CASE5 梓川かえで
お兄ちゃんのせい?
そんな、かえではお兄ちゃんのせいで、なんて考えたことはありません。思春期症候群って言われているのは、かえでが頑張れない子だからです。だから、最近のかえでは頑張っています。お兄ちゃんのおかげです。熱を出してしまったこともあったけど、概ね上手にできていると思います。
かえでのせいで、お兄ちゃんは藤沢に引っ越すことになったんだって知っています。かえでじゃない花楓が、本当の妹だっていうことももちろん知っています。でも、これは思春期症候群じゃないのです。理央さんのように、かえでも2人になることができれば、いいえ、かえでと花楓の2人になることができれば、一人分の愛情をお兄ちゃんに返すことができるんですが。
『いい考えです』
背後から、声がします。ぼけた自分の声に聞こえます。
『そうですよ、かえで。私はあなた。あなたはかえで、かえでは花楓、花楓がわたし』
振り返ると、かえでとは少し髪型が違う、大人っぽいかえでが微笑んでいました。
『かえででなく、花楓です』
「そうだったんですね。長いあいだ、お兄ちゃんをひとり占めにしていてごめんなさい。それに、お兄ちゃんには桜島麻衣さんというもったいない彼女ができてしまいました」
『お兄ちゃん、いったいどうすれば桜島麻衣さんを彼女にできるのでしょう』
「あれ、花楓は桜島麻衣さんのことを知っているのですか?」
『もちろん……、そっか、かえでは花楓じゃないんですもんね』
花楓はかえでよりもたくさんのことを知っています。麻衣さんのことも知っていました。
「花楓のことは、よく知っているようでぜんぜん知らないです」
『わたしもかえでのことはわからないです。それなら』
一緒に暮らしたいですね、ということは叶いませんでした。熱にうなされるかえでを呼び戻したのはおにいちゃんの声だったからです。
「かえでッ! 僕だ。わかるか?」
「……はい。おはようございます」
花楓と、またお話したい。近々中学校に通うんだということや、上野動物園にパンダを見に行ったんだということもぜんぜん話せていませんから。
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