第三章⑧ 水晶人形と 空腹の女勇者。



暫く、姉…〈笑々鬼ニコニコオーガくんDX。〉を見ていたアタシに…。


「…はあ…。ほおけ過ぎだ、愚妹よ。それより……分かっているな」

最早 お約束の、侮蔑を伴う確認が入る。


「…あの、でもさ姉さん。…本当にアタシ 入んなくても 良い訳?…」

妹たるアタシを、遥かな高みから睥睨へいげいする姉に おずおずと尋ねながら…。


アタシは、背に負いし愛刀〈金剛杵〉を…。


……ス…。

「…………うん?…」


……スカ…?!…スカ!?………スカカカカ!!

「……………え…ええ!? あ、あた…アタシの剣?!…〈金剛杵〉が?! ヴァ、〈金剛杵〉が無い!?!…何で?!…」


「……唐突に かしましい 愚妹だな。間抜けな貴様の得物なら、ほら ミナ…〈皇帝〉が使用中だ」

「……………え?! 何で、アタシ…以外に…」


「ふ。なあ、愚妹。…愚妹道を極めし愚妹よ…」

「…………あのさ、その…愚妹、愚妹って止めてくれる? 本当にヤバいんだから、知らないヤツに誤解されるんだから !…大体、さっきは『アユミ』って呼んでくれたじゃん?!」

堪り兼ねたアタシは、姉に詰め寄りながらブー垂れる。

そんなアタシに、姉は…。


「ふ。予備サブも持ち合わせんとは、何とも豪気なA級勇者女だな? 我が言うのも何だが…どれ程『愚妹道』を驀進ばくしんする気だ? ほれ、これを貸してやるから 一生恩に着て 精進しょうじんするが…は⁉…いやいやいや、そう!…堕落するが良いわ!!! ぬわぁ~っはあっはぁっはっはっはっはぁっ!!」

…悪そうな呵々大笑をしながら アタシに…鞘まで総ミスリル銀仕立ての獅子尾刀シャムシールを寄越して来る。


「………う。………コレ、使うの?……ほ、他にあるでしょ?…『ガン』とか『リボルバ』とか『ガン』とか『ランチア』とか『ガン』とか『ライフー』とか! ……何で、コレなのよ?!」


「勿論、愚妹が苦r…貴様の壊滅的な腕前を見せ付けられた あの時から、我は 二度と…愚妹に銃火器は持たせんと誓ったのだぁ!!」

そう 黒き王は、女勇者に高らかに…歌う様に、断罪したのだった。



…銘〈預言者の永月ラマディーン


砂漠の王デザートロード〉や〈白昼夢デイドリーム〉とも呼ばれる この大刀…超大陸憲章で『A級以上の冒険者及びそれに準ずる者』以外は使用禁止に指定までされてるほどの、威力は凄まじいんだけど…。

…ハッキリ言ってアタシは、使いたくない。

「……ね、姉さん。アタシ 若い身空で『即身成仏』とかは、ちょっと…」


「ふ。安心しろ…後で測ってやる」

「…う?!」

姉の意味深な言に、アタシは戦きながら幅広ろの大段平おおだんびらを…戦場に向かってかざす。


「…?!」

アタシの〈金剛杵〉…それを第二形態で構えたまま 何故か後退る、ミナコの姿が見えた。


「……!!…ゴータ…ィ!…もう……わらわ、は…?!…………!………!!…」

あの、母みたいな顔をした…不気味なゴールデンスケルトンを内包する〈動く水晶人形リビングドール〉と、何か話してるみたいだけど…。

…何を話してるかまでは、聞き取れない。


まあ、顔見知りだったのだろう…。


…えと、それから…。

…その黄金色の魔術生物に 執拗な攻撃を加え続けてる黒服に目を遣ると…。


「……!?…ぅおい、牛ち…金髪ッ!! テメエ、手伝わねー気かよっ!?!」

黒服(そう言えば…名前を知らない。)が、参戦を促して来る。



あの時の様な、猛烈な血臭は…しない。


「黙んなさい…」

そう、黒服に言い放ってから、アタシは…ミナコに近付き続ける〈動く水晶人形〉に、ゆっくりと切っ先を向ける。

………ソレは…何の反応も、して来ない。


「…なるほど。ミナコや姉さんが『戦うな』って言ってたのは…こういう事なのね? コレは…ただの戦闘用魔動像ゴーレムや拠点防衛用魔術生命マジックライフ群とは、根本的に違う〈何か〉って事ね…」


「…チィ!」

一人得心していると、盛大な舌打ちと共に戦場を離脱しようとする影を アタシは捉え…。


「そう来ると……思っていたわよっ!!」

…大声で 宣言したアタシは、集中しつつ 更なる大音声で…。


「『共に渇き、餓えよ!!』」

…〈預言者の永月〉の力を、その影に向かって開放した。


「…う、い!?…ホギャァ!…!!……?………ァ…」

影…ソイツは、まあ…言うまでも無く、黒服で…。



……カササ…カサカサ……ササ…。


……北部三叉の真ん中。

何の因果か、丁度…昨夜、ミナコが土下座していた地点で ほぼ完全に…干乾びている。



姉やミナコは、勿論 気付いていただろう。

そして、アタシも…不思議だった。

何故…この黒服男が、虫女のくびきを脱したはずの昨夜の内に逃亡しなかったのか?…と。


わざわざ、ここに留まった理由は…アレだろうけど…。


自分なりの思案や考察を 一旦止めたアタシは、未だ「…カサカサ…」と音を立てながら蠢く 黒服に、告げた。

「…ふう。…まあ、感謝しなさいよね?! ……『共に渇き、餓えよ』なんて言葉、アンタなんかに使いたくなかったんだからね !!」



「…ツンデレか?」

背後から静かに 姉の突っ込みが入る…と、同時に。



『…ぐぅ!…ぐぅ!…ぐぐぅ、ぐぅ~~♪…』ぐぐぅぐぅ~…~♪…』



「「…………………………」」


…アタシのお腹が、答えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る