第三章22 厄の審問団と 再びの〈赤き血〉。
「何で…? こんな事に…」
…〈解放約定〉の締結。
旧帝国の技術事情に造詣のある、姉ヒマワリ 曰く。
儀式系に特化した導師級魔術師や最適化された環境が整っていない現状で、
…つまり、当事者たる主従を 中央に配した上で かつ最少でも4名以上で囲み、略式儀典を執り行う必要性があるのだという。
しかし、魔術抵抗が高過ぎる虫女は 勿論、儀式には混ぜられない…でも。
「「「………………………」」」
アタシと姉、それから…。
「……久しぶりじゃのう、雷の小娘」
小っさ…。
…いや、低っ。
ミナコが右手指に嵌めていた『信号呪の指輪』によって呼び集められた…
一方は、親父様だった………姉の。
例の『銀色マリモ』…じゃなくて、巨大銀髪アフロの大英雄。
〈地犀皇〉…老ラウール=ラズール。
「……ど、どうも。お久しぶりです…」
…ヤバヒ。
物凄く、気まずひ…。
「…暫く会わなんだ内に 随分と、スッキリしてしもうたのう…?」
呻くように そう挨拶して来た老英雄の視線は、アタシの右半身を彷徨う。
…恥ッ!
初めて家族を、姉を伴い出掛けた冒険小旅行で コンナ無様な深手を負ったとか 有り得ない失態! 恥ずかし過ぎる。
姉さん。ヒマワリ姉さん、助けて~!
かと言って…姉が相手しているもう片方の年長者も旧知の間柄らしく、何か窮地な感じで…。
「おう、ヒマワリ少佐。いや、退役…少佐か。…貴様、良い身分になったものだな? このオレ様より早く退役し、あまつさえ雑魚とは言え 妹の身も守れんとは呆れたぞ…」
「ハッ、面目次第もございません! サー!」
と、いつになく恐縮した感じで 皇国軍式の敬礼を行う、退役したはずの元少佐の姉。
そう、元なのだ。
今更そんな、頭ごなしな言い方を 幾ら階級が上と思しき年長者であっても…。
…正直、ムッしたアタシは…。
「ちょっと、オッサン⁉…ア痛ッ!」
紺色の色眼鏡を掛けた、ほぼ球形な体型の小男 年長者相手に食って掛かろうとするアタシの、キューティフルなヒップに激震が走り抜け…。
「愚妹が大変失礼致しました! 名誉大将閣下! サー!」
…アタシの尻を打擲すると同時に、元の敬礼ポーズに戻った姉。
その表情には いつもの余裕は、無かった。
「…ン?…大将? 名誉…大将って…」
そこまで言って、アタシも姉の意図に気付き…。
「……た…大変失礼致しました! 名誉大将閣下! サー!」
姉に倣い、一見オタクにしか見えない玉のように丸っこい小男に敬礼を行う。
お忘れかも知れないが…。
…これでもアタシは予備役とは言え、連合侍衛軍特務大尉扱いの
アタシの左腕での敬礼をご覧になった、この名誉大将閣下…。
「……ケッ、雑魚が」
クチ悪ッ⁉ 何コノ オタ大将閣下は…。
…しかし 階級や人格はともかく、このオタ…御大尽に逆らえない理由がいくつかあった。
〈紅刃のゲンジ〉…。
…元は、在野の素浪人だったという。
しかし〈厄の大戦〉での勲一等の働きによって 皇国の武力を世に知らしめた功績により、先帝から伯爵位と名誉大将への特進 並びに、憲兵総監職プラス参謀総長付き特別顧問職という破格の待遇で召し抱えとなる。
また、かの〈九頭龍の剣姫〉の 剣術指南役でもあったとの噂あり。
当代最強の誉れ高い 火系霊震剣術〈
最強の中の最恐…〈
確か、現在は…。
「…ゲンジ。否、煌龍斎殿…余り、そこな二名を苛めるでない」
ミナコが、ニヤニヤしながらゲンジ卿を嗜める。
「…〈煌龍斎〉って、
地上最強の小男が、ゲンナリした様子でミナコに返す。
…そうだ。
超大陸憲章機構からの要請で〈連団〉に…〈審問団〉教導連隊に、出向中だった。
「ならば、その位にしておくが良かろう。その者らが居らねば、今 妾は…この世に居らん」
「……ヘイヘイ、レイナース総長殿。了解しましたよ!」
拗ねた子供みたいな 投げ槍さで応じるゲンジ卿。
「………は?……………って『総長』かよ!? よりにもよって!」
立場も弁えず、アタシは思わず ミナコにツッコミを入れてしまう。
「…いや その、アユミ。う、嘘は申しておらぬはずじゃぞ? そ、『総長』と言えど 広義には『隊員』じゃからして…」
何故か シドロモドロな感じに答えて来る、世界最強の戦闘集団…〈厄の
「…?……まあ 良いんだけどね、気にするような事じゃないし」
「ふ。愚妹よ…今頃 気付くとは相変わらずの鈍さ、いや…流石の鈍さと 言った所か?」
イヤな笑い方で アタシを見上げつつ、いつもの毒気を 吐き出して来る毒吐き屋の姉。
「気付いてたの、姉さん?!」
「ふ。当然だ、確信したのは ゴータミィの
存在を知った時点だが…黒服との戦闘でのオリハルコニア製鎧の質量や拡張性能を愚妹も見ただろう? 全身鎧を維持したまま、超級の大剣と大盾まで造り上げていた…」
「…あ。そう言えば そう、かな?…」
「…ぐくう。覚えておらんのか?…ふ。流石は、我が超級の愚妹だな。…まあ とにかく、安定した 通常の鉱物系オリハルコンなら いざ知らず、アレ程高密度の生体オリハルコンを〈
「……ぶ、ぶっぢ?…」
恐らく、かなり困った表情で 姉に訴えたはずであるが…。
「…………あ。…いや 良い、極まった愚妹が気に病む事ではない。とにかくだな?…生体オリハルコンというのは 例えSランク冒険業者でも そうそう維持出来る装備ではない、という事だ」
…可愛いブランド妹に対し、何やら心底 憐れんだ表情で説明して来る姉の顔を見てると、無性にヒッ叩きたくなるのは 何故だろう。
「……え、と。国家元首級の優先権でも持ってなきゃ、って事?」
「まあ、そんな所だ。ふ。…そして、そろそろ儀式を始めるぞ」
説明は もうお仕舞いだ、と言いたいのか…いつもの厨二ポーズで締める姉。
そこで アタシは、ある事に気付く。
「あ…っと。何でココだけ外れなかったのか分かんないけど…」
そう言いながら、左腕部だけ装備されっ放しだった常時 煌めく桜色の肩当てと手甲を解きに掛かる…すると。
「…あ?…あああ!? アユミよ! それは…そ奴は そなたに下賜した物じゃから、外すでない!」
慌てた様子で ミナコは、アタシに制止を求めて来る。
「……へ?…イヤイヤイヤイヤ。流石に貰えないわよ?! こんな貴重で強力な魔術装備!…まあ、コレの魔術増幅性能のお蔭で右腕だけで済んだのだけど…」
欲しいのは山々だけど、さっき〈
「ならば 尚更、着けておれ。の?」
「………………」
意外を通り越して、正直 アタシに対するミナコの過保護さが…不審だった。
しかし、その様子を他の連中…特に姉は、ニヤニヤしながら見ていた。
「…その程度なら、まあ『足りる』だろう。くれると言うのなら、ありがたく貰っておけ。…そんな愚妹的些事より、さっさと配置に着け、名誉大将閣下 他二名も 既に準備を終えてお待ちだ」
アタシの視線に気が付いた姉は、意外にあっさりミナコからの装備譲り受けに同意した。
「…わ、分かってるわよ…」
何かが釈然としない イヤな心持ちではあったが、所定の位置に陣取る。
「ギャハハ! 手前ぇも 大変だな、牛乳娘」
横合いから 声を掛けられ、そちらを見てみると…。
「…あ、アンタは!?」
…そこには、虫女所有の腰綱〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます