CASE4 豊浜のどか

 お姉ちゃんのボーイフレンドが、なんだかムカつく。

 お姉ちゃんのことを気軽に麻衣さんなんて呼んでムカつく。

 お姉ちゃんの家のすぐ近くに住んでいてムカつく。

 お姉ちゃんが居ながら他の女にうつつを抜かしていてムカつく。

 お姉ちゃんが居ながら、妹を大切にしているあたりがムカつく。

 お姉ちゃんと私が入れ替わっちゃっても慌てふためかないのがムカつく。

 お姉ちゃんはすっごく努力して今の地位になったのに、特に努力もしないでボーイフレンドにおさまっていてムカつく。

 お姉ちゃんの思春期症候群も私の思春期症候群も、きちんと解決してくれてその上で鼻にもかけないのがムカつく。

 お姉ちゃんと同じ大学に行きたいからって勉強を頑張りだしたあたり、ムカつく。

 お姉ちゃんが出ているからってスイートバレットのライヴに来たりしてムカつく。

 お姉ちゃんとかわらないくらい、私にも優しくしてくれたのがムカつく。

 私は。

 お姉ちゃんがやっぱり好き。それで、あのブタ野郎も……。どうしてくれる。咲太のせいだぞ。


そんなポエムチックな歌詞を書いたルーズリーフを、朝起きて思い出して思い切り破り捨てたのどか。海の見える七里ヶ浜のビジネスホテルの一室。スイートバレットのリーダー、広川卯月と同室である。

「ふわぁ~、どかちゃんおはよう。早いんだね。何を書いていたの?」

ちょっぴり……、いやだいぶ抜けているリーダーはゴミ箱に舞い落ちた思春期の破片を見つけた。

「何って、鬱屈とした思春期の感情とでも言えばいいの?」

「なにそれ。どかちゃんセンターの曲、そんな暗い曲じゃないでしょ?」

「そうだけど」

卯月は寝巻きにしていたTシャツをばばっ、と脱ぎ捨ててワンピースを頭から被った。女子高生とは思えないスピードで、部屋を出る支度が完成する。

「さあ、ご飯食べに行こうよ。ってあれっ、どかちゃんまだ着替えてないの? ほら、レッツゴー!」

「待ってって!」


そして思春期症候群のせいで、私は自信を得た、気がしたのだ。

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