君のせい
井守千尋
CASE1 桜島麻衣
12月2日、金沢。桜島麻衣は、たった2時間ではあるが、姿を消した。ただしくは、映画撮影スタッフの認識から、姿を消したということである。その日は麻衣の誕生日で、撮影後にはスタッフからのサプライズケーキがあったりもしたのだが、終始笑顔は曇ったまま。北陸の冬空に感化されたような麻衣に、妹ののどかから一本の電話が入った。
「お姉ちゃん、誕生日おめでとう」
「のどか、ありがとう。でも……昼間にも電話くれたわよね?」
時間は夜の9時半を回っていた。電話が鳴ったときはもしかして、と期待したが、テレビもろくに見ない咲太から、教えていない自分の誕生日を祝う連絡が来ないのも自然なことだと思った。
「それでね、咲太が今そっちに向かっているから」
「はい?」
咲太に会える、と麻衣の気持ちは高揚する。そして、春に彼女を悩ませた思春期症候群が甦った。周りの誰もが麻衣を認識しない。のどかも電話したことを忘れ、出会いの日からの今までをぐるぐると思い描いていた。この時間に、ということは、新幹線で来るのだろう。たぶん、勢いだけで乗ったはいいが、何をすればいいのかわからないで手持ち無沙汰なのだろう。想像するだけで、微笑みがこぼれた。今日はバイトがあるって言っていたし、牧之原さんのお見舞いも行くって言っていたのに。妹や友人や、その周りの人達を慮って、雪積もる駅前をただ眺めていた。通り過ぎる人は、麻衣に気が付かない。それは多分、バニーガールの格好をしていても同様だ。
「私も、変わっちゃったなぁ」
咲太のせいだぞ、と直接言ってやりたくなったが、まだ到着までは2時間近くかかってしまうそうだ。
雪は、静かに白い世界に変えていく。
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