「風景」

遠く手の届かない色がそこにあった。

いつか目にした空がそこに漂っていた。

街を燃やした煙りがそのまま浮かんだような雲、けれどコスモスに似た彩りの雲。


この空は美しいと思う。


世界の隙間にポツンと立ったような。

崩れた建物、散らばる瓦礫、壊れた二輪、投げ出された椅子、コンクリートから突き出たパイプ、タイヤが上を向いた車、履くもののいない長靴、ぼろ切れになった露天商の屋根、見るもののいないマネキン、電力を失った自動販売機、割れた瓶、埃まみれの机、靴、鍋、人の気配はない、倒れた時計台は随分前に時を止めていた。


これはただの風景だ。


けれど美しい風景だった。


ここは世界の隙間では無いし、ポツンと立っていたのは僕ではなく一人の女の子だ。

儚さがあった。

消えてしまいそうな。

タバコの煙のように。

水に映る月に似た。

手で掬っても救えない。

遠ざかる大事な音。

行かないでと思う。

僕は思わずシャッターを切っていた。




空と雲と彼女と世界があるうちに。





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