きらめきっギフト 〜パールマーメイドとクリスタル転校生〜

唐沢 由揚

 プロローグ

 4時間目が終わるチャイムが鳴る。

 クラスの人たちがそれぞれグループをつくっている間、自分だけ、ひとり教室を抜け出す。

 教師用の駐車場に面した、日かげの非常階段。ホントは立ち入り禁止だけど、人はめったに来ない。

 沖縄から本州に引っ越して、この私立・宝岩たからいわ学園中学に転入して半年。お昼はいつもココで食べる。

 ぼっち飯記録、今日も更新。ここ、中高大一貫だけど、あと4年くらいはこのままかも。

 内海真珠うつみしんじゅ、青春をすべて、水泳にささげる中学2年生。

 はあ。

 一つため息が、「いただきます」の代わり。

 お母さんは、いまだにわんは友達と一緒にお昼を食べていると思い、色とりどりのお弁当を作ってくれる。けれど残念かな、そのお弁当をほめてくれた人は今まで一人もいない。

 あっ、『わん』っていうのは、自分のことをさすんだ。沖縄の方言なんだけど、こっちに来るまでずっと、『わん』は本州でも使ってるって思ってたなあ……

 ああ、涙が出てきた。でも、気持ち悪がられるのなら、いっそのこと、このままずっと一人ぼっちでもいい。

 どうして、わんはこうも根暗な性格なんだろう。

 それに……自分は人と違うから、余計にまわりの人のことを考えちゃうんだ。

 もしこの力を持っていなかったら、きっと、もっと気楽な気持ちで人と接することができたかもしれない。

 人をじっと見なければいいはずなんだけど。それでも、うつむいてばかりいる人はなんと思われるのか、想像がつく。

 はあ。もう一度ため息をついた。

 学校、イヤになってきたな。

 でも、お母さんに言いたくない。

 それに、一度、先生に心配されかけたけど、大丈夫だって言っちゃったし……

 むしろ、先生からも逃げてしまっている自分もいる。その先生も、(あーあ、なんてかわいそうな子なんだろう)と、わんを面白がってるから……

 味方がいないから、わんは今日も一人だ。


 バタバタ、とあわただしい足音が聞こえた。

 うそ、だれか来たの!?

 ここにいると知られたくない。急いで階段の折り返しまでのぼった。

「アキラくーん!」

「アタシとご飯食べてー!」

「いやウチと二人きりでー!!」

「ちょっとアンタしつこいわよ!!」

「頼むから取り合いしないでくれー!!」

 にぎやかな声まで聞こえる。男子一人に対して、女子がたくさん。よっぽどモテるらしい。

 しかし、気のせいだろうか。非常階段を使う音が、じょじょに迫ってきた。

 ……え、コレって自分のところに近付いていってるって、こと……!?

「うおっ!!」

「きゃっ!」

 ドンッ!!

 やっぱり、ぶつかった。男子が、道をふさがれたというように足が止まった。

 思わずその男子の顔を見てしまった。

 水晶のような、女の子のようにも見える、すきとおった肌。半そでのYシャツから見える細くて白い腕。足も、ズボンを履いてるのに長いからまた細いようにも見える。

 けどそのキレイな顔は、絶体絶命と言いたげに困りはてており、似合うはずの笑顔が引きつっている。階下を見て、もう一度自分を見る。……しまった、『聞こえちゃう』……!


(オイ、ウソだろ、なんでこんなトコに!

 いや驚いてる場合じゃねぇ、かくなる上は……!!)


 聞こえた。……心の声が。

 聞きたく、なかったのに。

 人の顔を見ると心の声が聞こえてしまう力。

 それを、自分は持ってしまっている。

 コレがイヤで、人と関わるのが怖い。聞きたくない本音まで、拾ってしまうから。

 イケメンの人は、何かを思いついたのか、肩に手をかけて座りだした!

 人に触れられるだけでも慣れないのに、イケメンの顔が、ち、近くて……でも、心の声が聞こえて。

「やあパールの君、オレとの約束覚えてくれたんだな。嬉しいぜ。

 悪いなみんな、先約がいるんだ。昼は二人きりで食べたいほうなんだ、次はだれがオレと昼を共にしてくれるか、四人で話し合って決めてくれ」


(どうにか知り合いのように振る舞ってくれ~、マジゴメン、ホンットゴメン!!)


 ドラマで見るようなイケメンな演技をしてるのに、内心ではたくさん謝ってる。どうしてだろう、すごく、すっごく断りづらい。ここは空気を読まなきゃ、イケメンに悪い。

 それに……パールの君……? 自分の名前、真珠だけど、そこから取ったのかな。自分の名前を知ってるの……? 自分、この人に会うのはじめてのはずだけど。

 こんなイケメンと知り合いというのも、自分の身の丈に合ってないけど……

 ここで空気を読まないというのもかわいそうなので、とりあえず、知り合いのように振る舞った。たしか、さっきアキラくん、と呼ばれてた。

「アキラ、くん……まってた、よ」

 ピクピク、と顔が引きつってるのが自分でもわかる。


「はあ!? その子うちらのクラスの人じゃないじゃん!」

「アタシたちより前に約束してたとかナマイキ!」

「でもぉ、明日からウチらとお昼一緒にしてくれるんでしょぉ? ならいっかー!」

「行こ行こ! じゃあアキラくん、忘れないでねー!」

「おう! また誘ってくれよな、今度は二人きりで、な」

 キャーッ! と四人が揃えて黄色い声を上げた。

 顔を合わせなくてもわかる。四人みんな、自分を良くは思わなかった。一人と目が合ったけど、(コイツ水泳部のジミーじゃん)と思われた。同じ水泳部の人、だよね。

 やっぱり、そういう目でも見られるよね。

 四人が去っても、イヤな思いは消えなかった。というか……肩にかけられたイケメンの腕は離れないままだった。

 ひえぇ、近いよぉ……!

「……悪ぃ。マジで」

 四人がいなくなった気配をしてから、イケメンはそうささやいた。

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