5 金剛さんの悩み
えーっと、まずは。
金剛さんに、悩んでることを聞いてみる。まずはコレ。
……と、思ってたんだけど……
「でさー、この前渋谷歩いてたらダイアにモデルスカウトが来たワケ! いやすでに『メロパ』のモデルだって!」
「マジウケる~! そのスカウト業界知らないんじゃない!?」
金剛さんは大体いつも、友達の
わん、いきなり日なたに足をふみだすようなことをしてるみたいで……
まっ、まぶしいっ、すごく、近付きづらい……!
あの会話に割りこむなんて、自分にはできないっ!
やっぱり、わんにはムズカシイこと、だよ……
……………
……………
……って、諦めかけてるのに、さっきからずっと、金剛さんの様子をうかがってる。いつか、チャンスが来るんじゃないかなって。
よしっ、このままじっと見てみよう。隙が生まれたらチャンスだ!
ツインテールの天良さんが、彼女の肩をトントンとたたき、コソコソと話をしはじめた。
金剛さんの顔を見てるので、何を考えてるのか自分にも伝わってくる。
(え? 内海ちゃんが見てる?)
ヒエッ、もうバレちゃった!
気のせいですよ、とそっぽ向き、英単語の参考書で顔を隠す。
知らないフリ、知らないフリ……
を、したかったけど、もう遅かった。
「うーつみちゃんっ、どったのー?」
(うっふふ、内海ちゃんのようなコにも慕われるダイアったら超カリスマ☆)
もちろん、そう考えていることが相手にも伝わってしまっていることは金剛さんは知らない。
「えっと、その、清水くん……」
「清水くんのことはいいのかって? いいのいいの、ダイアもっとカッコいい人知ってるから!」
(つーか無いわアイツは。顔はめちゃくちゃタイプだったんだけどなー)
「それより内海ちゃんと幼なじみなんでしょ? ゼッタイお似合いだって!」
清水くん、言われてるなあ……やっぱりイケメンでも、マズいって顔をしたらダメなんだ。
それはそれで、夢見すぎな気がする……なんて、『ギフト』も夢見てるようなものだけど。
普段はイケメンなのに、カッコ悪いトコ見せたらダメなのかなあ。
「だよねー!」
「そうそう!」
金剛さんがいつものように大きい声で話すものだから、さっきまで一緒してた天良さんと伝木さんまで賛成しだした。けど、本音は、
(めっちゃどうでもいい~)
(まあ賛成しとこう……)
……金剛さんに逆らいたくないのかな。自分の意見は表に出さないように、相手に伝えないようにしてる。
まあ、人なんて、そういうものなんだよね。特に金剛さんの機嫌を損ねようなんてことは、みんなはしたくないはず。
金剛さんだって、悩みとか、本当は人に知られないように、いつも自信があるように振舞ってる。いつも明るいキャラでいなきゃいけない、って、まるで呪いのようなものに縛られてるみたい。
スーパーモデルだから? 友達に、『教室の雰囲気を明るくしてる、学園一元気な人』って、思われてるから?
取り繕っても、どこかでほころびが出る。清水くんは、それが見えるんだ。
けど……いいのかな?
自分の明るくないところを、人に失望させないために、必死に隠してるんだよ。
きっと、期待されてるから、人に思われてるような自分を作ってる。
それを本人の知らないうちに知っちゃうのは……金剛さんは、そんなことされたくないはずだよ。
自分を、守るために。
みんなを笑顔にするために。
自分はジミで、けど人にはない力を持ってるから、害のないように人から遠ざかった。本当なら金剛さんと住む世界が違くて、なるべく自分の存在を知られないようにした、けど……
やっぱり、金剛さんはこんなにもいい人で、頑張ってて、その頑張りをのぞいて見るのは……
「ねえねえ、よかったら昔清水くんと何があったのか教えてくれない?」
(ダイアが恋のキューピッドになるってゆーのもアリだわ……☆)
なるほど、そういうことなんだ。自分の力のことを知らないとはいえ……やっぱり、ジミな人っていうのは、利用されるんだ。
よくあることだってくらい、知ってる。
けど……ホントに、清水くんとはそんな関係じゃないんだってば……!
「あの、し、清水くんとは、そんなのじゃ……」
「そんな照れなくたっていいんだって! たとえばぁ、運動会とか遠足とかで一緒に行動したとかないの!?」
ブンブン、と首を横にふる。そもそも、幼なじみですらないんだけど……!(そのフリをしてるってだけ!)
うう、もう、金剛さんにこんなに話しかけられるってだけで、すごく体力使う……普段から会話に慣れてないから……次はどう答えればいいのか、考える頭がなくなっちゃいそう……
「
「内海さん困ってるって~」
「えっマジ? そのつもりなかったんだ~メンゴッ許して!」
(ちぇーっ、ガンコだなあ。そんなにジャマされたくないの?)
ご、ごめんなさい……こっちのほうが謝りたくなる。金剛さんの思い通りにいかなかったことに、心がチクッとした。
自分のためだとはいえ、こんな自分にも手を差し伸べようとする金剛さんが、どんな心の闇を持ってるのか、やっぱり知りたくない。
知らなくていいことだってあるんだ、金剛さんは自分たちの前ではスーパーカリスマなクラスの女王なんだから。
ごめんなさい。勝手に、隠し事を知ろうとして。
やっぱり謝るべきは自分だ。心の中で、金剛さんにたくさん、ごめんなさいと言った。
もちろん、彼女には聞こえない。
* * *
「で、結局聞き出さなかったんだ」
「ごめん、なさい……」
「いや、オレもだいぶ不躾なこと頼んじまったなって思ったよ。ムリさせて悪かったな」
清水くんが日の当たる場所でお昼を食べたいと言うので、屋上庭園に来た。けど、残念な結果を聞いて、せっかくのいい天気でのお昼ごはんがおいしくなくなっちゃうようで、やっぱり、自分のやったこと……いや、やらなかったことが、清水くんのためにならなかったって、後悔してる。
こんなに心が痛むのなら、やっぱりやっておけば……
「お前はお前の正義を貫いたんだ。そこに悪さなんて一片もねぇさ」
清水くんは微笑んで、励ましてくれる。本当にかっこいいし、ウソをつかないからドキっとしちゃう。混ぜご飯のおにぎりを頬張りながら、だけど。
けど、金剛さんの『ギフト』を手に入れないと、清水くんの願いが叶わないんだよね。彼女のなら、『ギフト』が輝けばマズくなくなるから……
「いや、いっそのこと諦めるって手もあるぜ」
「金剛さんのじゃなくていいの!?」
て、てっきり、金剛さんのじゃなきゃダメなのかと!
「たまたまソコにいたから気になっただけだし……『ギフト』はだれでも持ってる、才能のカケラだ」
「ほかの人でもいいのなら……!」
わん、あんな苦労しなくてもよかったんじゃ!?
って、言いたかったけど、シッと清水くんが人差し指を自分の口の前にもってきた。な、なに!?
ビリッ……!
それと同時に、電波が頭に入るような感覚におそわれた。これって……人の気配!?
こんな話、ほかの人に聞かせちゃダメだ。今まで『ギフト』の話はしてませんよ、というように、食事に集中しようとした。
ガチャン、と屋上の重たいドアが閉まる音がする。
おそるおそる、ちらり、とそちらに目をやった。
こわいもの見たさってあるけど、こういうもの、かなあ……
一人で来たらしく、自分たちに気付くと、目に入らないような場所へと奥に進む。彼の左腕には、骨折をしたようにぶあついギプスに巻かれ、三角巾で固定されている。
ギプスの上にコンビニの袋が置かれている……いや、抱えてるのかな。片手じゃ不便そう。
たしか、あの人は……
「アイツ、骨折してるのか」
「あの人、学園でも有名人で、いつも一人なの」
「アイツもか……」
も、って、自分もそのうちの一人ってことだよね。
わかってはいるけど、やっぱりグサッてくる。
自分たちとは違うクラスで、名前は……
人と話したところを見たことがないっていうか、いつも左腕がギプスで固定されてるから目立つのに、近寄るなと言いたげに難しい顔をしていて、道行けばだれもがモーゼの十戒のごとく、はじっこへと寄せるんだ。自分じゃそんなことできない。
その殺気のような、ビリビリくるオーラが怖くて目すら合わせられないっ!
「入学したときから骨折してるとか、ケンカで骨折したとか、ウワサがあって……」
「いかにもソレっぽいな、一匹オオカミってヤツ?」
もし蒼井くんがオオカミなら、自分はヒツジ、いや、ハムスターだね……
なんて思ってると、ビリビリしてた電波のような感じがじょじょに薄れていった。
いま、なんて考えてるんだろう。前までのわんのように、一人でお昼ご飯を食べるのがさびしかったりするのかな。
わんの人の心を読む力は、相手の顔がはっきり見えないと発揮されない。なので、少しとおいところにいる蒼井くんの考えは、今は読めないのだ。
「そうだ、あの人にも『ギフト』あった?」
「ああ……ちょっと遠くてハッキリとはしねえが、青く光ってたな」
蒼井くんは……どんな才能を持ってるんだろう。清水くんが食べられるような味の『ギフト』なのかな。
どうして……いつも一人でいるんだろう。わんのような力を持ってるなんてこと、ない、よね……?
* * *
「そういや真珠、どこの部活入ってるんだ?」
蒼井くんのことを気にしなくなったのか、自分にそんな質問をする清水くん。
そうだ、この学園って絶対部活に入らなきゃダメなんだっけ。自分は転入するときからゼッタイ水泳部に入る! って決めてたからすっかり忘れるところだった。
清水くん、どこの部活に入るのか迷ってるのかな。
ここ、今の校長先生が学園の創立者ってくらい、生まれて間もないから部活動がたくさんあるんだ。それに新しくできたおかげで運動部の設備がすごくよくて、高い飛び込み台つきの室内温水プールに、トレーニング器具に、たくさんのシャワー室! 水泳選手にとってこんなにうれしい環境はないよ!
「水泳部、だよ」
「なるほど、オッケー」
「オッケーって、なにが?」
「まあ楽しみにしてろって。……心の中、のぞくなよ?」
わ、わかった……
わんにそう釘をさすと、清水くんはおにぎりを一気にたいらげ、よいしょと腰を上げた。
わんもちょうどお弁当を食べ終えたので、片付けようとした。
清水くんのお昼、いつもおにぎりと野菜ジュースだけで足りるのかなって心配になる。食べ盛りの男の子だから、もっと食べなきゃいけないと思うけど。
なのに、彼が立つと、高くスラッとした体型が目立ってビックリする。もしかして、朝食と夕食をいっぱい食べてるのかな……!?
自分は、お弁当箱にぎゅっと詰めてもらってる。いっぱい食べないと部活で体力がもたないから。女の子からしたらちょっと多めに見えるけど、清水くんのお昼ごはんはいくら女の子でも文句を言うかもしれないくらいわずかすぎる。
清水くんはこのお昼ごはんをどう思ってるんだろう……
(ココ、給食じゃねぇから仕方ねぇけど、やっぱもうちょっと食いてぇなあ……)
「清水くん」
清水くんは、心の声が聞かれたことをさとったのか、なにも聞かずにそのまま話を進めた。
「うちの両親忙しくてな、おにぎりはオレの手作りなんだ」
「……一応、食堂あるけど……」
「あるのか!?」
それ、気付かなかったんだ……
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