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「なななななっ! 何てこと! お前、どうするんだよ! コレ! 動かないぞ!」

 慌てふためく幸一を、香美代は冷たい眼差しで見る。

「なんだよ、その目は! お前、犯罪だぞコレ! 一体どうする気なんだよ! コレ!」

 香美代は何も答えない。

「黙ってないで、何か言えよ! お前が殴ったんだろ! おいっ!」

「あああーっ! もう、本当にアンタにはガッカリさせられるわ! ソイツが浮気相手じゃあないとしたら、誰がそうなのよ! 髪を送ってきたのはどこのドイツなのよ!」

「だから、浮気の事も髪の事も知らないって言っただろ! おい! 上野君? 上野君?」

 幸一がいくら揺すってもまゆみはピクリとも動かない。

「そう! 分かったわ。アンタがそう言い張るなら私にも考えがあるわ! アンタが髪の送り主がどこの誰なのか思い出すまで、私、実家に帰らせていただきます! もえちゃ~ん! もえちゃ~ん!」

 香美代が大声で呼ぶとチキンを片手に持った萌子が現れた。

「もえちゃん、これからママと、ばあばのお家に行きましょうね! 途中でケーキも買ってあげるから」

「ママとぉ? パパは? パパは行かないの?」

 不安そうに言う萌子に香美代は笑顔を向け、「女が実家に帰るって言う時はね、男は置いて出るものなのよ」と台詞を決めて、荷物を纏めるために、萌子を連れ、二階の部屋へ向かった。

「おい! 冗談だろ! ちょっと待てよ! 彼女は? 上野君はどうするんだよ! おいっ!」

 香美代の後ろ姿に手を伸ばし、幸一は叫ぶ。

(一体どうしたら良いんだあー)


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