CASE2 古賀朋絵
「いっちょんわからん」
それは不覚にも飛び出してしまった地元の方言。かつてのスクールカーストの中にも、今いる奈々ちゃんたちとのあいだでも決して言うことのない、「恥ずかしい」口癖だった。
この日、朋絵と咲太は同じシフトで、ウェイトレスをしていた。偶然始めたアルバイト先のファミレスに居た、尻を蹴りあった先輩。あのときの自分は絶対的に正しいと思っていて、先輩は悪い変態だと確信していた。だが、いまはどうだろう。
「古賀はさあ、ドラマとかって見ないの?」
「ドラマ? 先輩よりは見ていると思うけど」
「そうだよな。昨日の夜のやつ、見たか? 麻衣さんが出ているヤツ」
当然だ。先輩の彼女が、女優として最も輝いているシーンが詰まった映像だ。それどころか、全国のファンが真似たいな、なんて思ってしまうキレイ系ジョシコーセーがお手本を振りまいているのだから、見ないという選択肢はない。
「先輩、まさか見てないんですか?」
「いや、見たよ。麻衣さんはとっても良かった。あれでこそ僕の麻衣さん。……あれ、古賀。お前こんな髪飾りつけていたっけ?」
「つけとっと! 先輩とはじめてあったときからつけてたし!」
「そっか。すまんすまん」
と、呼び出しボタンでお客が呼んでいる。咲太は焦りもせず迅速に客席に向かった。マイペースなのに、どんなペースにも合わせてしまう咲太。朋絵もそれに巻き込まれた一人だった。今日、背伸びしてチャレンジした涼やか目元メイクは桜島麻衣を真似てみたものだけれど、全然似ていないのは朋絵が一番わかっている。ふざけあうだけの間柄なのに、自分には余裕がないのは、咲太のせいでもあった。そして。
「桜島先輩のせいなんだから……!」
小声で口にだしては見たが、負け惜しみだと理解している。直後、再度の呼び出しボタンに、ブタ野郎のいるホールへと出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます