第四章⑦ 異界の〈鐵塊〉と…〈憲章機構軍〉。



鐵塊の侵入。



〈デザイア6〉への膨大な血鉱石…。

…非魔術性金属の流入は、戦争の、世界の、生物の在り様を劇的に変えた。



凡そ、千年ぶりの…。

…〈地獄門ヘルズゲート〉の出現。


世界に 地獄を顕現する外法者……異界召喚士。

それらによってもたらされた、この世界とは異る世界〈ジースD3〉の武力侵攻。




十八年前の六月十日…。


中央大陸北西部、ヘストン王国の王都メディラート郊外の丘陵上空に その〈門〉は突如出現した。


〈門〉出現時に発生した強力な衝撃波の影響により、王都詰めの軍団戦力の半数以上が機能不全に陥る。

直後…異界戦力が、逐次 この世界に侵入を果たす。


侵入した戦力の内訳は、3000m級浮遊型移動要塞2、中規模移動要塞30、1500m級飛翔攻撃空母8、巡行爆撃空母200、高速駆逐空母450、超音速制空戦闘艇26000、強襲用機動揚陸艦1700、自動半自動兵器群14万、強化人類兵50万……と戦後推定されている。



当時、中央大陸屈指の専制軍事国家であったヘストン王国。


緒戦の巨大衝撃波によって、城壁の一部と王城の『殆ど』が破壊され…かつ、それまでの〈厄の大戦〉と余りにも様相の異なる 死を恐れぬ聖学式自動兵器群を主とした高度な戦術と、生物化学的攻撃への対応遅滞等が重なり…。

…わずか半日で王都陥落。

異界軍…通称〈鐵塊〉は、即日 メディラートを前線基地化した。


そこを拠点として、中央大陸のほぼ全域は勿論の事、北方大陸の南西部…。

…西方大陸北東部を、順次攻撃を開始した。


その結果、約二ヶ月で世界の三分の一を制圧……完全な占領下に置かれた。


しかし、その後…。

…紅刃のゲンジ、氷獄の守護騎士レスター、地犀皇ラズール、狂賢者ヴィル、隕石喰いのラクス、弓帝モーリス、黄泉の癒し手マルゲリータ等…〈厄の大英雄〉達と占領を免れた各国連合軍の連携と奮戦により、〈門〉解放から八ヶ月後…。


…大東洋上に鎮座する浮遊要塞に終結した異界軍主力の打破に成功する。


敵主力部隊の撃破から一ヶ月後、〈門〉は消滅し……終戦を迎えた。



被害…。


…かつての〈厄〉とは比べるべくもない、甚大な被害報告の内容には慄然とする他ない。


戦死430万、戦時不明17万、民間死者不明者……1200万。

主戦場となった中央、北、西の三大陸に存在した57ヶ国中15ヶ国が……滅亡。


当初の舞台となった専制軍事国家 ヘストン王国も勿論、今は存在しない。


王都防衛に於ける市街戦で 全ての王族が討ち死にし、その後の占領下で異界軍に取り入った者達と 抵抗し拘禁されていた者らの間で、この地は今でも激しい内戦が繰り返されている。




戦後、放棄された異界兵器群の技術転用及び航空戦術の有用性が 大いに指摘され、各国軍関係者らは挙って それらを大戦の教訓と宣い…。

…本格的な聖学(科学) 技術開発の促進が共通認識となる。


但し、これを増税と戦費拡大の好機と見た各国は、一部を除いた 国内の異界戦跡の完全国有化と技術研究の独占を実施し、それによって開発された物理、化学方面技術による全世界的な軍拡競争の激化が、現在に至るまで行われる事となった。



昨今、この分野で 最たる躍進を見せ、世界最速で近代化を成したとされる国家があった。

その国家の名は 帝政ミネルバ人民会議。


そんな、微妙……というより、かなりの矛盾を内包した国名を冠する 聖学至上の技術官僚主導の軍事国家…。

…一般的には〈帝人領〉と呼ばれ、500年前の突如発生した政変によって 何故か帝室を擁するに至ったという…。

…隣接する大国、天道連合皇国とは成立起源が全く異なる 相当に変わった帝政国家であった。





今日は、八月十五日。


『第二次異界大戦』と呼称される〈第九忌千年紀の厄〉東方戦役の終結から 二ヶ月遅れで宣言された『西方戦役』終結記念日だ。


宣言遅延の理由は、明らかだった。



〈門〉が出現したのだ。


ヘストン王国王都近郊に件の〈門〉が出現したのと ほぼ同時期に、皇国北部の中央山岳地帯にも…。

…それも、東方で出現したモノより巨大な〈門〉が発生していた。


侵入して来た敵性異界戦力は、たった一つで…。

…それは、浮遊型移動要塞だった。

全幅が有史以来最大の…。


…5000mを超える 鐵塊中の鐵塊が、皇国屈指の険峻である雪多い山岳地に陣取ったまま、実に 五ヶ月以上 当事者たる皇国政府自身にも気付かれない程、静かな占有…。

…いや、侵略だった。


その、密かな占領に気付き〈超大陸憲章機構〉連盟軍 緊急展開部隊臨時駐屯地開設の為、皇国北部軍港の開港を求めて来たのは…。

…〈帝人領〉政府だった。


〈憲章〉による要請という名の強制に屈する形で、仕方なく皇国政府は軍港を開き 各国混成の駐留軍11万を受け入れた。


しかし…。


『…西方侵略異界軍、侵攻せず』


『とにかく、東方戦役と大東洋要塞攻略で失った兵力と糧道を整える…』


そんな名目によって駐留機構軍は、駐屯開始から半年の間…。

…皇国北部沿岸地域に広く居座り続け、最大で54万もの大兵力に至っても まだ進軍を渋る有り様だった。


その、皇国としては 非常に望ましくない、長い待機期間の間には…。

…〈帝人領〉が領内で擁護し、傭兵として連れ込まれていた 青鬼ゴブリン犬頭鬼コボルト部隊の大反乱が起こり…。


…本来、西方大陸北部に生息域を有してなかった 青鬼族や犬頭鬼族が、皇国中に蔓延はびこる結果となった。

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