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はあっ、はあっ、と言う音が幸一の耳に入る。
自分の物では無い、繰り返し激しく呼吸をする音。
幸一は首をゆっくりと横に動かす。
幸一の目に、自分の隣りで麺棒を握り締めている妻、香美代の姿が映る。
「香美代! おっ……お前、何やってんだ!」
目を丸くして自身を見る幸一に、香美代は掃き捨てる様に言う。
「何って、麺棒でこの女の頭を殴打したのよ。見れば分かるでしょう? この女ねっ! アンタの浮気相手は! クリスマスイヴの夜に自宅に乗り込んで来るなんて大した女ね! この女が髪を送りつけて来たんじゃあないのおぉぉ? きっと、私への嫌がらせに髪の毛何か送って来やがったのよ! このビッチがっ!」
香美代は恐ろしいほどに興奮している。
顔が真っ赤だ。
「なんて事してくれたんだよ! 彼女は上野まゆみ。矢藤冨士江なんて名前じゃあないよ。彼女は浮気とは関係ない! 俺が忘れた書類を持って来てくれた親切な部下だよ!」
「そんな話は信用できないわね! 大体、矢藤って名前は偽名かも知れないし、この女とアナタが浮ついた関係で無い証拠も無いじゃない!」
ギラギラした目で幸一を見る香美代。
「あーっ! もう! 本当に彼女は関係ないんだよぉー!」
これは本当だ。
まゆみは幸一の浮気とは一切関係無い。
しかし、その事を香美代が知るはずはなかった。
知っていたら、まず麺棒で殴ったりしない。
幸一は叫び声を上げ、白目を剥いて転がるまゆみの体を揺する。
「おいっ! 上野君! 上野君! 大丈夫か? おいっ!」
返事は無い。
まゆみは、いくら揺すられても指一本動かさない。
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