さんより遅くなるように泳いでるのに、わんをライバルとして見てるの?
いつもぼっちだからウザいっていうのは、ライバルとして見る理由にならないよね……?
キヨミズっていう人に黒水晶をあげるのは、自分が幸せになるため……?
(アイツ、だまされて黒水晶をもらったのか……)
「アイツって、児玉さん!?」
「ああ、おそらくだれかから黒水晶をもらった。現実逃避したいっつー思いとかを、利用されたんだ……」
「あの、それについてなんだけど……」
「どうした?」
「児玉さんは……
わんのことが、キライなんだと、思う」
「……………………」
また、深く考えこんだ。
けれどそのときの清水くんの顔は、なんだか、かわいそうだとあわれんでるみたい……
……わんは、やっぱり、もっと前から真正面に児玉さんと向き合うべきだったって、後悔してる。
じゃなかったらきっと、こんなことにはならなかったから。
「児玉さんは、どこに行ったの? もう、帰ってこないことなんてないよね!?」
「おそらく、アイツは自身の『ギフト』を、キヨミズってヤツに渡すつもりだ。
いやあ、だれなんだろうなぁキヨミズってヤツは?」
(ぜってぇ、捕まえてやる……!)
そのキヨミズさんに騙されないうちに、はやく児玉さんを助けないと!
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