第三章② 赤い血と 腹の虫。
皇国の主要部族である アタシ達…〈
医術師にして天才錬金術師、かつ
『本場である〈敵性異界〉や異界学のメッカ…〈帝人領〉の聖学者ならぬ我には、確かな事は言えんが!…発色そのものの原因は 恐らく〈銅〉であろうな…愚妹よ。フ!』
………と、厨二チックに言っていた。
何故、人体の不思議に 無粋な金属たる〈銅〉が出て来るのか?……という質問には姉は結局、答えてはくれなかったのだけど…。
……まあ、要するに〈
…『
そう 嘯かれる、異質の象徴…。
……異界伝来の『特色』
紅とか、茜色とか…黄昏色とか…。
…様々な表現や描写として、西大陸で広く使われている形容。
【デザイア6】…。…総じて この世界には、赤い発色をする液体というのが…とても、少ない。
勿論、存在自体は知っていた。
でも、興味は無かった。
この現象の理由を知っても『何の利益も齎さない』…そう、思っていた。
いや…逆かな?
『この現象に直面する〈不幸な事態〉を回避する事に傾注すべき』
そう 考えながら、生きて来たのだ。
その理由は、単純にして明快だった。
危険。
ろくな目に遭わない。
世間や冒険者仲間の噂、軍施設での座学講義でも…後味の悪い出来事の近くには、必ずと言って良い程…〈赤い血痕〉の影がチラ付く話ばかりで…。
正直、不吉や不幸…そして、死の象徴という認識でしかなかった。
その上、更に…好ましくない噂が 大陸中に蔓延していた。
『赤い血に触れた者は呪われ、狭間の血色を帯びる…』
『歴代の英雄や覇者達の 血の色は、紫』
『…番衆〈
『…伝説的暗殺者〈刹那〉は、紫だ』
…等々、〈赤い血〉に纏わる迷信が そこら中に
しかし、駆逐されずに『今も生き残っている』迷信であるからこそ 厄介なのだ。
こんな…〈赤い血〉を持つ狂人と関り合いどころか、血味泥の戦闘まで演じた…。
…と言った類いの噂が立つだけで、大陸の何処にいても生き辛くなるであろう事は、想像に難くない…特に。
『…ぐぅ!…ぐぐぅ、ぐぅ~~♪…』
危惧を察してか、繰り返される修羅の巷を眼前に控えているにも拘わらず……お腹の蟲が警告を発して来た。
……はあ。…塩煎り
情けない事だと理解していても、アタシは思わず お腹を
「…ぷっ…ぅ、くふ!くはははははははははは!」
「うわ?! ビックリした !」
いつの間にか、アタシの背後に来ていたらしいミナコが 突然 笑い出したのだ。
「…ははははは!はあ…何だ、アユミ? 腹が減ったのか?…ぷふ!こ、こんな時に…ぶふふ!…」
「…ぐ。…悪かったわね、こんな時に…」
「す、済まぬ。…ぷぷ」
「ううう…だって、アタ…シ」
『…ぐぅ!…ぐぅ!…ぐぐぅ、ぐぅ~~♪…』ぐぐぅぐぅ~…~♪…』
……その…先程より 数オクターブは高く、かつ深刻な自己申告が…辺り一帯を…。
………固体化した静謐さが、完全に支配する。
……………ヤバい。
「くふ!くははははははははは…ぷっくふ…すぅ、済まんぅああアユミ、くふ!…くはははははははははははははははははははははははははははははは!」
何か…色んな意味での敗北感や不条理に対する怒りを伝えたかったはずなのに…これまた違う意味で、腹の蟲が治まらない。
………は!?…姉は?
……………当然……転げ回って爆笑している。
あと、何か……困惑気味の批難めいた視線を感じる。
先程まで、生死を別つ修羅場を演じていた虫女と…黒服のヤロウまでが、アタシを異界民でも見る様に凝視して来ている。
「何よ………何か言いなさいよ!……可笑しければ…わ、笑えば良いわ、よ?」
お腹が減り過ぎて、言ってるアタシもナゼか疑問符付きで笑いを強要してしまう。
そんなアタシから顔を反らし、主でありウケながら転げ回る姉を、心配そうに…かつ所在無げに その場に佇む虫女。
な、何か…こういう心配のされ方は、無性に腹が減る…じゃなくて、腹が立つ。
とにかく、居た
「ギャハ、グヒャ~ヒャッ…ヒャッヒャ。ッヒャッギャハヒャち、乳!ヒャッ…ヒャッヒャッヒャッ乳娘!ヒャ~ヒャッ…ウケ、ウケるぜ!ヒャッグヒャヒャッヒャッヒャ~ヒャッ…ヒャッヒャッヒャッ…」
「……………………………………………………………………プチリ。…」
自らの預かり知らない超自然的〈何か〉が言わせたのだろう…。
本来、文明臣民なら誰しも持ち合わせる表層人格ガード系スキル…『抑制』。
…広大なる自らの精神世界に於いて、情動や それ以上に苛烈な本能を縛る『理性』という名の〈
…それが破断する お定まりのフレーズを発したと同時に、心身共に解放された全能感に、アタシは敢えて…逆らわなかった。
………まあ、後で気付いた事だけど…。
…無詠唱どころか無意識に〈迅雷功〉を発動し、既に回復しつつあった黒服男の顔面を踏み付けて 強制的に黙らせた…。
………らしい。
…はあ、それにしても。
…………………お腹空いたなあ。
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