第四章⑪ 極楽勇者の 退屈と〈銃の賢者〉。



……退屈な人生、だった。



イグサス=オルティネータ…。


…彼は 汎ゆる事に於いて優秀で、願いさえすれば 何でも手に入り。

行動しさえすれば 何でも、叶う。


だが、だからこそ 汎ゆる事に とても不満で、息が詰りそうな程…。


…退屈で仕方がなかった。



血を吐くような、努力?


胸を掻き毟るような 脳髄を掻き出したくなるような、嫉妬?

挫折ってのは 辛いのか、酸っぱいのか…?


…それとも 苦いの、か?


誰も、それを教えてくれない。


誰も彼もが、彼とは共有出来ない。

寄り添わない。


誰も彼に、寄り添えない。





中央大陸…。

…ヘスティーヤ王家の傍流子爵 オルティネータ家三男として、生を受ける。


独学で育った5才児にも関わらず、文武兼備の神童として マイトゥーヤ冷泉大公国、幼年学校に首席入学。

入学後、特に 剣士としての天稟多しとの評価を受け、在学中にも関わらず かの大英雄〈氷獄〉に師事する事を許される。


幼年学校を、やはり首席まま 早期卒業(自主退学とも言う。)を済ませ。

西方大陸の とある国立士官学校の特待スカウト班を名乗る人物達の要請に応じ、またぞろ『共和制反乱』等々で不穏に為りつつあった西方大陸に 単身齢7才で渡航し、親兄弟の反対を押し切っての『皇国』士官学校幼年部中途編入となったのだった。


抜群の頭脳と身体能力…。

…そして、皇国では珍しい 太陽のような金髪と蒼い瞳という押し出しの強い見た目を裏切る、柔らかな人当たりから来る魅力によって、瞬く間に校内の誰もが知るアイドル的な人気を博し、何かに付け重要視されるようになる。

クラスは勿論、全学年参加の対抗戦選抜メンバーにも悠々と抜擢され、そこで 彼は…。…黒い光に 出会った。



『一学年 上級には、鬼がいる…』


…そんな 実しやかに同窓生達が囁く噂話、それ自体は 編入時から聞こえて来てはいた。



実際に それを目にし 実感したのは、六年生での 弓術・銃砲術を競う校内学年対抗射撃競技大会での初等部代表として、納等部代表に挑戦した時だった…。

…完敗だった。


主将同士として直接対決した その黒い小鬼は、全射を中央に中てていた。


銀髪痩身で一見 冴えない感じの、色黒ハーフドワーフ少女。

決して 武神の加護を受けている事を示すような、特殊な外見的優位性は無い…。

…ただ。

少女の、鮮やかな碧色の双眼…。


…その煌きに彼は、息を呑むしかなかった。


それを皮切りに 彼の苦悩と しかし、栄光に満ちた努力の道が 啓かれたのだった。



彼が挑戦すべきと目標としたのは、


射撃は勿論、彼女が残した 各学力試験のオール優 評価と…。

…自らが最も有利な実技剣術以外の実技教練科目での超克だったが、剣以外の一つも 彼女には及ばなかった。


そんな輝かしい挑戦の日々の最中、彼女は中央大陸で毎年催される有名な魔術・錬金師学会で、世界的権威として認められ…。

…皇国に帰って来てからは〈若き賢者〉と呼ばれ、在学中に連合侍衛軍 幕僚総監部 特別諮問機関『兵器戦術開発局』主任研究員として招聘されるに至り、たまにしか学校に来なくなった。


バイト感覚の兵器開発でも 携帯戦闘用ナイフ、白兵戦用軍刀考案に留まらず、新式歩兵拳銃の開発及びその運用案、歩兵用小銃の大幅改良等々、かなりの実績を残した彼女は 幼年部卒業後 士官学校本校には進まず、幕僚総監部預りの幹部候補上等兵扱いで、第二軍団の一銃兵として入隊してしまった。


それから 程なく…。

…皇国軍史上 最年少での〈銃師〉号取得。

それに伴い……『錬金銃兵科』という陸軍特殊兵科を創立し、現在 機動龍騎兵連隊長 兼、機動師団教練主任 兼、兵器戦術開発局 客員研究員。


皇国の内外を問わない、紛う事なき 国際的な超著名人……ヒマワリ=M=エンシェントシクロポス。


皇都以外に 居るはずのない要人中の要人。



「依頼受託資格を Sマイナスに昇級させたらしいな? 流石〈貴公子〉だ、イグサス君。ふ」

名に恥じぬ程 眩しい、屈託の笑顔で 彼女は彼に語り掛けて来る。


退屈が蔓延する地獄……極楽浄土からの、救いの主。

彼女との再会により。


止まっていた運命、その歯車がゆっくりと動き出す……のか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る