13 ジュエルのハート

 パリン、パリン、と、すこしずつ二人の『ギフト』が割れていく。

 ああっ、このままじゃ二人の命が!

「ダイアが助けるの!?」

「ああ、いいか? とにかく目を閉じて、二人の名前を呼ぶんだ。

 そうすれば二人に気持ちが伝わる……

 真珠、一応手形を持たせてやれ」

 わかった、とさっきから左手に持ってた通行手形の水晶を金剛さんに渡す。

「うっわ、チョーキレイ! 内海ちゃんたちもなんかキラキラしてんね!

 けど……二人の輝きを取り戻せるのは、ダイアだけなんだね……よし、やってみるっ」

 清水くんのことばを信じて、金剛さんは手形を返し、悶え苦しむ二人の手をにぎった。

 ……けど、清水くんの心のなかでは、言ったこととはちがうことを考えていた。


(すまねぇな金剛、お前にはちとキツいモンを見せちまう)


 そうだ……二人が金剛さんに言った言葉は、本心……なんだよね。

 どうしよう、わん、金剛さんに「二人の言ったことは本心じゃない」って言っちゃった!

 金剛さんに、ウソ、ついちゃった……


(天良るりの『ギフト』はラピスラズリ、宝石言葉は『真実』。伝木まりんの『ギフト』はトリマリン、宝石言葉は『忍耐』。

 黒水晶に当たり、二人は今までガマンしてた思いをさらけだしたんだ)


 ガマンしてた……金剛さんが自慢話をすることが、たえられなかったんだ。

 自分たちの話を聞いてほしかった、けど……金剛さんに逆らえなかった、のかな。

 でも、だからって金剛さんを攻撃していい理由にならないよ!

 たしかに金剛さんには苦しい思いをすることになるかもしれない……

 けど、金剛さん、きっと二人の思いを知ることができたら……なにか、変われるはずだよね。

 人間関係がよくなって、さらにダイヤモンドの『ギフト』が輝くはず!

 なんて……思ってたのに。

「乃愛……アンタ、自分以外のこと、見下してるんでしょ……」

「ウチらにはないことだって、決めつけてるから……」

「ちょっと、まだ治ってないじゃない!」

「金剛」

「なによぉ!」

 どなる金剛さんに、清水くんは静かな声でさとした。

「これが、現実だ」

 決して、自分に対して褒められるばかりじゃない。

 わんは反対に、まわりの人は自分を悪く思うだろうって、思ってた。

 けど、ちゃんと耳をすまさなきゃダメなんだ。

 しっかりと人の声を聞けば、だれかが自分を良く思ってくれるんだと気付く。

 けど、賞賛されてる人にも、必ず一人はよく思わないひとがいる。

 聞こえないフリをしたくなるけど……その人だって、ちゃんと金剛さんを見てくれてるんだ。

「ダイア……だれも見下してなんかないし……」

「ああ。ただ、相手にはそう伝わらなかっただけだ」

「じゃあ、どうすればよかったのよぉ……」

「なぁに。だからこそ、今があるんだろ。

 二人の言葉に耳を傾けてみろ。二人だって人間だ、お前に話したいことは山ほどある。それに素直に答えることが、最善策だ」

 

 二人の手を握りながら、そっと床に落とした。

 ぎゅっと、力を強めてる。

 不安……だったの? いつも、周りは友達に囲まれてるのに?


(やっぱり、ダイアを全部スキでいてくれる人なんて、いないんだ……)


 金剛さんの『ギフト』がまたくもりだす。

 ピシッ、と、ヒビが割れる音がした。

 まるで、ガラスのハートが壊れたように。

 金剛さんが心から望んだものは、たくさんの友達に囲まれること、じゃなくて……

 自分を全て受け入れてくれる人、なんだ……

「いないよ、そんな人」

「は?」

 しまった、つい言っちゃった!

 口をおさえるけど、遅かった。

「……だれかと一緒にいれば、結局イヤなトコに、目がいっちゃうよ」

「アンタになにがわかんのよ……! 清水くんがココに来るまでずっとぼっちだったじゃない!」

「うん、ぼっちだったよ。どうしても人のイヤなトコが目に入っちゃうから……自分のイヤなトコを見られたくないから、ずっと逃げてきた。

 わんは、弱虫で、怖がりで、死にもしないのに周りに怯える毎日を送ってきた。こんな自分に運命の人なんて来るはずがないって、『ユタ』の予言を否定したよ。

 だから清水くんって、よくよく考えるとおかしいんだよ」

「なんでオレに弾をとばすんだよ!?」

「こんなわんと、友達になりたいって言ったんだよ? 自分を信じてくれるからって……

 わんはむしろ、モテモテなのにこんな自分を友達にして、大丈夫なのかなって、いまさら思ってきて……」

 心が読めるのに信じられないっていうのは、ワガママだよね。

 まだ、しっかりと人と向き合ってないなあ……

 けど、清水くんはわんの肩に手を置き、まっすぐな目で、金剛さんにも言ってるようにこう伝えた。

「オレは多くの手の内明かさねぇヤツに囲まれるより、一人の心から信頼できるヤツと仲良くなりてぇな。

 そこらへんは、どの世界においても同じだろ? いいなとたくさん褒めてくれるより、大事なものがあることくらいお前にもわかってるはずだ」

「けど……」

「自分の本音、お互い明かしてみようぜ。

 そうすりゃ本当の友達だ」

 金剛さんの顔が不安でゆがむ。

 自分のことをわかってほしい、けど、自分の悪口は聞きたくない、っていう矛盾が、彼女の頭のなかでグルグルめぐってる。

 これ以上、ムダなことはいえない。

 けど、このまま待ってても、二人は苦しみ続けるだけ……!

 バクバクと、心臓がひどく鼓動した。

 お願い、金剛さん、答えを出して……!

「……二人とも……」


「ムリ、させてごめんね……」


 ……うん。それが、金剛さんの本音なんだね。

 声と心が、リンクした。

 これなら、きっと二人の心に届くハズだよ。


(謝れって、言ってない……)

(……けど……)

(これくらいで怒るとか、バカみたい……)


「これが『真実』……かくしきれず、『忍耐』しきれず、爆発しちまった。

 そのヒビの隙間に、魔の手が入りこんだんだな」

「……ワケわかんないけど……

 二人とも、顔つきが柔らかくなったみたい……」

 二人が落ち着くと同時に、『ギフト』の傷が巻き戻しのように埋まっていった。

 午後の太陽の光をうけて、キラキラと、たくさんの色で輝いてる……

「……乃愛……

 アタシら、乃愛にヒドイこと言ったよね……?」

「ヘンなこと言ったけど、全然そんなこと思って……」

「ううん、いいの」

「え……?」

「だから、ダイアが自分のことばっか話してて、つまんないって思わせてごめんって言ったの。

 もうこれからかくし事はナシ! ダイアが欲しいのは取り巻きじゃなくて友達なんだから!」

「乃愛……」

「……まあ、ウチらも、カリスマモデルと仲良くしてて調子乗ってたトコあったしね……」

「てゆーか3人で遊びに行ったことなかったよね!? 今度一緒に原宿でおいしいパンケーキ屋行こっ!」

「いいけど、休日はずっと撮影とかじゃないの?」

「それに、たまにテレビに出てたりもするじゃん」

「いいのっテレビより友達だし!

 休日くらい友達のためならいくらでも空けられるって♪」

 金剛さんの『ギフト』も、目がつぶれちゃうくらいにまぶしく輝いてる。まわりに、虹を作っちゃうくらい。

 だからかな……3人の友情が、このキラキラを生み出したとなると、ちょっとうらやましいって思っちゃった。

「真珠おまえ……オレがおかしいとか思ってたのか」

「あ、あの、それについてはっ」

 つい、自分の本音を素直に言いすぎちゃって……!!

「ご、ごめんなさい……!」

「いやっ、素直なところがお前らしいって、お前の『ギフト』が言ってんだ。

 それでいいんだ」

 いい、んだ……そんなの、言われたのはじめてだよ。

 やっぱりおかしいよ、どうしてはにかんで言うの……

 けど、かくし事はナシなのが、本当の友情なんだよね。実際の3人だって……

 あっ、そうだ、この『ギフト』なら!

「清水くんっ」


(ああ、わかってる!)


 まるで目の前にごちそうがあるように、負けないくらいに目をキラキラとうるませてる。

 この『ギフト』なら、清水くんの口にあうはず!

 さりげなく3人に近づく清水くん。

 本当は入れるような空気じゃないから、さりげなく、なんて言ってもちょっと割りこむようだ。

「3人とも、ちょっと……」


「む……? 俺はなぜ寝ていたんだ……?」

 ぞろぞろ、と梅組の人たちが目を覚ましてきた。

 ど、どうしよう、なんて状況を説明すれば!?

 さすがに黒水晶のせいだとは言えないし……!

 3人もそれに気付いたのか、そして天良さんと伝木さんはどうして梅組に自分たちがいるのか覚えていないらしく、さっさと自分たちの教室へともどってしまった。

 ああっ、せっかくのチャンスが!


(まあ、これきりのチャンスってワケじゃねえし、下手にさわがせるのもアレだ。

 つーわけでオレたちもずらかるぞ!)


 と、テレパシーを送った清水くんは3人に、

「ほら3人とも、元のクラスに帰ろうぜ。もうすぐ6時間目が始まっちまう」

 と声をかけた。

 はーい、とけだるげっぽい声。

 けど、見事に3人ピッタリ揃ってた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る