第4話 それは祈りか、または呪いか
「きっと僕は、一番先に死んでしまうと思う。みんなが死ぬときは、もっと後で、できれば生きてる時間が充実したものになってもらえたらいいと思う。
何人かは、集いに来たときよりは状況がマシになったかもしれない。だからこれは僕のエゴだ。
僕はみんなにお願いしたいことがある。
まずは、ノブオくん、セイゴくん、タカヒロくん、メイコさん。もし僕の両親から養子の打診があっても、断ってほしい。きっと自分の子供を亡くして、精神のバランスを崩しているだけだから。なによりも、誰かに代わりをしてほしくない。きっとそれは互いに苦しい。
ケンイチくん、アンリさん、ミツエさん、マイさん、ユキさん。お見舞いに来てくれてありがとう。みんなとの話はとても楽しかった。だからできたら、話の種をたくさん持ってきてから、こっちに来てほしい。
そして、参加者全員にお願いしたいことがある。僕の義理の弟か、妹を、どうか支えてあげてほしい。両親は前々から、犯罪被害者の子供を引き取ることを考えていた。恐らくは一人引き取ると思う。とても辛い過去を抱えた同じくらいか、年下の子を。その子が集いに参加したら、サトシくん、どうか止めないでほしい。けれど、死ぬときは踏みとどまれないか、手を差しのべてみてほしい。集いに参加しなくても、誰かが関わるかもしれない。そのときは、どうか話を聞いてあげてほしい。一度は死のうと考えたみんなだから、きっと心に響くと思う」
読み上げたサトシは、一同を見渡した。
「他の連中はなんて?」
「ユキさんは、わかったと。メイコさんは、考えさせてくれ。アンリさんは、エゴ丸出しでヘドが出る、というお返事でした」
「順当な返事だよね」
「うん、イメージできたよ」
ノブオとタカヒロが感想を述べるなか、食べ終えた皿がするすると下げられる。
店内の客はまばらになっていた。
「みなさんの返事は?」
「ーー借りは返すさ。いいもんも、わりいもんもな」
グラスは空になっていた。
セイゴの意思は、揺らがない。
「返事の前に、僕は気になることがあるな」
だがノブオは、サトシを真っ向から睨み付けた。
「サトシくんは、また集いをするつもりなの?」
「…………ええ」
「それはどうして?」
「集いに来たいと願う人が、多いからです」
「場合によっては死ぬとしても?」
「はい」
「シンジロウくんがこんなことを頼んだのは、いろいろな理由があるんだろうけど、きっと集いにはアクセスしやすいからだ。僕たちは全員、集いの場所へ無理なく行けた。子供でもね。シンジロウくんの実家からなら十分だよ。それでもやるの」
「はい」
ノブオは重たい息を吐いた。
「で、でも、集いをしてたほうが、ピックアップできると思う。集いがあって、みつけて、実際に来たら、なんとか止めることはできるから」
タカヒロの考えに、ノブオは緩く呼吸した。
「サトシくんは、本当によくわからない人だけど」
「え、マイ以上~?」
「ある意味ではな」
「……いいよ、やるよ。集いでピエロにでもなんでもなるさ」
「僕も、やる」
「あたしも!シンちゃん、いい人だったし」
意見が集約されていくなか、動かないのはただ1人だ。
「……おまえはどうなんだ」
ただ1人無言のリョウコに、セイゴは水を向ける。
口を開きかけたときだった。
「ーー時間かも。記者がくる」
扉に複数の人影が映っていた。
ノブオの鋭い声に、マイが一番に立ち上がる。
「リョウコちゃん、そのコートと帽子貸して!あたし身代わりになる。サトちゃんと一緒に逃げて」
「マスター!」
「はいよ、案内してやるから、裏から出な。おい!2、3人、ドアがあいたと同時に入り口前に陣取れ!取材はお断りってな」
「ありがとう……!」
「いいってことよ。おまえら、いつもラーメン食べに来てくれてるからな。訳アリは嫌いじゃねえ」
タカヒロと気さくに話すマスターへ、準備を終えたリョウコとサトシが礼を言う。
「みなさん、ありがとうございます」
「またね、リョウコちゃん!」
颯爽とリョウコの服を着こなしたマイは、曇りのない笑みで二人を見送った。
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