第二章③ 鐵の都と 奇妙な〈遺骸〉。
正体不明の金属で出来た 超長大な天守の様な…主たる塔を有する〈楯商の塔〉。
そう 〈塔〉とは言っても…正確には東西南北の四方に、矢倉ヨロシク
まあ『小さな尖塔』と言っても、主塔が余りにも巨大過ぎるから単純比較として『小さな』という形容になってしまうというだけで…地方領の城塞天守級を凌ぐ大きさがあるのだけど。
結果、城塞にしては不格好な代物だった…。
でも中は…それ以上に奇妙な空間だというのが、正直な感想だった。
〈塔〉の最下層…いや、一階層にある駅…違う、客車から降りる以前から思っていた…。
まるで、強力な
そうだ…恐らく、『施設』の培養槽の中に入っている時と同じ感覚。
……はあ。
まさか、あの培養槽の中を懐かしむなんて…ね。
その上…脳をジワリと痺れさせる濃厚な抹香の香りと、視界が不透明な程 広大な〈塔〉内に充溢する煙。
特等から二等客車に乗車していた他の乗客達は、お供の従者等を伴って早々に駅の外に降りて行ったけど、そんなこんなな状態で アタシは内心焦っていた…。
…反応がない。
いつもアタシに寄り添っている感覚があった雷霊、それとの交感の殆どが絶たれていた。
…そんなアタシ的緊急事態もどこ吹く風。
姉は初めて来たはずの構内を…迷う様子もなく西の方角へ歩き始めた。
線香の煙と階層全体が淡く光る不気味空間…。
…そこに
ただ、気に掛かる事も意識出来ない程 狼狽していた訳ではない。
それは…各露店の軒先に必ず掛かっているレベル表記のある表札。
…『KLv.±0(士位)』
…『KLv.0~-1(隷位)』
一体、何のレベルだろう?…とは、思ったのだ。
そして…。
目的地に到着したのか…姉はある露店の前で立ち止まり〈合掌〉なる礼を取り、そこの店主…見事な
それを見たお爺さんも 同じく、そして笑顔で〈合掌〉を返して来た。
不審がっていたアタシは、ここで初めて…この禿頭の老人だけが 他の虚無僧らの様な面妖な被り物をしていない事に気付いた…。
…納骨に関する担当者とか 何かかな?
そう一人得心しつつあるアタシに、姉は突然 骨壺袋を渡して来た…。
『…⁈』
『…先に行って……母上を、見送ってやってくれ。列車の出発時間に間に合わなかったら、先に家に帰るのだ…アユミ』
そう言った姉の表情は苦渋そのもので…アタシはそれ以上何も言わず、そっぽを向いた。
その後、アタシを除いた二人は 幾つかの問答を交わした後、『
一名だけ露店内に取り残されたアタシは、連絡を受けたという担当者に納骨控え室に案内され、遺骨の確認を受けた後が大変だった…。
正直…この後の納骨堂への道中には辟易させられた。
客車の車窓から見た〈塔〉の高さは 500m以上はあったのだけど…。
…目的の納骨堂というが、目測だけど…中腹よりかなり頂上に近い処の一角にあったのよね。
もはや 登山…いや、
その上、階段通路は上層階に進むにつれ 極端に狭くなった。
兎も角、目的階層の階段踊り場に到着し へたり込んだアタシは、休憩もせず平然とした表情で案内を続けようとする痩身の男性を、恨みがましく眺めやりながらも立ち上がり案内に従って付いて行く。
最上層付近の狭い通路を少し進んだ先に…『菩薩堂』と書かれた表札の下に扉があり、当然 その中に案内された。
威容を誇る様な異教の巨大神像…などの偶像等は一切無く、無数にある小さな祠?みたいな物の内の 一つの前に招かれ、骨壺を要求されたので それに従う。
男性は骨壺の蓋を開け、一瞬怯んだ様相を見せたけど…何故か得心したのか再び深く合掌してから、アタシに場所を譲るように退きつつ 更なる合掌を伴いながら厳かに言った。
『上人縁者の方。高徳行者の無辺なる慈悲を、形見を所望ならば…どうぞ。』
…と 護符入れの小さな巾着袋を二袋、渡される。
何を言われているかは、直ぐに分かった。
アタシは
壺の中からは、仄かな輝きが漏れ出ていた…そして。
『………え⁈』
……確かに 焼骨した際は…普通の状態だったはず、なのに。
それなのに、そこには…。
………母の、瞳が…。
…それと同等の…あの虹色の光輝を放つ、大小礫粒の宝石達が顔を 覗かせていた。
不意に…あの夜の事を、母が笑顔のまま死んだ夜を…。
…あの、何もかもを締め付けられる様な、喪失感。
駄目だ、アタシは…。
…そして、悲哀と恐怖を…思い出してしまう。
…また……嫌だ。
でも…いつの間にか、膝の力が抜けてしまっていて。
拒絶すれば、する程…視界が歪む…。
…硬い床に膝を付き、アタシは。
あの夜と同じに…骨壺を掻き抱いて、泣いた。
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