12 パールの癒しのチカラ

 衝撃の事実でビックリさせられたけど、二人の仲直りでちょっとだけ、イイ雰囲気になって、だれもがその状況を静かに見守った。

 ……ただ、一人だけをのぞいて。

「オイ、蒼井、一体どうしたんだその腕は!? 事故で失った!? 言ってくれればオレ達色々手伝ったぞ!!」

「児玉、いまコイツらに口出しする空気じゃねぇだろ……!」

 悪気はないだろうけど、二人のところに来るのはもうちょっと後のほうがいいよ……!

 清水くんが必死に羽交い締めで止めるけど、児玉くんのルビーの『ギフト』がたくさん当たってるからか、顔や腕が赤くなってる。(あちちちち!!)って、心の中でさけんでる。

 な、なんとか助けなくちゃ……!

 と、思った瞬間。


 バタン、と、梅組の人が突然倒れた。

 と思いきや、ドタン、バタン、とたて続けにたおれだした!

「なに!?」

 金剛さんがあわてて起き上がろうとしたけど、病みあがりのようにフラッとした。

 右腕で支える蒼井くんだけど、それじゃ蒼井くんも危ない。彼の代わりに、わんが金剛さんを支えた。

 どうしてこんなことに……と、あたりを見回す。


(なっ、おまえら!)


 清水くんが教室のドアに向かってにらみつけた。

 わんもそこを見てみると……天良さんと、伝木さんが、黒水晶を手の上に浮かばせてこちらを見つめていた。

 梅組にも飛ばしたんだ、黒水晶を!

 黒水晶を飛ばすスピードが強くなってる、これじゃもっと被害が広がっちゃう!

「オイ、なんだその石は!」

「うるさい」

「じゃま」

 二人は児玉くんをにらみつけ、黒水晶を飛ばす。

 わずか一瞬でかわそうとしたけどよけきれず、腕にかすれてしまった。

「くっ……!」

 さっきまで元気すぎな児玉くんは傷つく腕を押さえながら……清水くんに支えられてガックリと意識を失った。

 児玉くんまで二人を止められないなんて……

 しかも、児玉くんも黒水晶が見えた!?

 そしてついに、二人はわったーに目線をうつした。手にはやっぱり宝石を浮かせている。

 どうしよう、よけきれない……!

 蒼井くんが右手をのばす。二人が飛ばした宝石にふれたと同時に、吸い込まれるように消えた!

 すごい、まるで手品みたい!

「このままじゃ、二人とも死ぬよ」

「うっそ……!?」

 金剛さんが顔をさあっと青ざめ、細い指を小さく震わせる。

 どうして蒼井くんもそれを知ってるの!?

 興味ないように見えたのに、『ギフト』を消せたり、黒水晶のことも知ってたり……

 蒼井くんってやっぱりナゾな人だ!

「黒水晶は人の生命エネルギーを吸い取る宝石のオーラだって、黒水晶の人が言ってた」

「ハァ!? ソレって、ソイツの『ギフト』が黒水晶だってことか!?」

「そう。その人のオーラもソレだったのに、この人たちのようにはならなかった。

 ソレもふくめて、おかしなヤツだったよ。部活に参加しないボクを学園から退学させないようにするなんて言うから、たぶん学園の人かもしれないね」

 蒼井くんはそう話しながら、金剛さんにおそいかかる黒水晶をすべて右手だけで受け止めては消した。き、器用すぎる!

 けど、黒水晶の『ギフト』を持ってるのに、どうしてその人はその『ギフト』を持ってる人は死ぬ、なんて言うの……? 矛盾してて説得力がないよ。

 その人はネガティブな気持ちにならなかったの!?


(まさかソイツって……!)


「ってうおっ!?」

「そんなトコにいると当たるよ」

 金剛さんだけ狙ってるように見せかけて、わんや清水くんにも当てようとしてる! 理性を失うと見境がなくなるっていうの!?

 清水くんはなんとかよけたけど、心の中では、


(真珠! パールの『ギフト』を二人に包ませろ!)


 ってわんにテレパシーを送ってる。

「あ、蒼井くんが二人にさわればいいんじゃないの!?」

「その結果が今のこの人だけど?」

 えっ、金剛さんが力を出せないのは蒼井くんが『ギフト』を消したから!?

 今でも金剛さんは、わんの腕のなかで熱中症にかかったようにうなだれてる。

「才能のかけらを消されたってことは、まだ生命エネルギーが奪われっぱなしってことでもある! このままだと金剛も間違いなく死ぬぞ!」

 うそ!? じゃあ蒼井くんのやったことはまちがいだったっていうの!?

 けど、清水くんはさっきから、わんのパールの『ギフト』が金剛さんたちを助けられるって、言ってたよね。

 黒水晶が人をネガティブにさせるなら、パールは……人をいやすことができる?

 パールの宝石言葉は『健康』『素直』……人の体を蝕む、悪い気を追い払えるように!

 もう一度パールにつまみ……思いをこめる。

 ……まずは、一人目。

「金剛さん、いますぐ、楽になるからね」

 金剛さんの体に、わんのパールの『ギフト』のオーラを分けるように流す。やがて制服が見えなくなるほどに全身に行き渡っていく。

 わんので、元気になるかな……

 ドキドキしながら見ていると、彼女のからだに、厚みが増したような気がした。それに、ダイアモンドの『ギフト』がポンポンッと増え始めた!

「ちからみなぎるーっ!」

「わっ!?」

 わんの腕からガバッと起き上がり、両腕をめいっぱい伸ばす。う、腕が当たるかと思ってビックリしちゃった!

 けど、よかった……効いた、んだよね。

「なになに今の!? なにがあったの!?」

「金剛よけろ!!」

 蒼井くんが怒るように金剛さんに怒鳴った。

「わっ!?

 ちょっと、昔は『ダイア』って、呼び捨てしてくれたじゃない!」

「はやく、足手まといになりたくないならさっさと逃げなよ」

「もーっなんなのよーっ!! あとで説明してもらうからねーっ!」

 なんとか間一髪でよけられた金剛さんは教室の外へ逃げようとする。

 けれど、「ひっ!」と高い声を上げて、そのまま後ずさった。

 ま……まさか……

 バタン、とドアを閉めてそれに背を向けて、開かないように必死に鉄製のドアノブに体重をかける。

 ドアにカキン、キン、と石が当たるような音がした!

 それに、小窓からも見えるけど……

 同級生たちが、こっちに集まろうとしてるー!

「や、やややヤバいって! みんなゾンビになってるんだけど!?」

「感染が広まったのか!」

「マジのゾンビなのアイツら!?」

「とにかく教卓側のドアもふさぐぞ!」

 清水くんがそこまで走ろうとするけど、ポニーテールの伝木さんが手のひらを向けたまま通せんぼをした。

 通さないつもりだ……!

「チッ! このまま人を集めるつもりか!

 どんだけ金剛を闇に染めたいんだ!!」

 わーんっ、わったー《わたしたち》閉じこめられてるよーっ!

「し、清水くん……」

 正直、逃げたい気持ちでいっぱいだ。

 けど外は、黒水晶に感染した同級生がここに集まろうとしている。

 伝木さんが通せんぼした背後の、教卓側のドアから、つぎつぎと黒い宝石をまとった生徒が入ってくる。

 みんな、金剛さんをねらってる……

 こわい……いつかわんも、わったー《わたしたち》も、こんなことになっちゃうかも……

 ……でも……そんなことなんて、絶対、いや……!

「包む……わんのオーラを、みんなに……」

「う、内海ちゃん……? なにブツブツ言ってんの?」

 自分の身を守るために、カラにこもってたことは、否定しない。

 人を傷つけないようにしたいから、なんて言い訳をしても、心のなかでは、他人より自分を気にかけてばかりだった。

 どうせ、他人はみんな、わんのことなんて理解してくれない――

 でも、それはまちがってた。

 『ユタ』は、いつかわんは運命の人に出会えるって言ってた。その運命の人とは……

 待つんじゃない。自分で探さなきゃ、見つからないんだ!

「その道を切り開くのも、自分なんだ!!」

 いつか、立ち向かわなきゃいけないときがあるとしたら……今なんだ!

「なっなんで風が吹いてるワケ!?」

「真珠、おまえ……

 この世界の人間なのにもう使いこなせるのか、『ギフト』の力を!! さっすが救い主!」

 えっ……こ、この風……いや、パールの嵐って……

 コレ、わんが起こしたの!?

「藍也、コレどんな状況なワケ!?」

「あのぼっちの人が全員助けようとしてる」

「ハァ!? 超絶ピンチなのに!?」

 いたたたた、どうしよう、パールが体に当たる!

 『ギフト』が見える清水くんと蒼井くんも顔を腕でおおってふせいでる。

 ……って、蒼井くん何気にわんのことけなしてなかった!?

「真珠、気持ちを落ち着かせるんだ!」

「なるほど、人の感情とリンクして動くんだ、コレって。痛いから早くなんとかして、こんなの癒しにならないでしょ」

 ごめん、二人とも……!

 もっと優しい気持ちになれるように……

 優しいということは、怖がらないこと、迷わないこと、あたたかくいること……

 おちつけ、内海真珠……

 雨、雨をふらせるんだ……

 あめあめ、ふれふれ、みんなのもとに……!

 じっくりと頭の中で、パールの雨が降っているのを祈る。

 自分の中で、オーラがふくらんでいくのがわかった。

 それが天井へとたまっていくと、はらり、はらり、と、ゆっくりとふっていった。

「まるで桜みてぇだ……」

 清水くんが、感動したようにつぶやいた。

 強く降らすと、当たって痛くなると、思って……

 なるほど、『ギフト』の扱い方がわかってきた。

 みんなを元にもどしたい、『健康』な状態に戻したいって思えば思うほど、力が強まる気がする……!!

「うまいぞ真珠! おまえ、『ギフト』使いこなせるんじゃねーか!」

「ほ、ホントにコレで合ってる……!?」

「ああ、オレが保証する! だから自信もってパールを全員に……!」

「廊下のヤツらも忘れないでよ」

 ま、まだいるの!?

 けれど蒼井くんは自分のつくえに置いていた左腕のギプスを、左のわきにはさむとスポンッとなにかを取り出した。

 白と黒のプラスチックでできた、腕のようなものがあらわれるとそれを左のひじにつける。わっ、左手の指がなめらかに動いてる!

「ギプスの中に義手を仕込んでたのか! 超カッケーじゃん!」


(……はじめて言われた)


「足止めくらいしてあげる。あとは自分でなんとかして」


(ソイツを、また傷つけないでよ)


 そう、わんにコッソリ伝えて、廊下へ飛び出した。

「藍也!」

「大丈夫だ、アイツなら、やれる。

 お前には見えないが、アイツはオレからすりゃ頼もしいヤツだ!」

 あとから飛び出そうとした金剛さんを止めた清水くんの顔は、蒼井くんに対してまっすぐだった。

 ……もちろんだよ、と、わんも蒼井くんに心のなかでうなずいた。それにもう、二人は浄化されてるはず……!

「いいや……まだ、終わりじゃねえ」

「えっ!?」

 そんな、だってパールの『ギフト』を受けたんじゃ!

「浄化は終わってる。

 だが、アイツらの本来の『ギフト』はまだ弱ったままだ」

「るりとまりん、まだ治らないの!?」

 金剛さんはまた涙を流しながら、清水くんのかたをガクガクとゆさぶる。

 そんな、とあわてて二人を見る。

 二人のまわりに、黒水晶じゃない宝石が浮いている。それだけならよかったのに、その光はよわよわしいものだった。

 はじめて自分の『ギフト』を見たときと同じだ……

 たしか、生命力がもろい状態、なんだよね……!

「ままま、まてって、いいか、よ、よくきけって!」

「てゆーかギフトとか宝石とかおいてけぼりなの、ダイアチョーイヤなんだけどぉ!?」

「こ、ここからは、お前しか二人をすくえねぇんだってば、金剛……!!」

「ハァ!? なんでそーなるワケぇ!?」

 金剛さん、ガクガクゆさぶってるままじゃ清水くん話しづらいよっ……!

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