第三章③ 内なる声と〈大慈の女勇者〉。
…!……ボリボリ……ボリリ…。
「……の、のう?アユミよ。…いい加減、機嫌を直しては くれぬか?」
…ボリ!……ボリリ、ボリボリ。
「ほれ…この通り 其方を笑うた事、謝っておろ?の?の?」
豊かにして 真っ直ぐな、鮮やかな蒼髪…。
…黒褐色の 土の上に広がるそれを一見すると、何だか それ自体が 何かの化生の姿に見えて来る。
そんな場違いで浮世離れした物体が、やっと最近舗装し直された 街道のど真ん中に突っ伏しているミナコの頭髪である事は、言うまでもない。
見事な角耳を力無く下げ、先程から一心不乱に頭を下げ続ける美貌の
…ナゼか、一種の高貴さを伺わせる何かがある。
自称とは言え〈皇帝〉の名は、伊達ではないという事なのだろう。
…実のところ、アタシはもう そんなには怒っていない。
ただ一つの問題、先決事項を除いて…。
そう…問題は、もう一名の…〈王〉を名乗る
我が姉ヒマワリの…。
…ボリ!
…………態度だった。
ふう、ヤッパリ塩煎り隠元さん。美味しいわ…さて。
その確かな歯応えと喉越しを堪能し、イイ感じに冷めた#白湯__さゆ__#を一息に飲み干し、腰掛け代りの大石から立ち上がったアタシは、小川のせせらぎを聞きながら やっとまともに廻り始めた頭で、自分達の置かれている状況を再認識する。
大往来の…〈北部三叉〉。
…〈嵐塞郷〉から皇国唯一の隣国接地である南部〈ミナカタ要塞〉までを結ぶ 国内最大幅員にして最長の大往来(主要幹線道路)…『第百号往来道』有数の街道分岐点。
アタシ達は〈嵐塞郷〉から南西 3kmの所にある、そんな皇国北部最大の要衝で休憩している。
目を覚ました時には、皇都への帰路に着いてて…。
…気絶…じゃないか眠ってた?らしい アタシを、ミナコがここまで おぶって連れて来てくれたらしい。
でも、正味な話し…。
…会って半日も経たない 他人同然の間柄であるミナコが 幾らヒマワリと意気投合しているとは言え、アタシ達に構う理由が分からない…。
…同業の様な振る舞いを見せているけど、〈
…何より、アレ程の魔術行使と武道の才…特に 現代では喪われた精霊魔術とされる〈
納得どころか理解にさえ届かない…ハッキリと、不審だ。
『醜いな…』
油断すべきじゃない…。
…けど、彼女の実力から考えると…アタシ達への危害が目的とは、思えない。
『想いが…重いか?』
「…ねえ、ミナコ」
アタシは 小川を見詰めながら、北部三叉の真ん中で 土下座したままの女騎士に 何とはなしに話し掛けてみる。
『…知らぬか』
「…へ?!…な、何じゃ?!…妾を許す気にニャってくれたニョか?!」
『無償の、情愛を…』
「…………プ ! …何か変な口調になってるわよ。…もう、イイわよ…許すわよ」
『…また、卑屈な事よな』
実際、そんなに怒ってた訳じゃない…
『蹂躙する凡愚共の、玩具のままか…?』
そんな アタシの、胸中を知らないミナコが 心底嬉しそうに 近付いて来るのを見ると、多少の罪悪感が…胸を締め付けた。
『亡き乳母と〈…の君〉…あとは、堕ちし〈黒き眷属〉以外の、誰にも愛されない…。』
これは……八つ当りだ。
『愛せぬか?……〈大慈〉を、受け付けぬか』
不当な怒りを 紛らわす為の、人身御供にしただけ…。
『愛し子よ…〈五趣〉に…〈獄〉に 堕するか?〈
「?!…い、如何したアユミ!? 蒼白な顔をして!…肩の傷か?! く…〈黒き王〉よ!…」
ぼうっとして 考えてる間に…近くまで来ていたらしいミナコが、それこそ蒼白な心配顔でアタシを覗いていたかと思うと、騒ぎ出した。
そんな、心底動揺するミナコの情けない姿を見た アタシは…美しい蒼い髪の騎士様を、抱き締めた。
「あ、アユミ?!…どうした?! 痛いのか?!」
ふむ、なるほど…これは尊い。
可愛い…何と愛おしい事か。
アタシは彼女の耳たぶに向かって囁く…。
「…愛してるわ…ミナコ」
「へ?!……あ…わ、妾も慕っておるぞ…アユミ」
桜色の騎士様は、髪の毛以外の全てを桜色にして…でも 優しくアタシの頭を撫でてくれた。
「……じゃあ。付き合っちゃう?アタシ達」
アタシは彼女の耳たぶに、少し強めに…そして、熱く息を吹き掛けながら言ってみる。
「…!?!」
案の定、光魔術かと誤解しそうな速さと勢いで アタシから離れるミナコ。
アタシに両の掌を見せたまま、コチラを凝視しつつ…固まっている。
それから失礼な眼差しをしながらも…。
「わ、妾は…
そう…ハッキリと『お断り』の定型句を返して来た。
「あぁあ残念。ミナコをアタシのテクで籠絡して、その装備を頂こう…って計画が ご破算だわ…」
まあ…ちょっと困らせたかっただけ…。
この愛すべき溌剌さと、心身共の強靱さを備える美女への嫉妬と羨望が、少なからず有った……ただ、それだけだった。
アタシは…アユミ。
アユミ=S=ブロッサメ…。
…アタシは〈大悲の道〉には堕ちない。
愛の伝道師に…〈大慈の女勇者〉になるんだ。
アタシは、アタシの人生を大事に…与えられるばかりでは終わらない。
隠さずに、伝え…与えるのだ…今の自分を。
アタシは知ったのだ。
愛が欲しければ、まず『欲しい』と…。
「…欲しい」
「ふーむ、ふむふむ。そうか…そんなに気に召していたか…」
問答ではなく…独白していたはずのアタシの言に対し、何故かミナコが 一人得心したみたいに相槌を打ってくれる。
「え?ああ、独り言だから…気にしな…」
「良かろう!それ程までに アユミが欲っしておるのならば 是非も無い!」
「ちょっ?! 嫌?! 何か 嫌っ ! 一体、何を言って…」
一人で 勝手に盛り上がって…かつ、アタシに関する 重要な何かを決定したミナコは…。
…アタシの肩に、両手を置いて。
「今日から、御主のモノじゃ !!」
それは…まるで、司法官の審判…いや、即位した絶対王者の
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