4 必要とされること
た、大変だった。清水くんの幼なじみだってウソをつくことが。
けど、こうしなきゃ清水くんがどこから来たとかの質問をごまかすことができないからって決めたんだ。
もちろん金剛さんになにがあったか聞かれ、(どうやら聞いた理由が、単純にわんと清水くんの関係が気になったかららしい)ほかの女子にはうらやましがれ、そして、昔の清水くんはどのような人だったのかの質問責め。
本人に聞くより、同じクラスにいるわんに聞いたほうが手っ取り早いし、多くの話が聞けると思ったからだろう。
いままでたくさんの人の相手をすることに慣れてなかったから、もう大あわて。それにウソを隠し通さなきゃいけない。なんてごまかそう。
でも約束したんだ、幼なじみってことにするって。
清水くんが異世界から来たこと、内緒にしないと。とても信じられない話だし。
清水くんがわんの味方になってくれるんだから、わんも清水くんの味方をしないと。
4時間目が終わるチャイムが鳴った。た、助かった……!
囲み取材のような質問責めに遭わないようにさっさと逃げる。集合場所は例の非常階段。
静かだし、ほとんど人が来ないし(そもそも立ち入り禁止だし)、だからこそ……秘密の話がしやすい。
非常階段に先に着いたのは自分だった。清水くん、なにかあったのかな。とりあえず気長にまとう。
本州に来て初めての秋。こんなにも日光が弱まるんだ。なんだかすでに冬が訪れたみたい。
ちょっと肌寒いし、そろそろ上着を着てもいいかも。
あの後、勇気を出して、自分から金剛さんに声をかけてみた。クラスメートと話してたところだけど、金剛さんの消しゴムとシャーペンが机から落ちたのを見つけたので、拾って、「あのっ」と、声を張って。すると、金剛さんはイヤな顔をするどころか、ステキな笑顔で「ああ、ありがとっ内海ちゃん!」と、ちゃん付けで返された。
人の顔色をうかがう前に、まずはつっこんでみるっていうのも、意外と悪くない。きっと知らないフリをしていれば、自分だって普通の女の子のように見られるのかもしれない。
清水くんに出会わなかったら、今ごろどうなってたんだろう。たぶん、知らないフリしてた。
「悪ぃ、待ったか?」
清水くんの声だ。立ち上がって、まわりを見渡す。
前と同じく、彼は紙袋をさげている。小走りで非常階段をのぼり、自分の隣にどっかり座り、(あー腹減った!)と昼食を心待ちにしていた。
けど、やっぱり紙袋の中身は、おにぎりとパックの野菜ジュースだけ。それだけで足りるのかなあ……?
(言いてえことあるけど、食いながらでいい?)
「できるだけ、しゃべってくれると……」
あんまりこの能力使いたくないから。本当は、できるだけ人と話したい。……話すの、苦手だけど。
言いたいことって、なんだろう。予想がつかなくて、ドキドキする。だからって先回りして心を読むってことはしたくないけど。
野菜ジュースのパックにぷすりとストローをさし、一気飲みする清水くん。飲んだあとに「ふうっ」と一息つくところが、ちょっと男らしかった。
「『ギフト』には食える味と食えねえ味があるのは知ってるよな」
うん、たしか金剛さんのはマズくて飲みこめなかったんだよね。
「アレは『ギフト』が澄んでいればいるほど、雑味がなくなるんだ。
そこで、だ。多くの『ギフト』を手に入れるために、オレはたくさんの人の『ギフト』を輝かせ一ついただき、願いを叶えてえ。それも、二つ」
「『ギフト』を食べることで願いが叶うの?」
「ああ、オレの世界では多くの上質な『ギフト』を我が物にすればするほど、宝源郷にいる神が褒美に願いを叶えてくれるんだってさ。古くからの言い伝えだ。
通行手形に力を注いで宝源郷に戻り、復興すること……それが、オレの願い。今まで人の『ギフト』なんて口に入れたことねえから長い道のりかもしれねぇけど、地べたなめてでもやってみせる。
それに『ギフト』を輝かせに人の役に立つこともできれば、ソイツのためにもなるだろ?」
清水くんの頭のなかでは、輝きにあふれた学園がイメージされていた。
わあ、キレイ……!
この宝石の輝きが、生徒全員の『ギフト』の輝きなんだ。
その人たちの『ギフト』を集めれば……宝源郷が元に戻るってことなんだ!
「ねえ、宝源郷ってどんな世界なの?」
きっと清水くんのような人が好きだって言ってるんだから、すごくステキな世界なのかもしれない。いまだに、この地球に存在しない世界があるなんて実感がわかないけど……
「宝源郷はな……とにかく人の感情が目に見えやすかったから、大事にしてたな」
「感情が……」
「この世界じゃ、つらくても声に出すのを惜しんでるように見えるんだよな。周りの空気壊すなってカンジでさ」
「うん、すごくわかる。周りに合わせることが集団生活でゼッタイ、だって」
だから、自分の本音は隠さないといけないし、相手が自分たちの意見とちがうと思っていても、見ないフリをしなきゃいけない。
たった一言で、嫌われることもありえる。
「つらいのも目に見えるからさ、とにかく自分のやりたいことを真っ先にやりまくるモンだから、毎日が祭りさわぎってくらいにぎやかでよ! 町とかはあんましココと変わらねえけど、王宮が先代の王サマの趣味なのかレンガやら宝石やらでゴツゴツしてて、なーんか落ち着かねえんだ」
「うふふ、けど宝源郷が大好きだって思ってるんだよね」
「っはは、おまえな……! ……ま、だからこそこうしてんだけどな」
「どれくらい集まれば、清水くんの願いがかなうの?」
「んー……わかんねえ」
えっ、わからないの!?
てっきり数が決まってるものだと思ってた。
どーするの、卒業まで叶わなかったら!
「とりあえず、食えば食うほどどこか変化がくるかもしんねーし、それまで集めればいいんじゃね?
じいちゃんだって、百個集めてから数えるのやめたっつーし」
「おじいさん、願いかなえたの?」
「ああ、ばあちゃんの難病を治してくれってさ。そのためにひいひいじいちゃんの言い伝えを信じて、『ギフト』集めたらしいぜ」
わあ、ステキなおじいさんだなあ……! おばあさんのことが大好きだったんだ。
言い伝えってそんなに前からあったんだね。
ううん、ユタもいってた。自分の知らないところで、知らないことをしているたくさんの人がいるって。その人たちによって、世界が少しずつ作られてるんだって。
自分も、人に言えない悩みを持ってるし、自分の知らないところでなにかが起きてもおかしくないんだ。
「オレも、似たようなことかなえたいからこの学園全員ぶんの『ギフト』を、どうにか卒業するまで集めてえ」
「すごいね、清水くんって」
「そうか? ハハッ、サンキューな」
清水くんは、ナチュラルに距離を近づけるのが上手いらしい。こうして頭を撫でられると、さ、さすがに、フットーしちゃい、そう……!
「それでだな……まず最初に輝かせたいヤツがいるんだ」
もう決まってるんだ。誰だろう?
「お前のクラスのハデなヤツ……」
「金剛さん?」
マズい『ギフト』だったんだよね。解決方法、もう考えたの?
「金剛っつーのか、案外シブいな。
まあとにかく、アイツが何を悩んでるのかはまだ見えねえけど、人間関係が原因だとオレは考えてる」
「『ギフト』でわかったの?」
「ああ、アイツの『ギフト』のダイヤモンドの宝石言葉は『純潔』『永遠の絆』……ソレに関係している悩みがあるから、ダイヤモンドがくもってやがる」
「宝石言葉?」
「ああ。花に花言葉があるように、宝石にも一つ一つに意味や願いがこめられてるんだ。人の性格や才能によって、『ギフト』が決まってる……
たとえば、お前のパールには『健康』『素直』。今のお前は自分の思いを言わなさすぎる、つまり『素直』じゃねぇから、人より『ギフト』が輝いてねえ」
だからか……と、妙に納得したけど、清水くんは(まあ完全に輝いてるヤツはほんのわずかだ)と、フォローを入れてくれた。
パールにもあるんだ、宝石言葉。宝石言葉を決めた人は、パールのどこを見てそう思ったんだろう。
「ちなみに、オレの水晶には『完璧』『冷静沈着』って宝石言葉があるんだ。オレにはあんまし、縁遠いけどな」
皮肉るように笑ってみせるけど、わんはそうは思わない。
『完璧』って、カッコよくてモテモテな清水くんにピッタリな言葉。運動神経は別にして。
「また今度宝石についてくわしく教えてやるけど、人がそれぞれ持ってる『ギフト』を輝かせるには、まず本人が何を悩んでるのかを聞き出し、その解決に導かなきゃならねぇ。
そこで、お前に頼みたいことがあるんだ」
「わんに!?」
ま、まさかそこで自分に振られるなんて!
自分にできることなんて思いつかないけど……金剛さんとクラスメートだからって、今日ちょっと会話をかわしたからって、悩みを聞き出せるほどの仲じゃないし……
「簡単だろ? お前は人の心を読み取れるんだから」
「そんな、人の心は勝手に見ちゃダメなのに……」
「『ギフト』のこと、そしてオレが願いをかなえたいってこと……知っちまったんだろ?」
し、清水くんの笑顔がこわい……!
ううっ……それはいわゆる不可抗力ってものだけど……言い訳、できない……
つまり、清水くんは自分の弱みをにぎって、利用しようとしてるってこと……!?
やっぱり、人を簡単に信じるんじゃなかった!
「協力してくれるかどうかはお前次第だ。ただ、オレを助けると思って、金剛を助けてやってくれねえか……?」
そ、そんなキラキラした目で見られても……!
不可抗力じゃなければ、人の心なんて読まないの! 人のヒミツを漁るようなこと、したくないんだから!
そんなイケメンなお願いしても、ムリなものは……!
「お前の弁当、カラフルでいいよな。お袋の手作りか?」
(さあ、ほめられれば自分に自信がつくはずだぜ……! OKしてくれるよな!!)
「聞こえてる!!」
「おっと、バレちまった。
お前にしかできねえと思ってこんなにお願いしてるのになあ……?」
えっ、自分にしか、できない……?
そりゃ、心が読める人なんて、そうそういないけど……
(お前なしじゃ金剛を助けられねえかもなあ……? アイツの抱えてる悩みが、お前のおかげでサッパリ解消できるかもしれねえのに、なあ……?)
自分の、おかげで……? 本当に、そんなことができるのかな……
……自信はない。けど、もし心を読むことができない清水くんだけで、金剛さんを助けようとしたら……?
清水くん、金剛さんの悩みを聞き出せる、のかな。あの時の金剛さん、だれにも知られたくない、って思いがあったけど。
けど、心の扉を無理やりこじ開けるようなことになるとしても……金剛さんの『ギフト』が輝くことになったら、前と何か変わるかな。今までの金剛さんに悪いトコとかないように思えるけど。
ただ、隠してるってだけだから、見えないのかもしれない。
清水くんはわんに思いを飛ばすように、心からわんを必要としていることを主張している。
こんな自分だけど……人のために、この力が使える、というのなら……
この力が、ジャマなものじゃない、と言ってくれるのなら……
……ちょっとだけ、脅されてるかもしれない、とは思ってる。それでも、あの時清水くんがわんを許してくれた時のように、今度はわんが人の心を、輝かせることができたら……!
「……わかった。やって、みる」
「真珠……!」
「けど、もちろん、他の人に自分の力が知られないように慎重にやるから……」
「ああ、お前のことはきっちり守る。だから、金剛を輝かせてやろうぜ」
金剛さんの悩みは、ちょっとだけ、知ってしまっている。あそこで知らないフリをするのは、まるで道に迷ってる人を無視するようなことだ。
それに、金剛さんを助けられれば……清水くんも助けられる、ってことなんだよね。
久しぶりに、人に必要とされた。清水くんの思惑通りかもしれないけど、それでも、自分にしかできないことを任されることに、嬉しさと、責任の重さを感じて、ドキドキした。
……それに、お弁当を褒められたのも、はじめてだし。
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