第三章⑩ 天魔憑き と 被虐的な彼女。



まあ その、アタシもなんだけど…。

…皆も唖然として、沈黙する他に無いんだろうけどね…。



悪夢か 何かの冗談みたいに…念入りに掘り返され、強引に抉り取られた無惨な造成痕を呈している…。

…皇国北部の大往来、北部三叉。



「……………………………」



真夏の朝とは言え、暑中見舞いに吹き荒れた光の嵐は…。

…行き過ぎた暑気払いヨロシク アタシの、そして 皆の心胆を寒からしめて余り有る惨状を呈していた。


先に アタシが放った 銘〈預言者の永月〉による攻撃…では 勿論なくて…。



…〈オリジナル『羅睺ラーフ』〉。



そう、姉が口にした固有(代)名詞…例の〈人形〉が起こした〈光天系魔術〉の着弾余波であった。


そして、その固有代名詞にアタシは 聞き覚えがあった…『施設』…。

…籠の鳥だった あの頃…。

…『姉妹達』と共に 産み出され、生かされた〈過去の地〉で…。



「…つまり、アレの…『 i 計画プロジェクト・アイ』の?…」

色んな意味で理解が追い付かないアタシは、オズオズと姉に聞く以外の選択が出来ない。


それが本当なら…目の前に居る〈人形〉は、アタシや『姉妹達』を造り出した『超兵育成増産計画』発案の元になった 古代魔術王朝期の超技術で造られた真性の化物だ…。


…何せ、あの…有史に煌めく 強力な〈英雄〉達の『源流中の源流』…。

…八人いたとされる かの世界師の内、七天らが直接手掛けた超一級の対〈厄災〉用人造兵器群の『唯一の試作品オリジナル』なのだ。


そして、現存する どの古文書も…。


…この〈オリジナル『羅睺』〉の開発時期で、途絶えているのだという。


現在は死に体同然とは言え、数年前までは列強の一角だった大国である皇国が、相当の資金や時間、労力を費やして『 i 計画』の復活に尽力したにも拘わらず、出来たのはアタシを始め数十体の…『欠陥英雄』しか産み出せなかった…。

…それに対し、あの〈人形〉は…自らの産みの親である世界師諸共、魔術王朝を崩壊させたかも知れないのであって、現代先端技術と古代超技術…まともに争う事の虚しさ、その点 推して知るべしだろう。



そんな考察をしているアタシは 気付いた。


ミナコと、それに…対峙していたはずの〈人形〉の顔が、こちらを向いている事実に。


そして、ソイツ…〈人形〉は、意外な程 流暢に…。

「…何故、ソノ〈天魔憑きマーラ〉ノ 処分ヲ…阻害スルノデスカ…疑問符」

極端に首を傾げた状態のまま、身体をコチラ向けながら…アタシに問う(語尾が変だけど…)。



…〈天魔憑き〉。


この黒服の事だろうけど…でも。

対〈厄災〉用のはずの…強力無比なこの〈人形〉が 何で〈天魔種スライム〉の排除にこだわる訳…?

…さっき迄は、アレだけ執拗に攻撃をしていた黒服には見向きもしないで ミナコに ご執心だったのに…。


「……無事か!? アユミ!…済まぬ、説得が効かん !…ゴ、ゴータミィは…こやつは、狂ってしまっておる!…逃げよ!!」


『ゴータミィ』…?

それが この〈人形〉の固有名詞…〈真名〉なのだろう。

やっぱり ミナコは、この〈人形〉と知り合いだったんだ…。


「……ん?…逃げる?! ヤ、ヤバっ!…ど、何処に…?」

先程の、ミナコからの警告が不意に甦り、焦り始めるアタシ。

そんな アタシの、動転具合いなど お構い無しに…。


主様ラージャノ縁者…否、係累ノ汝ヨ…残念。排除ヲ阻害スル意図…答エテハ、貰エナイ様子…因ッテ、排除シ…」


…ザザザ!…。


〈人形〉が警告し、コチラに腕を向けると同時に…姉がアタシの前に、そして それを庇う形で 虫女が、最前線に立つ。


「…疑問符……〈院ノ君〉…。貴方トハ言エ、未ダ悟性ヲ得ヌ〈卒羅刹〉。ソシテ、ソンナ 下賎ナシモベ…〈麝香のトリコ〉如キデハ、ゴータミィ二抗セマセンガ…疑問符」

疑問形を大陸公用語で表現出来ないからなのか…。

…既に傾げ過ぎな感が否めない首を、更に傾げながら…テラテラ輝り無感情に喋る〈人形〉…『ゴータミィ』とやらは 告げ…。


…シュウオオ、ュウオオオオオオオオオオ…オオオオオ…オオオオ…オ…!!!


〈院ノ君〉!?…って、考えてる暇無く…。

すでに本日 三本目の、尋常じゃない高威力〈光天砲(仮)〉を撃って来る !


やはり、先程の〈光天砲(仮)〉を防いだのは〈轆轤〉…虫女だったみたいで…。

…幾ら、非魔術性に秀でた〈血鉱石〉製甲冑でも、空気を伝播した余熱は避け様が無いのだろう…先にも増して、沸騰しそうな湯気が…。


…いや、強烈な麝香を伴う紫煙が立ち上る。


併せて…。

………鶏皮から脂が流れ落ちる音…とか、急激に反応した脂の加減で 肉が爆ぜる音……とかが、聞こえ始める。


主人である姉の為、必死に何かを…堪えている〈女|楯奴〉の全身は、震えていた…。



「……………………………」


アタシの…予想が、その…正しいなら、そろそろ 始まると…思う。

目の前で、腕組みしたまま男前な仁王立ちする姉の表情は見えないけど…どんな顔してるか、何となく…分かる。


時期に、始まる………来る。


「…ァア、アァ…痛アアアア、アアッ♡…アアアアアァ…♡!! 」

とうとう堪えられなくなった轆轤…いやさ、虫女は 声を上げ始め…。

…場違いな程に、艶目いた声を…更に 荒げ始めた。


…………虫女が……居座る前方や、周辺の空気や地面からの輻射熱から…この、アレな彼女が受けている攻撃の強度や…苦痛?の度合いが、アタシでも 推察出来た…。


…単発の魔術弾ではなく、同威力を持続して放出される〈光天砲ビーム(仮)〉の伝播熱で、彼女の…変態虫女の甲冑内部温度は 恐らく、筋骨が…。

………『見え』、生き残った皮膚や色々な 知りたくもない箇所も炭化し始める程の高温に曝されている………はず。


「…イ、嫌ヨ!?…痛っ! 痛い♪…ナなナ…何で?♡?!… ゥアアアァイタイ…嫌ギャ! ァアアァ♡アアアアアアアァ!! …ィタ♡イイ♪痛イ! イ、嫌…じゃ、ナイいィひィぃィ?!♡!?……」

その…色んな意味で 聞くに耐えない妄言や睦言を大声で、吐き出しながら彼女…否、変態女は事も有ろうに…。


…ビーム放射中の〈ゴータミィ〉に向い…歩き出したのだ。



「「…………………………」」


『恐るべし…〈麝香兵〉』とは思いつつも、多分 この異常極まる喜劇ファルスを嬉々として見守ってるだろう…かなり壊れた姉に、非難がましい視線をアタシは送ってしまう。



姉、曰く。

被虐的な…ガチで被虐趣味な 彼女の求める理想的な闘争とは、最も困難で そして…『最も 苦痛に満々ていなければならない』らしい…。

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