1 キラキラな転校生
「お前、いつもここで食ってんの?」
地味とかぼっちとか、心の声を拾わなくてもそう思われてることくらい分かってる。分かってるので、目を合わせないようにうつむいている。
よ、ようやく肩から腕がはなれた……
と思えば、イケメンはもう片方の手に持っていた紙袋を、その場で開けだしてはコンビニで買ったようなおにぎりを取り出した。
……え、まさかここで食べるつもりなの?
「え、ご飯は」
「ここで食う。静かだし、一人じゃねーし。
オレは
ちなみに、この宝岩学園のクラスは、1組とか、A組とかじゃなくて、
そういえば、今朝、転校生が来た、とか、超イケメンだった、って話がすごく聞こえた。そのウワサの転校生が、この人ってことだ。
「さっき、どうして追いかけられてたの?」
「あの女子たちが一緒にお昼食べてほしいって迫ってきてな……久しぶりに鬼ごっこしたけど、ここの女子ってあんなに積極的なんだな! なんか、落ち着いてくると……疲れが、一気に襲いかかって、くるな……ぜえ、ぜえ……」
さっきまでのイケメン顔はどこへやら、急に息を荒げ、呼吸を整えはじめた。慣れてないのか、まともに呼吸ができるまで少しかかった。
ふう、と息をつくと紙袋から野菜ジュースの小さな紙パックを取り出し、ストローを銀紙の部分にぷすりとさし、飲みほすつもりでずずっと吸った。そしてもう一度、ふう。
え、えっと……このままご飯食べても、いいのかな……
「どうした、食わねーの?」
「あっ、うん、食べる、ね……」
慣れない。二人で、ご飯を食べるなんて。
しかも、その相手が初対面の男子とだなんて。
なんでこんなことになったんだっけ。いや、わかってはいるんだけど……やっぱりわかんない。
あれ、ゴーヤチャンプルーの味がしないな。なんでだろう……
「お前の名前は? オレ、自己紹介したけど」
「えっ、じ、自分、は……内海、真珠……」
「真珠!? マジでパールかよ!」
清水くんは、自分の名前にオーバーなほどに驚いた。そんなに驚くこと、なのかな。でも、さっきの『パールの君』って言ったのも、自分の名前を知ってるからそう言ったワケではないらしい。テキトーに言った、のかな。
モテる人は女の子を宝石に例えて、褒めるのが得意なのかな……なんのために……?
こんな自分を褒めたってどうしようもないのに……自分は、真珠のようにキレイじゃないのに……
「お前、なんか運動とかやってるだろ? マジメに努力して、その結果を素直に出すタイプ。宝石で例えるならパール……つまり、真珠」
やめて、そんなイケメン顔で自分の名前を呼ばないで。こわい、から……なんのつもりか、見えない……
って、自分、他の人の心の声が聞こえるんだった。読めばいいんだ。
おそるおそる、イケメンの顔を見つめる。おにぎりをほおばる姿は、イケメンというよりただの少年のように幼く見える。
ごめん、清水くん。自分も心の中で謝り、彼の本音を探してみた。
もし、だますつもりとかだったら、逃げよう。自分、肺活量あるから、長距離走は得意なほう。
(マジであのパールの『ギフト』だ……じゃあ、コイツが救い主なのか……? だが、ひどくヒビ割れてる。心に傷を負ってるのか……こんなんじゃ、力にもならねぇ)
「ギフト……?」
ハッ、しまった。口をふさいだけど、遅かった。
なんで、口に出しちゃうの……! これじゃ、心の声を聞かれたこと、バレちゃう……!
「おまえ、
「知らないっ!」
ぎ、ギフトってなに!? ほうげんきょう!? 救い主!? こればかりは本音だった。伝われ、とばかりに首を横に振る。
最後にタコさんウインナーを口に押しこめ、急いでお弁当箱をバッグにしまい、その場から離れようと立ち上がる。
ギフト……ってなんだろう。贈り物? オーラなんて言われたけど……
心に傷があるってことも知られた。いったい、どこからそれを読み取ったの!?
心を読んでしまったことに、いつも感じてはいるけど、今回は特に自分が勝手におこなったので、申し訳なさが頂点に達した。ごめん、と言い残し、階段を降りる。
「待て、あともう一つ頼まれてほしいんだ!」
……足を、止めてしまった。
だって、頼まれること、めったにないんだもん。
まだ階段に残って、自分を見下ろす清水くんを見上げる。こうして見ると、本当に清水くんは絵本の王子様のようにカッコいい人だ。
パインジュース忘れてるぜ、とこちらにペットボトルのジュースを軽く投げる。しまった、忘れてた! けど、もちろん本題はそうじゃない。
清水くんはこちらに手を伸ばし……お願いするように、声を張った。
「『ギフト』のこと、だまってほしいんだ」
……そりゃ、ギフトがどんなものか知らないし……
「オレ、学園のヤツらが持ってる『ギフト』を集めるためにココに来たんだ。ホントは黙ってやるつもりだったが、何故かお前は知ってるみてぇだし……誰にも言わねぇって、約束してくれるか?」
「も、もちろん、だよ」
わんは心が読めることがバレたんじゃないかと怖くなって、少し声が裏返った。
それに、救い主ってなに? こんなわんに何が救えるって言うの? そんなの聞いたことないよ。
そうだ、こういうときこそ心を読むんだ。勝手だとは思うけど、こういう時こそ相手の心の内に自分の知りたいことが聞けるはず……
(やっぱ、話しても信じてくれねぇよな。
この世界じゃ、別の次元の世界は架空のものだって片付けられるんだから)
……ウソをついてるような、言い方じゃない……
信じがたいけど、彼の表情にウソはなかった。
「ぎ……『ギフト』って、なに?」
人を信じるのはこわいけど、人に信じられないのも、一人ぼっちの気持ちが強くなって、悲しくなることくらいわかってる。
もし、傷つくことを言われたら……逃げればいい。今まで経験したことから、そう学んだんだ。
「お前、『ギフト』のこと信じてくれるのかよ」
「……いち、おう……」
「そうか、信じてくれるのか! お前いいヤツだな……!
けど、信じてくれるだけでいい。何も知らないなら、知らないままでいたほうが……たぶん、いいのかもな」
(オレ個人のことに巻き込んで、危険な目に遭ったりとかしたら申し訳ねぇ。
どうせ、同じ『ギフト』を持ってるヤツくらい他にいる)
なっ、さっきわんを利用して追いかけてきた女子を撒いたのに! すでに巻き込まれてるよっ……!
……でも、わんだってぼっちキャラのレッテルを貼られてるんだから、そんなのにイケメン転校生を巻き込んだら申し訳ない。そう、この関係は今で終わらせよう。何もなかったことにしよう。
……なんか、わんの持ってるっていう『ギフト』が、気になっちゃったけど……
キーン、コーン、カーン、コーン……
「……ほら、授業、始まっちゃうから急がないと……」
「なんだと!? 転入早々授業に遅刻なんてカッコつかねぇよ、じゃあな!」
って、行き先はほぼ同じだから一緒に行動することになるよ。
清水くんが階段を下りようと走り出す。
一緒に帰ろうと待ってたけど、階段をとばして下りようと、ぴょん、と跳ぶと……砂利に足をすべらせて、ずこけーっと、ハデに転んだ。
「清水くん!?」
「あはは……
このことも、だれにも言わないでくれ……」
わ……わかった……
……もしかして、運動オンチ?
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