第一章⑨ 獄門と 獄気。



「ところで皇帝氏、けいは…こんな北辺の、しかも廃虚同然の被災遺跡に何用で来られたのかな?」


わらわかえ?」


「ああ」


「………そうじゃの、其方そちらにならば 申しても良いか…」


「宜しければ」


「…有りていに申せば、散歩じゃ」


「ほお、散歩…ですか?」



「そうじゃ。古い友誼ゆうぎと約束に基づく、るモノの探索。まあ果ての無い散策の途中という奴じゃな」



「……」



「先程の話の続きになるが……〈ヒト〉ら、世界師らがのこしたモノの全てが、偉大で優れた品とは限らんじゃろ…」


「…まあ、そうですかな」



「かの世界師らは、他種族を王朝に帰属…否、隷属れいぞくさせる程凄まじい魔術の使い手であったが…。

…単に、戦闘系の魔術に特化しておった訳ではない」



「………」



「其方らは〈やくの獄門〉の解放者…〈異界召喚士サモナー〉の事は、存じておるな?」



「まあ、禁忌中の禁忌とされてはいる…アレの事なら…」


「うむ。まあとりあえずは門や門番らの方は些事さじじゃ…問題は『門』から呼び出されたモノの方でな…」


「……ほお…」



「…あの」

アタシは声をかける。


「ふふん♪…やっと気を持ち直したか?」

値踏みするように、ニヤニヤしながらアタシに問い掛けるミナコ。



「しかし、勇者を自称する割りに繊細な事じゃのうアユミよ」


「…ごめんなさい、ミナコさん」



「ふふ、良いわ良いわ…妾も少々焦り過ぎたでな…それとな? 妾の事は『ミナコ』と呼び捨てで頼む」

 そう言って彼女は…おもむろにアタシの髪を撫でて来た。


何故か『あの人』を…黒衣の女傭兵ラフレシア様を思い出す。


「んん…」


 ミナコには失礼かもしれないが、『意外にも』その行為は とても優しく気持ち良くて、思わず…。

「…分かったわ、ミナコ」と言ってしまう。


 …今は亡き義母の事までも、少し思い出した。


 ……ヤバいなー。

…今日は懐かしい人達の事をたくさん思い出しちゃうな…。







血刀ブラディア輪廻鎧リーンカース



クシャクシャになったアタシの頭から、

名残惜しそうに手を離し、ミナコは話を再開した。


「妾が探しているのは彼の異界門ゲートから召喚された……『転移者チーター』共じゃ…。 そして、その中でも最も危険な〈血刀持ち〉にして〈刻印持ち〉の…特に『特才転移者マークド』と呼ばれる輩じゃ」


「……?!」


「…ほお血刀ですか♪ それは〈血鉱石ブラッダイト〉…つまり『非魔術性金属』体の事を言っているのかな?」

やはり…この手の話題には趣味人にして専門家でもある姉の食い付きは、すこぶる良い。

鮮やかな黄緑色の瞳に、狂気の超新星が幾つも閃いている。



ほのかな血臭を放つとされ、デサイア6での天然産出量は微々たるとされる異界依存鉱物群の一つ……血鉱石。



 有史に於いて、二番目に勃発したとされる約1万2千年前の…〈千年紀の厄ミレニアムウォー〉。



 通常、それは〈第一次異界大戦〉と史学者達に呼ばれ、 17年前に終結したものを〈第二次異界大戦〉と呼び習わすが…。


その僅かに 二度の大戦で『アチラ側』から コチラの世界に持ち込まれたという…超希少金属。

この金属には、単なる『異世界研究対象』という以外にも、いや…むしろ ソチラこそが 主題とさえ言える、莫大過ぎる価値があった。

それは硬度、引っ張り強さ、曲げ強さ等、物理的な強靭性能のみに止まらない。

いや…それさえも主題とは言えない唯一無二の極大価値があったのだ。


極端な、もしくは『絶対的な魔術抵抗性』という特質。


対魔術戦闘が基本であるこの世界に於いて、特に戦士系冒険者間では破格の値で取引がされる…。


『対〈千年紀の厄〉及び〈幻神災〉の為の 五大陸間国際憲章機構』…通称『超大陸憲章機構』に定められる〈超大陸憲章〉…それによって、個人での売買が原則禁じられている『特級指定』金属資源なのである。


但し、例外というモノは…。

「…まあどこにでもある、という事よね…」

何とはなしにアタシは、轆轤ろくろの方を見遣みやっていた。


「ん?…ああ! 其奴そやつの甲冑も血鉱石製じゃが、主が居るようじゃし…どう見ても〈塔〉関連じゃろ。うん?」


「…流石は 皇帝氏。……気付いていたか」


「まあ『盾』を持っておらぬからな。それに…其奴の纏う只ならぬ〈獄気カルマ〉…。

そこらの戦士や楯士らが発する単なる殺気や〈戦気せんき〉とは、余りに異質な代物じゃからのう…」


「まあな。ご推察の通り コレは、シールドスレイブ…〈楯奴隷ヴリトラ〉だ」


「…ふむ。…して? 其奴の装う『輪廻鎧リーンカース』の『銘柄』は何じゃ?これ程の獄気ならば、憐れじゃが…。〈大叫喚Lv.-5〉より上という事はなかろう?」


「…まあ、その辺りは卿の想像に委せる。あと、この輪廻鎧の銘は〈羅喉ラーフ〉…とか言っていたな、〈塔〉の御坊は…。…まあ最新鋭装備だそうだ」


「…………………!」

奇妙な間が、虚ろな空間を支配した。

そして…。



「……な、何じゃと!?」

自由皇帝の玉音が、大音声で虚ろさを打ち消したのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る