7p

「なななななっ! 何てこと! お前、どうするんだよ! コレ! 動かないぞ!」

 慌てふためく幸一を、香美代は冷たい眼差しで見る。

「なんだよ、その目は! お前、犯罪だぞコレ! 一体どうする気なんだよ! コレ!」

 香美代は何も答えない。

「黙ってないで、何か言えよ! お前が殴ったんだろ! おいっ!」

「あああーっ! もう、本当にアンタにはガッカリさせられるわ! ソイツが浮気相手じゃあないとしたら、誰がそうなのよ! 髪を送ってきたのはどこのドイツなのよ!」

「だから、浮気の事も髪の事も知らないって言っただろ! おい! 上野君? 上野君?」

 幸一がいくら揺すってもまゆみはピクリとも動かない。

「そう! 分かったわ。アンタがそう言い張るなら私にも考えがあるわ! アンタが髪の送り主がどこの誰なのか思い出すまで、私、実家に帰らせていただきます! もえちゃ~ん! もえちゃ~ん!」

 香美代が大声で呼ぶとチキンを片手に持った萌子が現れた。

「もえちゃん、これからママと、ばあばのお家に行きましょうね! 途中でケーキも買ってあげるから」

「ママとぉ? パパは? パパは行かないの?」

 不安そうに言う萌子に香美代は笑顔を向け、「女が実家に帰るって言う時はね、男は置いて出るものなのよ」と台詞を決めて、荷物を纏めるために、萌子を連れ、二階の部屋へ向かった。

「おい! 冗談だろ! ちょっと待てよ! 彼女は? 上野君はどうするんだよ! おいっ!」

 香美代の後ろ姿に手を伸ばし、幸一は叫ぶ。

(一体どうしたら良いんだあー)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る