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 幸一は横たわるまゆみの首に手を当てる。

 まゆみが呼吸をしている事を確認して、安堵のため息をつく。

「上野君! しっかりするんだ! お願いだから目を開けてくれよ!」

 幸一がまゆみのために今できる事といったら、彼女の体を揺する事だけだ。

 いや、本当は幸一の今できる唯一のことは電話のボタンを119と押す事だが、何しろまゆみを殴打したのは他でもない、妻、香美代だ。

 救急車と一緒にパトカーまで来られたら事だ。

(上野君が目を覚ましたら、全ては夢だったという事にしょう)

 幸一は頷くと、再びまゆみを揺すりだした。

 幸一がそうしているうちに、香美代と萌子が二階から降りてくる。 

 香美代は特大サイズのスーツケースをガタガタ鳴らせて一段一段を乱暴に降りる。

「香美代! 待ってくれ! 話せば分かる!」

 焦った様子で言う幸一に、香美代は冷たい視線を送ると、玄関の靴箱から自分と萌子の靴を取り出し、素早く萌子に靴を履かせて、自分も靴を履きながら、幸一の事を見る事をせずに話す。

「じゃあ私達、行きますから! 一人でゆっくりと髪の送り主の心当たりを考える事ね! その浮気女の死体の始末も頼んだわよ! 行くわよもえちゃん!」

「ちょっ! 上野君は気を失っているだけだよ! それに、彼女は浮気とは無関係だ!」

 そう言う幸一には見向きもしないで香美代は勢いよく玄関のドアを開け、勢い良く出ていった。

 閉まったドアの外からバイバイ、パパと萌子が言う声が小さく聞こえる。

 幸一はしばらくドアを眺めてぼんやりしていた。

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