第三章⑨ チーターと〈オリジナル羅睺〉。



かつて、世界…いや、史上最高と謳われた偉大なる暗殺者〈獣拳聖ターバ〉…。



無辺光インフィニティレイ〉と称される〈光天系霊震〉を創始した獣鬼族出身の…稀代の拳師クンフーマスター

噂では 彼は特殊な能力を有し…生涯、食物を一切 口にしなかったと言われ、一説では異界人との混血児ハーフである可能性も 示唆されている。


後に 〈光龍仙〉と名乗り、後進の育成を終生行い続け、多くの英傑を世に送り出した。


今日…世界に 陰陽道術(皇国名)…〈双樹神系光闇魔術〉が、これ程 広範に かつ高い汎用性を持って 広まり発展を遂げたのは、〈ターバ師のお蔭〉と その功績を讃える者は 世間に少なくない。

そんな奇特な元暗殺者の彼が、晩年…片手間に造り出したと伝わるのが…〈光天系魔術武器〉…。



…銘〈預言者の永月〉。


対水妖・水系属性魔獣…そして〈対天魔種スライム〉攻性に特化した巨大なミスリル製 獅子尾刀シャムシール…。


…使用者が…ある一定以上の条件を満たした場合のみ 発動する光天系魔術…『双渇望そうかつぼう』。

…効果は絶大だ、見ての通り。


「…本当に…見事に カッサカサね」


だから、本来 同族扱いの〈ホモ族〉…亜人種全般には使わないし、くだんの〈超大陸憲章機構〉加盟国間に於ける交戦規定でも 勿論『原則、使用不可』になっている。


かの 特級危険指定大呪物グレートカースアイテム…異界剣〈血刀ブラディア〉や〈狂神剣ブラストソード〉と並び 恐れられる凶悪無比な代物。

元とは言え、佐官級軍人だった姉が その事を知らないはずも無く…それを弁えた上で、敢えてアタシに 使わせたのだ。


でも…そんなモノを使用され、あまつさえ その直撃を受けて…まだ生きているコイツは、実際 何者なのだろう。


異界から来た 若き黒服の…『赤い血』と『血刀』を持つ〈特才転移者チーター〉。

そして、ただの〈特才転移者〉では有り得ない強靭な生命力と……あの『戦い方』。

昔の…アタシに良く似た、両手剣の使い手。


でも、コイツがミナコを刺した…短刀で刺した直後を、アタシは確かに見た…。


…確かに………舌が。


有り得ない程 舌が伸びて…。

…青い血に濡れた短刀の…『柄を巻き取って』いた。



その様は アタシに、この【デザイア6】で語られる ある〈角無族の青年〉の伝承…。

…その、元〈英雄王〉の伝承を想起させる…。

……三千年前、独自の〈闇霊震〉を創出し、〈英雄〉となり…。

…その後 瞬く間に〈龍界〉・〈入道界〉・〈魔神(古神)界〉の三界を統一し、〈厄の大戦〉を引き起こしたとされる…〈天魔王〉の一角、覇王『闇帝』の伝承を…。


アタシは、未だ ミナコと対峙し続ける〈動く水晶人形〉を 振り返る…。


アレが目的で〈嵐塞郷〉に居ただろう事は、今なら分かる…。


「……アンタ。何で…」

そう呟きながら、再度 蠢き続ける黒服を見下ろすアタシの所に 虫女が姉に伴いやって来て…そして、横を通り過ぎ…。

…残骸の様な黒服の元に至る。


すると、虫女…というより、姉は…。

おもむろに懐から 銀色の巨大な…自動式拳銃?を取り出し、カサカサ動く残骸に向け…。


『…ジャ、キン』

澄んだ金属の擦過音と共に…。

…スライドを…引き切り。


「……え?…ちょっ!?」

いきなりの展開に…アタシは、混乱した。

しかし、そんなアタシの状況をおもんぱかる事無く…。


『…ガチリ』

撃鉄は、起こされ…。



…照準も定めないまま…姉は。


躊躇ためらいも無く、引き金を…。


…引き。



『ギュイン!』

『ガオォンン!!…ォン……ォ……』


魂消たまぎる号砲の余韻が 霧散する前に、アタシは…姉の銀銃をカチ上げた 自らの銀刀の刃を見詰めながら 尋ねる。

「………何で?…」


「…はあ。〈ロク〉…下がれ」

「……ハイ…主様…」

溜息混じりに 姉がそう言い、それに対しアタシの斜め前から肯定が返った時……初めてアタシは、自らの現状に気付く。


虫女が、既にそこに居て…。

…更に 手甲の片腕を、巨大なハサミに変形させ…。

…アタシの身体を、いつでも袈裟切りに両断出来る体勢で掛けていたのだ。


虫女が控えた後、姉は再度 黒服に銃口を戻しながら…諭す様に言った。

「アユミ。…愚妹も分かっているだろう、アレが…その男を追って来ただろう事を…」


「……な、何となくは、分かってる…けど…で、でも…」

銃を 下げようとする石切鬼ドワーフの血を引く姉のバカ力に対抗しながら アタシは食い下がる。


「では、剣を引け…」

姉の言は にべも無く、更には両手で拳銃を握り直し…重力と共に数倍の荷重を、掛けて来る。


「ん!…じゃあ…何で、昨夜の…あの時、アタシが、言った時は…んくっ…ヤらなかっ、たの、よ?!…」

ここまで来ると、黒服など全然関係無くて…正直、どうでも良くなって来る。

〈女勇者:公称〉としての意地…そんな『戦士の誇り』みたいな 何かが、鎌首をもたげ 暴れ出し…姉の理不尽な膂力に何とか対抗させてくれる。


「…!…わ、分からん…愚妹めが、昨夜…とは…な、何だ…とにかく、色々…状、況、が…変わっ、た、のだ!…ヤバい、のだ!?…アレは、オ…〈オリジナル〉、なのだ!!………!?」

そこまで言った姉が、銃を手放し アタシに覆い被さる。

「…?!…ちょ、姉…」

姉に 投げ懸ける文句を、アタシが発する直前…。


…ボヒュ、ュウオオオオオオオオオオ…オオオオオ…オオオオ…オ…!!!



音も立てず 圧倒し、姉とアタシを…光の乱気流が包み込んだ。


しかし 何故か アタシは、目に写り荒れ狂う猛威の状景を…。

「……………………………綺麗。…」

…だと、思った。


幻想的な状景と、最近、色々あり過ぎたからなのか…少しだけセンチメンタルになったアタシは…。

「……久しぶりかな?…姉さんを、こんなに近くに感じるのって…」

そんな事を嘯きながら、場違いながらも茫然と その状景に見惚れている。


これまでに無く 必死な表情で…アタシの頭と胴を抱え込む 姉の為すがまま、仰向けの視界の先が…。


…周囲全てを染め抜いていた真っ白な嵐が、収束し 青空へと戻って行く。

光の幻想が、嵐が去り…。


…そして 快晴の朝焼けが、現実が 駆け足で戻って来ていた。



「「……………………………」」

もう少しだけ、黙って姉に押さえ込まれていようかとも思っていたけど…。


…直ぐ様、姉はアタシから離れながら。

「…………ふん。…相変わらず 乳ばかりでっかく成りおって…この、愚妹が !」

いつもの姉に戻っていた。


「…もう。あのね 今それ所じゃないでしょ?…ヤバいじゃん ?! 結局、アレって何なのよ?」

アタシも、いつもの調子で返す。


「全く この愚妹は! ふ。…まあ、良い」

姉は 埃を払いつつ立ち上りながら、いつもの…厨二スタイルをキメながら宣う。



「…アレは〈オリジナル〉。…〈オリジナル『羅睺ラーフ』〉だ !!」

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