第五章④ キャラ喪失と 〈毘沙門天〉。
東の空が、白々として来ていた。
「随分 卑怯な……いや 成長、というべきか愚妹よ?ふン!」
身の程知らずな大技で、半ば自滅した感が強い愚妹の功績を 私は労いながら、完全に外れていた その肩を元に戻した。
「ハひィィ?! タタた、た…?…おお、イタくない!? ありがと、姉さん♪……じゃなくて! 」
痛くなくなった、イタい愚妹が 珍しく労った私の何かに文句があるらしい。
何故か少し、頬が緩む。
「いや 違うのよ、アレはッ!? 成長したアタシは 全力パンチを放っただけで、真上からの雷撃は〈
私は、しどろもどろに答えて来る愚妹の脳天に、愛銃の銃把を振り下ろした。
カ、チンッ……!
尊い愚妹の犠牲によって、装弾完了のお知らせが響いた。
「ふ。成長しとらんではないか」
スライドを手繰りつつ 私は、脳天を押さえ悶える愚妹を見降ろしながら、ふと思う……最近、よく母に似た表情をすると。
「アタタタ…。もう一体 何なのよ、今日は…?…」
痛む頭頂部をさすりさすり、いつものようにブウ垂れるも横に来る愚妹。
「オイ 見ろ、何かヤベえぞっ?!」
〈勇者〉パーティの誰かが叫んだ。
勿論 改めて言われなくとも、一瞬たりとも 敵から意識を外してなどいない。
「チョット おじさん! アタシのセリフ取らないでよ?! そうよ姉さん、ヤバいよ?チョ~ヤバ イタいっ!?」
先程 警告を発した30歳前後のオッサンに相手に どんな対抗意識からなのか、意味不明なクレームを付ける愚妹の尻に、 柳のようにしなやかな手刀裏拳を喰らわせ。
「自らのセリフを奪われての無様なモンクレ愚妹め……堕ちたモノだな? ふ」
カッコイイ、いつもの決めポーズで 頭一つ分以上高い愚妹を睨め上げる。
「う…。…ぐくぅ」
「これ以上、無様なキャラ喪失を味わいたくなければ〈象〉でも展開しておれ」
心底 悔しそうに 押し黙る愚妹へ そう告げてから、既に 戦闘に復帰していたロクが焦げた赤い男の相手を一人で熟していた。
愚妹や黒服スライム、
「武具オンリーか 備品全般の
驚いた事に 赤い男は、瞬時に武装を変更出来るらしく ロクのモノとは 似ているが、多少
…黒い
速度では ややロクの優勢のように見えるが、赤い男の出鱈目な膂力は侮るには恐過ぎ、また 互いに よく似た歩法と戦闘スタイルである為か、どちらが優勢か容易には判断出来ない…。
…だが。
「
それらの符丁に、私は 覚えがあった…。
「…一旦 退くぞ、アユミ! 〈象〉を維持したまま全力で撤退開始しろ!! 貴様らも逃げろ! アレは 恐らく……〈
二丁の短機関銃を地面に向け乱射し 愚妹と勇者パーティらを 追い立てながら、私も走り始める。
「「え? 何、うわっ?! ちょ、姉さん?!」あぶねーよ!
同じようなポーズで慄く 愚妹とスライム少年から、苦情が上がるが 勿論…。
タタタタタタタタダラタタタッタタタタタタタタダラタタタッタタタダラタタタッタタタタッ!
「さっさと後退を開始せんか! 全力だ!!」
…却下だ。
「わ、分かった! 分かったから!! そんなブッ放さないでよ?! ホントにヤバいから!!」
二人仲良く 銃撃のタップダンスを踊らされつつ、凄まじい速さで逃げ出す。
愚妹らを見送った私は…。
「貴方にも、撤退して頂く…。…後ほど、お話を聞かせて頂かなければなりませんので…」
…その場から離れる様子が 一切無い、紫色の
「…了解しました」
そう言った途端、いつものように 霞の如く掻き消えた。
再び 私も、愚妹達を追って走り出す。
段々、戦場から離れて行っているにも関わらず、戦闘音は より酷くなっていく。
バケモノ同士の 本領が、発揮され始めたのだろう。
全力で駆けながら、一度だけのつもりで振り向いた瞬間。
想像を絶する高さの火柱が上がり。
「!?」
気付いた時には、その強烈な衝撃波に 私の身体は浮き…。
…意識が 暗転したのだった。
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