第一章⑧ あなたは訓練派?…それとも実践派?



「「では、彼らは何を遺したと思う?」」

突然、否…また自由なる女皇帝と黒き賢者の女王が、バカ声でハウリングした…。


おそらく同程度の羞恥心と高体温なのだ。



「………あー…ハイハイ。それで、一体 何を遺したのですかねー? ハハハ。…」

アタシは仕方なく、聞き返す。


「ふむ。其方は冒険者などという物騒な生業をしておる割りに、余り物事を深く知ろうという気概が無いようじゃの?」


「…へ? …まあ、討伐や護衛で稼いでるんで…探索や開発系冒険者ほど、知的好奇心とか 余り無いかもですね。ぶっちゃけ今回は、姉の身辺警護が最優先なんで…」


「なるほどのぉ、他はどうでも良いと…しかし勇者を名乗るには、感性として ちと冷たいようにも思えるが…」


「…えぇまあ。軍にいた事もあるから …ドライというか単にビジネスライク、って奴じゃないですかね?」


「ほう…やはり其方は兵隊出身か?道理で…」


「……分かりますか?」


「まあの。其方は実際、霊震を使え また勇者を名乗ってもおるが…」


「………」


「先程の戦闘で其方が見せた体捌きや戦闘感とでも言うかのう…とても英雄級の才人や勇者の扱うモノとは、明らかに違った」


「…まあアタシ、英雄とか特に好きじないんで」


「否。早合点するでない、才が無いと言っておるのでない」



「………」


「妾が興を惹かれるのは、才の有無の方ではない……研ぎ方じゃ! 不思議だったのじゃ。何故その仕上がりに為る?…と」



「………」


「霊震を扱える程の魔術特性と、その若さで Aランク冒険者になれるだけの 生存技術サバイバルスキル…どの様な変遷や研ぎ方をしたら 先程の様な、凡庸な戦い方に為る?」



「………………」


「……まさか其方…噂に聞く、かの『計画』の」


「ふふふふふふ、まあ皇帝氏。愚妹も皇都から戦い詰めで疲れている様子、ここはこの我の顔に免じて、それ以上の追及は止めてくれるが良い」


「……いや、そうじゃな。 出会ったばかりで尋問めいた真似事などという児戯を…許せ、アユミ」

と、無く名前を呼ばれたアタシは…。



「……いえ」

しかし、アタシは…力なく答える事しか出来なかった。








【孤児と黒き女傭兵】



……アタシは孤児だ。



勿論、姉の…ヒマワリの、実の妹ではないし…三ヶ月前に逝った母さんも実母であるはずがない。



物心が付いたときには、ガラス製の培養器の中だった。


でも その頃のアタシは、孤独ではなかった。


いや…。

…孤独という環境からくる精神状態そのものを理解出来てなかっただけ、かも知れないけど。


母さんが死んで…ヒマワリの様子が激変してから感じてる、言い知れない感じの…。

…ここ暫く続いてる感情を、その頃は感じていなかった。


槽の中から周りを見回せば、20基前後の培養器があり、その中にはアタシと同年代の娘達がいて…言葉など知らずとも互いを見つめる会う時間があったからだ。



世界を征服し尽くしたという、かつての古代魔術王朝…。

彼らが莫大な資力と時間と労力を注ぎ、しかし結局は未完に終わったとされる…。

…戦略級打撃型魔人等創出を目的とした〈人造英雄創造計画〉…。



そして…その縮小廉価版として企画実施された戦術級特務打撃小隊並立及び増設計画というモノがあった…その名を。


…〈操心超兵育成計画ドールズ〉。


アタシは、その〈計画〉の便宜上…〈桜華おうか49号〉と呼ばれていた…。


…そう、アタシは元実験動物だった。


そこの大人達が、アタシに見せる表情は「愛玩奴隷」への欲情か、「被験体」への、大き過ぎる期待のみだった…。



軍の研究施設だからか、週に一度は槽外に出され 戦闘訓練を受けさせられた。


そして、洗浄と検査の後には必ず…。

…若い研究者や警備兵らの「相手」をさせられた。


どうせ…培養槽に戻されれば、一日と経たず全身のあらゆる箇所が肉体再生される。

その為…破瓜の痛みには 毎回耐える必要があり、当時のアタシも…。

…これには正直、 閉口していた。

そんな最中…。


…皇国正規軍が共和制導入を望む反乱軍の討伐を終えた頃の夜半…。


「…………?!」

気づいたら、目の前に黒衣の…女戦士が立っていた…。


…彼女は、何故かアタシを 見つめていた。


暗くて 瞳の虹彩色までは分からなかったけど、仮面マスクの目出し《サイト》部から覗く双眸には、優し気な雰囲気があった。



どこかで、見覚えが…ある…?


その、短いが美しい金髪の女性はアタシが気づいた時点で、既に研究員と警備兵を気絶させていて…。

アタシ達姉妹の家畜としての日々は唐突に終焉を迎えた。


そして彼女は、アタシ達の前では…何故か誰も殺さなかった。



助け出された後…。


『……桜華は、全員無事の…だが…』

『…しかし…菊花は…』


部下らしい…しかし、装備がバラバラの兵達からそんな報告を受ける女性を、アタシは呆然と見上げていただろう。


黒い甲冑…に魅力的な全肢体を包んでいた彼女は、やはり黒い仮面を外し…燃え盛る施設にも負けないほど鮮やかで、かつ艶やかな蒼紫色の瞳を アタシに向けながら…。

「今の貴女は、何にも感じられないかも知れない…。 でも、貴女は生きて行く。今を助かったから…卒業したから。 なら、この先の人生は貴女だけのモノ… 」


「……………」


そして彼女は…仮面を被り直し、アタシを抱きしめながら耳元で、囁くように…。

いや、祈るように言った。

「貴女はどんなモノに惹かれて…。 生きて行くのかな?…私は、私達は一体何に惹かれているのかな?…」


その時の私には、彼女が何を伝えたかったのか…どんな表情だったかも分からなかった…でも。



惹かれたモノだけは……決まっていた。



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