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 この四人は誰もが長く美しい髪の持ち主だった。


(四人の中でこんなエキセントリックな事をしそうな人間は……うーん、さっぱり分からない!)

 幸一は、額に両手の中指と人差し指を当てて唸る。

 そんな事をしても良いアイディアが浮かんで来るはずは無いのだが、幸一はそのポーズのまま考える。

(落ち着け、俺! 一人ずつ考えてみよう! まず、櫛屋君だ!)

 幸一は櫛屋絹子の姿を頭に思い描き、彼女について考えた。


 受付での慣れない仕事を懸命に頑張る絹子に、幸一は優しい言葉を掛けた。

 缶コーヒーをおごり、出張先で買ったお菓子を差し入れ、幸一は少しずつ絹子を手なずけていったのだ。

 入社したての絹子は、受付のお局にターゲットにされ、叱られてばかりいたから、優しく接する幸一に直ぐになびいた。

 ただ、絹子には、遠距離恋愛中の相手がいて、幸一との関係も、本命の彼氏が傍にいない事の寂しさを紛らわす為のものでしかなかった。

 その事は幸一も解かっていて、後腐れの無い、正に火遊びの相手として絹子とは付き合っていた。

(櫛屋君とは付き合いもまだ浅いし、彼女には本命の彼氏がいる……お互い割り切ったドライな関係だ。櫛屋君の線は……考えられないな) 

 幸一は頷き、思い浮かべていた絹子の顔を消す。


「はぁーっ、次は……」

 幸一が呟いた、その時…………。



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