第四章⑥ 光路の外側…魔境無き 呪いの地。
皇国北部辺境領…。
「…〈光路〉外の『人内魔境』…。…魔境無き呪いの地か…」
「?…〈光路〉って、何だっけ?」
何とはなしに呟いただけの ヒマワリの独り言に、疑問を呈する隻腕の妹。
「…………………………」
「……な、何で? 何で皆 黙んの?! 何で、黙んの、よっ!?!」
素朴な疑問から一部恫喝と化した アユミの質問の矛先は、限定統帥権の行使により臨時の上官となった『紅四号』隊長に向けられる。
不条理な状況に嘆息した隊長は…。
「貴殿の妹御は、何と言うか……流石、『ユニーク』ですね 中佐?」
…ヒマワリに向き直り、何かを促した。
「ふ。…まあ、余りの愚妹っぷりに 数瞬の間、彼岸が見えましたが…考えてみれば、これが通常運転というやつでして…」
「……これが通常、ですか」
慄くように返す隊長。
「ブランド愚妹というやつです。 唯一の家族としては血涙が出る程 うれしい限りで……勿論、隊長閣下と言えど 差し上げませんぞ? ふ」
「…中佐の その耽溺ぶりも、十分…愚直の誹りを免れ得ないと申しておきましょう」
「ふ」
心底 嬉しそうに微笑む、ヒマワリ。
それを見て、声無く喜ぶロクロ。
そんな二名や、先程 沈黙で応えた天魔の少年に突っ掛かっているアユミ。
その様子に 余程呆れ返ったのか……でも、何故か…。
…安堵したようにも見えた。
藍色に照り返す、街道……そこを、東に行軍する一行。
「…〈光路〉とは、陰陽双児神の一柱…光天の加護とされている光学的現象の事だ…皇国出身者なら誰しも、夜を東西に渡る 光の線を見た事があるだろう…まあ、我には見えんがな」
徐に…そう、ヒマワリは口にする。
「ああ。皇都の上を
ポム…♪
…どうやって出したのか、そんな間抜けな音を立て 理解の旨を示した。
「…偶に、ではない。毎日…だそうだ。」
「……毎日?」
「ああ。日中は ほぼ全天に展開されてて…雨の日や雲が厚い時は見え辛いらしいが、通常 日暮れ以降は光線状に変化し、夜半前には消失する……らしい」
「へえ。そう言われたら、そうかも…ヤバいわ」
「ふ。ヤバいのは、皇都に五年も住んでおいての 愚妹の体たらくだ」
「へ…? いや、まあ」
「……何故、照れる? ……はああああ。…まあ、皇都…というか〈光路〉の南北各500㎞程の範囲で、光天系魔術の効果が増大する……らしい」
「ええ?! ソレって…」
「良かったな、愚妹よ?…昼間だったとは言え、北部三叉が〈光路〉外で…ふ」
「………アレって…結構、ヤバかった…かな?」
「ふ。…まあ、良くて一撃目の光天砲(仮)で その乳ごと灰になってただろうな」
「…いや胸は、絶対関係ないでしょっ?! って……え?…何」
胸を隠しながら姉に猛抗議していたアユミは 突然、何かに気を取られ…。
……ド…ン。
その時、街道の先から発射音と共に 何かが撃ち出され…。
…藍色の街道を閃光が、順に 真昼のような強烈で持続的に迫りながら来る 。
「照明弾!?…あと……75㎜『聖式』榴弾来るぞ! 森に…」
更に撃ち出された砲撃への 警戒を促すヒマワリ。
直後…。
…凄まじい爆圧に押されるように、パーティは街道脇の森に逃げ込む。
「…『聖式』榴弾って!?」
桜色の巨大な盾で、殿として爆風を防いだアユミは 姉に尋ねるが…。
「『紅』殿…宜しいですよね?」
…その姉は妹の言を片手で制し…いつものシニカルな笑みと 厨二ポーズを決めながら。
流れて来た爆煙の中…隣に蟠る影に語り掛ける。
「どうぞ…」
その紫煙は、ただ そう答え…消えた。
「ふ。…総員、対『聖騎士』戦闘用意…。愚妹よ、やれ!」
パーティと妹に命令を下す。
「分かってる! あと、愚妹言うな!…〈
隻腕の女勇者…その背が虹色の輝きに、閃き…。
…昏い森の一角に、白い闇が満たされる。
「確かに『聖騎士』みたいだけど…。…ねえ、姉さん。…何でこんな北部に『聖騎士』…帝人領の兵力がいるのよ?」
嵐のような砲撃が降り頻る中、女勇者は姉の顔を睨み付けながら 問う。
「『盗み地』だ…」
「…『盗み地』?…」
「〈大戦〉終結後に残された放棄地…、元 各大陸混成軍属居留地…。十七年前に締結させられた国家間臨時土地交換協定に基づく…。…つまり、帝人領『協定駐留軍駐屯基地』だ」
…魔境無き『呪いの地』
予てより この地は、人と人の争いの坩堝だった。
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