CASE3 双葉理央

理央は、基本的に人付き合いが苦手である。なんというか、自分に自信がない、空っぽな存在と思えてしまうのだ。それは決して違うと言ってくれる友人が二人いるが、その二人、佑真と咲太が尚更自信を喪失させる原因である。

「君たちのせいだぞ」

そんな自分を変えなければな、と一念発起したある日。咲太と佑真そして後輩の古賀朋絵がアルバイトではたらいている藤沢駅近くのファミレスを訪れた。

「いらっしゃいませ~。お一人さまですか?」

同じ峰ヶ原高校の後輩、古賀朋絵が笑顔で理央を出迎えた。理央には真似できない姿だ。自分がポジティヴとネガティヴの二人に別れようと、たぶん朋絵のようには振る舞えない。

「私は……、表の張り紙をみて来たんだ。アルバイトの応募なんだけど……」

「ええっ!? 双葉先輩がアルバイトにっ!?」


バックヤード、休憩時間等におしゃべりをしたりまかないを食べたりする部屋には朋絵と理央が並んで座っていた。

「で、双葉はどうしてうちにアルバイトを? お金に困っているわけじゃないんだろ?」

「梓川にはそんなこともわからないのか。女子高生とくればアルバイトじゃないか」

夏に、もっとやばい方法で大人の男の人からお金を集めかけた理央である。無論未遂だが、地に足がついていない感じを、咲太は理央から感じることがある。

「とにかくやってみたいんだけれど、どうすればいいの?」

「古賀、僕はホールに出ているから、予備の制服を着せてやってくれ。それで双葉は満足するだろうから」

店長には内緒だぞ。面倒なことは避けたいから、と言って他人事のようにバックヤードを出ていった。


えんじ色のブラウスの上にエプロンを着るタイプの制服。古賀とはそこまで親しいわけではないが、別に同じ高校の先輩後輩だからとその場で高校の制服を脱ぎ、予備のブラウスを受け取った。

「……きついな」

「……そうですか。やめますか」

「……不本意だが」

結局、ロジカルな魔女だった理央からしても、抗えないのが服のサイズであった。こんな間抜けな結果になるのであれば、朋絵に頼んで時間を巻き戻してもらえばいいとも思う。

「でも、これでいいのかもしれない」

ばつがわるそうにファミレスを出た理央は、なぜか清々しい顔でそう言った。それも含めて青春、思春期症候群なのだから。

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