第四章⑮ 地獄種と 変化する餓鬼種。
かなりの長身の、女〈楯奴〉…。
…主たる隻眼娘に ロクと呼ばれていたソレの戦闘力は、凄まじいの一言だった。
〈勇者〉と称されるイグサスは勿論の事、自称〈女勇者〉や 黒服の少年剣士、イグサスの女従者ツバキ=リオール。
いずれ劣らぬ強力な討伐系戦闘者達だ。
彼らが〈銅喰い〉共を囲み、本格的に攻撃を開始した途端に 敵の押し込みが明らかに弱くなったのが分かる程、彼らの戦闘力は図抜けている。
最悪の大陸セプテンシア、その中でも
…だが、及ばない。
その猛者達も 各々10体以上は敵を喰っているのだが、ソレが比喩でなく喰らった数は優に 30体を超えていた。
100体近くはいた〈銅喰い〉達の残りも、既に 20体を切っている。
次元の違う、ギルを始め 余人など及ぶべくもない超常的戦闘者。
〈英雄〉…。
…古代魔術王朝時代の 対〈厄・幻神災〉兵器、もしくは その開発技術の流出を起源とされる歴史上の超越者達。
一つの例外なく歴代の彼らは 超級の〈霊震使い〉とされ、古くからの慣習でもあるのだろうが 国家間戦争の始まる前は〈英雄〉の引き抜き合戦が起きるほど強力で、ひとたび 彼らが全力で戦闘を行うとなれば、周囲の半径500m~1㎞の他の魔術行使が阻害されると言われ、また…。
…彼らが全力で一帯の精霊力を 打撃力に変換した地域が世界各地にあるそうだが、円形の砂漠、円形の沼地、円形の氷雪地 等々、完全に精霊力が狂った円状魔境と化し 歪な特異点を形成していると聞く。
だからだろう……彼らは滅多に 戦場に現れないし、喜ばしい事に 全力など出さないのだという。
まあ 一種の、戦争抑止兵器とも言える存在なのだ。
ただ そんな、無敵とも言える彼らにも 天敵と呼べる存在はあった。
〈神殺し〉……または、
神霊の加護一切を否定する それらで全身を隈なく覆い戦ったとされる、伝説の妖物種〈
それらは戦闘中、凄まじい血臭を自ら発したとされ 味方からも忌避された為、常に強烈な芳香を放つ『
ソレらは 何らかの戒律に従っているのか、鬼族、正確にはヒト型の鬼族を殺さなかった……いや。
傷付ける事さえ、しなかった。
防御戦闘に於いて圧倒的な不利である ソレらの性状やら戒律を維持したまま、約5千年前に勃発した『公爵領城攻囲戦』に於いて、〈英雄〉級を多数含む敵軍を撃退したのだという。
それ以来、ソレらは〈対英雄兵器〉とも呼ばれるようになった。
かつてギルや村を救った『首無し蜘蛛』や、この ロクと呼ばれる女〈楯奴〉の戦闘能力は、ソレら偉大な〈大楯師〉達の 伝説を裏付ける程 凄まじいモノだった。
気付けば もう、〈銅喰い〉達は 数体を残すのみになっていた。
「ん?……何だ、あの色の濃い…」
長き戦歴を誇る中年冒険者が、薄闇に眼を凝らす。
いつの間にか鎧の色 というか、体色が朱色になっていた3体の〈銅喰い〉達。
その後頭部に、いつからか張り付いていた
『『『…㏉iii…!…ギュギイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィ‼』』』
…赤子のような、不気味な泣き声を上げ。
数名の仲間達の方から 驚愕 染みた悲鳴が聞こえ途端、これまで響いていた 咀嚼とは違う音が、静寂を支配した。
勿論、事態の深刻さを察知した〈勇者〉達が、即〈
…突如、猛者達の足が止まる。
それどころか、何か打撃を受けたかのように 少々後方へ後退させられる始末だった。
「……?」
ギルが よく見ると……勇者達は 非常に長く、黒い『腕』のような 何かを受け止めているが 何か…。
…見えない力に、必死に抵抗している様子だった。
「奈落だ‼
〈勇者〉イグサスが、一同に退避を促し。
抵抗に成功した猛者達は 『黒い掌』の超重力星を往なしながら、辛くも後退した。
『『『…! …ギュギュギイイギュイイイィィィィィ‼』』』
余程、悔しかったのか…。
…〈朱い銅喰い〉共は、より赤子のみたいな声を上げつつ ヤゴのように伸ばしていた『腕』を 口元に畳み直し、痙攣させながら全身を反らせ……
『何か、ヤバいモノに…』
その場の全員が、そう危惧し 各人が武器を構え直した瞬間。
変化途中の〈朱い銅喰い〉らの背後に、既に ロクと呼ばれる女〈楯奴〉が凶悪なまでに煌く大鋏を構え、控えていた…。
…やっとの決着、そう意識したのも束の間。
薙ぎ倒すような 上空からの銃撃により、女〈楯奴〉は倒れ伏す。
そんな中、変化を終え……泣き叫ぶ『角無族の子供達』と化した 元〈朱い銅喰い〉共の胸には、腕が生えていた。
腕の付け根からは 蒼い血が止め処もなく溢れ、その手には 未だ脈打つ…。
…心臓が、握られていた。
その腕の主は…。
「うふふふふふ♪ 生き餌の皆様…。…どうも、ありがとう」
…女エルフ、いや……その女|夜叉《ヴァンパイア》は 牙を覗かせ、そう謝辞を述べたのだった。
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