CASE6 牧之原翔子
──猫のせいです。
私はそう語るだろう。幼き日の「翔子ちゃん」は、咲太さんへの強がりと、麻衣さんへの謙遜で間違いなくそう言うに違いない。しかし。今当時を振り返れば、私のせいなのだ。おかしな話で、私は過去に干渉していた。そのために咲太さん、麻衣さんほか、多くの人間の思春期に干渉した。翔子ちゃんが私に続く人生を歩んでくれるには、ああいう形を取るしかなかったのだから、こっちも必死なのである。
思春期症候群。生きる力のなかった私は代わりに、思春期に及ばない年齢のうちから、この力を得ていた。いかようにも使えるが、どのようにも使わなかった。それは、私が消えても、という自暴的な考えを持っていたからなのだろう。
幼き日の私は、猫を拾ったことによって、確かに心変わりしたんだ、と思う。
「だって、私が消えたら、この子を置いていくことになるじゃないですか」
「そうですよ。でも、置いていくのはこの子だけ?」
幼き私から、猫を取り上げてみた。私は少し意地悪で高く掲げてみせたので、ぴょんぴょん飛び跳ねる姿が微笑ましい。
「だけじゃない……です」
「そう」
はい、と幼き私に預けると、強い海風が吹き抜けていった。波の泡に顔を逸らしてしまい、視線をもとに戻せば幼き私は消えている。私は、この七里ヶ浜にであれば、いつでも来ることができる。今日はたまたま幼き日の私が紛れ込んでしまったのだ。
思春期症候群とは、本当にきまぐれで、不安定で。結局、私はなにもせずに猫のおかげになってしまったのだと思うと、自然と笑みが浮かんだ。
──おや?
私の七里ヶ浜に、もうひとり、入り込んでしまったようである。赤いランドセルの、大人びた女子小学生である。昔、ドラマに出ていた女の子。私の思春期はまだまだ終わりそうにない。
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