第二章② 国教と、秘教の結社。



楯商たてしょうの塔〉…。



…皇都〈豊葦原とよあしはら〉を戴く中央部と、元『特級指定魔境〈灰山はいやま〉』…今は その周辺を取り巻く巌の森の活性化から〈女王の庵〉と呼ばれ始めている西部…。

そして…皇国第三の規模を誇る商業都市にして古代王朝の旧帝都跡でもある〈嵐塞郷らんそくきょう〉を擁する北部地方の、いわゆる三境交差の要衝に、一際 異彩を放ちつつ聳え立つ巨大な塔。


勿論、化生けしょう妖物ばけものの巣窟などではなく…広く一般にも開放され、特に貴族や豪商の様な富裕層が、『ある物』を求めて 多く詰め掛ける…。

そう聞き及ぶ度に…縁遠い場所だと。

アタシらみたいな貧乏人には一生関係ない地平線の彼方だと…そう思っていた。


ここに居を構えるは、中央大陸に本部を持つ老舗戦闘業ギルドである〈物理戦闘業協同組合戦士ギルド〉と共同で〈楯士〉や〈楯̪師〉の『登録のみ』を行う、その筋では有名な古参戦闘業ギルド…〈西方大陸楯商組合:『須弥山会』〉。


この、特殊過ぎる故に 戦士ギルドに所属していない同業者間互助組合のバックには…。

…皇国に於いて 国教たる〈天神祇令教てんしんぎりょうきょう〉と並び称される皇国二大宗教の一つであり、同じく多神教でもある〈金胎マンダラ解〉…という宗教結社ソサエティーが存在する事は、西大陸では公然の秘密だった。


そして、その宗教結社から派生したと伝え聞く 母や姉の信仰する…『灰教はいきょう』または『天壇てんだん』とも呼ばれ、件の秘教…〈金胎マンダラ解〉に於いて尚 秘奥…いや異端と称される宗派の存在も、ある事件で有名だった。



『継承戦役』以前の混乱期…その引き金となったとされる一つの反乱があった…。


…実態は封建制でも 名目上は専制国家であった皇国の、完全共和制移行を謳う軍の一部反乱。

首謀者は、当時の内務局の秘密実働部隊〈特務工作大隊〉司令官特務大佐…レイジ=ヒルコ。


南の大国 帝人領の情報工作による国内介入があったとも噂される この反乱の発端は、内務局に暗然たる影響力を有していたカセ=エイジロウ北部辺境男爵領で起こった領軍による…難民虐殺だった。

この虐殺自体は 即日鎮圧、首謀者である男爵も翌週には更迭され 事態は終息に向かう…はずだった。

しかし、向かわなかった…。


件の男爵の政敵が漏らしたのか、確かな情報は開示されていないが…とにかく、男爵領で行われた虐殺と他 領民である農奴に対する苛烈な虐待や迫害扇動・強要等々の事実が露見してしまい…その事実を知った特定非営利活動ギルド『西方大陸セプテンシア奴隷解放同盟』が、永久政令の一つである〈国務院令第二〇〇号〉の破棄…つまり、奴隷制度の撤廃を国務院に求め、それを始まりとして奴隷解放を中心とする民主化人権運動が皇国全土で巻き起こった。


皇国史上初めての…そして 空前の、民衆による蜂起…三十万にも上る奴隷民の奔流が〈厄の大戦〉で疲弊し、腐敗し切っていた皇国の有り様 全てを否定するべく動き出したのだった。

そして、それに呼応してヒルコ特務大佐率いる〈特工〉配下5個中隊の内 実に4個中隊が運動に合流し指揮をし始め、大規模かつ統制ある反乱軍を形成し…最終的には五十万の軍勢に至った。


……そう言えば、この時期だったのかな?

復権を許された皇女が、何処からともなく現れ…。

そう…後に〈九頭龍の剣姫〉と呼ばれ、この大反乱の鎮圧と その半年後に勃発する〈継承戦役〉の鎮定将軍としての功績により皇国全臣民の希望となる英雄皇太女…天道=A=アマクサが、歴史の表舞台に姿を現したのは…。



…閑話休題。


とにかく…前に言った男爵領での虐殺…後に〈行者い〉又は〈灰教狩りアッシュハント〉と呼ばれる苛烈な宗教弾圧の対象となった難民というのが『天壇の行者』と呼ばれる漂流民達であり、母と姉は…その生き残りでもあったという驚くべき事実を、姉が話してくれた…列車の三等客車で。

姉とアタシは、皇都と〈塔〉を直通で結ぶ 聖学系動力車輌…『蒸気機関車』なる鈍色の列車で、遺骨の納骨先に向かっていた。


途上では『異界獣兵ウェアビースト』らによる襲撃や 西大陸では珍しい〈夜叉ヴァンパイア族〉との邂逅などがあったが、皇都郊外の駅から出発して6時間後には、無事 〈楯商の塔〉の中心部にある駅に 列車は辿り着いた。


正直、飛んでもない広さ…そして何より、異常な『高さ』を備えた巨大な円錐。

それに、見た事の無い鈍色の金属で構成された超高層建築物だった。



そして、ここで出会ったんだ…。


栄光ある古の麝香兵にして、対英雄兵器と称された無敗の〈大楯師〉達の生き残り…。


…いや、その残骸たる虫女『余り物の楯奴』…。



……轆轤に。

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