第2話 弔いの方法

「ーーあれから、セイゴくんは、施設に?」

「ああ、親はパクられたからな。おまえは?」

「保護司さんと二人三脚って感じです。タカヒロくんも?」

「う、うん。薬を抜いていってるよ……」

 セイゴ、ノブオ、タカヒロ。

 弔問帰り姿の大人未満達が、雑然としたラーメン屋のすみに陣取っていた。テーブル席では四人分、麺をすする音がする。

「リョウコちゃん、あたしのミニおにぎり食べる?お腹すいちゃうよ」

「……いえ、食欲がなくて」

 マイがラーメンを口に運ぶ横で、リョウコはちびちびと水を飲んだ。

 シンジロウの容態が急変し、死去したのはつい先日のことだった。

 死ぬまで生きてみることにする。

そんな彼が、集いの際に約束したことは守られた。連絡先を交換し、彼を頼ったメンバーはしかるべき支援を受けることができたのだ。

 本人や彼の両親らの尽力の甲斐あって、人生をやり直すきっかけになったメンバーは多い。

 それでも葬儀に顔を見せたのは、この五人だけだった。

「シンジロウに世話になったっていやあ、メイコもじゃねえのか?」

「施設に入っていろいろあるみたいで、今日は出られなかったみたいですね、残念がってました」

「まあ、そうだよな……」

「ユキちゃんはお兄さんの看病があるし、サトちゃんはよくわかんないし、アンリちゃんは多分来ないだろうしねー、そもそもあたし連絡先知らないや」

「ケンイチとミツエは?」

「ケ、ケンイチくんは、どうしても出てこれないって連絡もらった。ミツエさんはわからない……」

 タカヒロの答えを聞き、セイゴはポケットを探る。

 そこにもうタバコが入っていないと思い直し、水を飲んだ。

「全員の連絡先把握してるの、シンジロウくらいだったからな」

「サトシさんを除いて。……同窓会でもするつもりなんですか?」

「んなんじゃねえよ、つーかする気もねえ。ただ、大なり小なりシンジロウに世話になったっつーんだから、別れの挨拶くらいくるのが筋じゃねえかって思っただけだ」

 リョウコは納得したように目を伏せる。

「ほんと、自分のことよりみんなこと考えてたなあ」

 マイのトーンが下がると、テーブル席には沈黙が降りた。

「へいらっしゃい!」

 そこに、新たな客を告げるベルがなる。

「連れが先に入っているので」

 案内しようとした店員をやんわりと制し、その人物はセイゴ達の席へと近づいてくる。

「探しましたよ、みなさん」

 喪服姿のサトシが、のっぺりとした顔で立っていた。

「おまえ」

 手には真っ白い封筒が握られている。

「シンジロウさんの願いを、伝えに来ました」

 汗をかいた誰かのグラス。氷がずれ、カランと水に落ちていった。

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