第四章④ 餓鬼種…襲い来る『G』の恐怖。
闇に同化しそうな程 暗い赤紫…。
…そんな夜間専用配色などという 贅沢な使用の忍装束を纏う者達。
それらの内 一名が、凄まじい速度で 望月の宵を 錯綜するかのように…。
…『橙褐色』の重装騎士の合間を縫いながら、 鈍色の短剣を振り続けている。
一名…?
…六名 居た人員は、そう……一名のみ。
その一名のみが 戦っていた。
他の者達は…。
…『喰われた』。
『橙褐色』をした騎士らは 十体程のとある集団であり、本来 忍装束らに負ける要素など 何処にも無かった……はずだった。
非公式ながらも…。
…皇国最暗部の一つにして、最強の戦闘エリートとされる彼ら。
激戦により
神皇親衛…隠密侍従特任中隊〈
『庭番衆』とまで称される彼らは、その名の通り 皇都どころか皇宮からさえも離れない。
かの〈厄の英雄〉の一星……剣鬼ラフレシアに率いられ、『特工』及び『幻の第七軍団』無き 現在の皇国に於いて『八咫の神兵団』と並び、名実ともに最強とされる 隠密特化の高機動戦術部隊だった。
そんな忠勇無双を地で行く、ハイパーエリートらが喰われた…。
…10数分の短い間に。
たかだか 十体程度の、
確かに、西大陸固有の要警戒高位妖物種群に分類される〈黄泉兵〉は、下位互換種である通常の屍武者より格段に強靭で 素早く、手強い存在とされていたが……今、目にしている『橙褐色』の騎士らは 明らかに、通常の黄泉兵の強さに、異質な能力……いや。
『習性』……が、付随していた。
偽金の翼竜帝編…。
…そう 呼ばれる、ある物語があった。
【二大禁】…。
…古代魔術帝国期 以前から、【デザイア6】に 存在する『二つの戒め』。
その二つを、後代の者達に遵守させる為か…『尊き先人の教え』として 測定不能に古くから伝わる、この世界の誰もが知る 名著写本…。
…『口述 竜討聖欲伝。:偽金の翼竜帝編』。
それに登場する 名高き魔軍〈
この世に在る 全ての富の独占と その正当性を謳い…。
…嘘か真か、中央大陸で流行し始めているという新興宗教団体〈唯一神教統合会〉の前身である…〈ユーロアフリッケ聖宣同盟〉と、百年に渡り 五度の世界大戦を争ったとされる伝説の魔竜…。
…白金戦争。
究極矛盾。
聖邪の戦い。
自我と無私。
執着と無関心。
利己主義と全体主義。
中庸や多様性の、徹底的廃滅。
寛容無き、破滅の末世。
『過ぎれば どちらも…破滅の毒でしかない』
そんな、当然の教訓を 伝えてるだけの子供向けの童話だ。
因みに異界の学問及び学術体系全般を指す『科学』を、一般では〈聖学〉と言うが……この世界での『聖』とは、無機や無私、いわゆる 他者への完全依存という意味で用いられる語句である。
ともかく、その伝説の魔王麾下には戦魔 あるいは〈朱の銅〉と呼ばれし軍神 率いる『橙褐色の狂獣』があり、それらは…。
「…ン何で、コイツら !…こんなに……こんなに〈
大声で 毒づきながら、不思議な緑髪の…。
…隻腕少女が、生き残りの〈紫の虹蛇〉隊員の横に来ていた。
少女は、巨大な
「ウルッ…せい! 喧しいぞ、この牛乳女が!…黙って、その〈飢餓刀〉で…『殺虫作業』続けてろ !!」
と、既に 隊員を挟んだ反対側に来ていた黒髪の少年が、鈍色の双剣を 縦横に振るいながら 隻腕少女を罵倒する。
強烈な臓物臭と 形容し難い色合いの唾液を撒き散らし、奇声と羽音を鳴らしながら…次々と襲い来る〈
「…だ、だって!…ひっ?! コイツら、どお見ても…ふわっ?! 『G』じゃん!?! く、来んな来んな、来んなああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな、発狂寸前で戦く少女が 背負う石刀から轟雷が発っせられ……瞬時に霧散した後。
囲い来る、少女曰く『G』の 全てに…。
…宵闇を忘れさせる程の『白き剛槍』が、強烈な爆音を伴い 降り注いだ。
万物を愛でし、大いなる望月の加護を圧した 白き暴虐が去り…。
…只々 優しく広がるばかりの、藍色の静寂が 戻る。
かつて、在ったという伝説上の軍神…〈朱の銅〉。
その配下として 名を馳せし『橙褐色の狂獣』達……最上位〈
…〈
「……………………」
優しく暗い 静寂の中…。
…美しい瑠璃色髪の少女は、月の化身の如く 佇んで…。
「……ぅヲイ。…」
奈落の底から…。
…声が聞こえる。
煌々と降り注ぐ、月の恵みに 気分良く浸りながら、隻腕少女は 声のした方に振り向く。
「…てめえ。VIPが…何で オレ様が居るのに稲妻撃ちやがる…? …それもアアン? 〈
当然の苦情を、かなりの怒気を孕んで捲し立てる黒髪黒服の少年。
「…………………………」
「………おい。…ぅヲぉイッ!?!」
引き攣る微笑で固まる少女に、堪り兼ねて問い質す少年。
「……ちょ、ちょっぴりヤバかった…かな? テヘ♡」
片腕で、器用に『ブリ娘』と呼ばれる伝説のポーズを取りながら…猫なで声で応じる少女。
「「ヤバ過ぎるわ!!」」
丁度、落雷時の気絶から醒めていた隊員と 黒服少年は、激しくかつ同時に突っ込みを入れたのだった。
この盛大にボケた(突っ込みを受けた。)隻腕少女…。
…一応、彼女は『
…〈女勇者〉を自認する、ちょっぴりイタい女の子だった。
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