第一章⑦ 生けるオリハルコンと滅びし帝国。
「ん?… 〈天魔〉って、確か…」
何処かで聞いた覚えがあるんだけど…。
「い……いやいやいやいや!…皇帝氏も愚妹も、堅苦しい話などまあ良いではないかああぁあいうえおおおおぉッス!…おっと、そんな事より皇帝氏が召されているのは〈バイオテックオリハルコニア〉ではないのかね?かね?!」
「…と…唐突に騒がしいわね姉さん。………んで、何それ?」
アタシは両耳を塞いでた手を下げながら聞き返す。
「さ・す・が・は、脳筋なる我が愚妹!やはり知らぬか?」と、姉はドヤ顔でそう言った。
ムカッ!
「
「…『生きた』って……え? …オリハルコンに死んだ生まれたとかあるの⁈」
たまに…。
……ギギ、キ……パキッ!…。
…と、何かに反応しているのか。
ミナコの桜色の甲冑の一部が、軋みを上げて蠢き…その輝きを変える…。
ただ、その軋み蠢く姿はアタシに、アレを………そう〈天魔〉だ。
何故か……有史以前の太古から〈
「まあ、あるのだ愚妹よ。……というより、今回我が『王国』がクエストの目的物としていた…否、それ以上の代物である!」
と、碧眼を異常な狂気の輝きで満たしながら言う姉…そんな、反逆の大英雄〈
「え? でも姉さんが欲しがってた『エルフの秘宝』って、
「その通ーりだ!…だが少し違う。超一級の錬金術師たるを欲する我が望むのは、単なる希少物品の収集ではない!」
「んじゃあ…何が欲しかったのよ?」
「…いや、だから…『秘法』だ! いわゆる製造方法なり!! 古代魔術王朝時代に開発され、今では帝人領との国境を包む…フルベ河以南の
「いや、イチイチ厨二ポーズ入れなくていいから…で? え~と、この『自由過ぎるミナコ』さんの装備ってのが姉さんがけんきゅーしたい 生きたオリハルコン な訳ね?」
「いや、あの……妾ってば、そこまで自由そうなのか?」
「その………通おぉ~り!!」と、姉のバカ声が巨大な吹き抜けに響き渡った。
【〈世界師〉と古代魔術王朝】
西方大陸セプテンシア。
その大陸史は、15000年分に及ぶ膨大な社会・文化等の興亡記録であると共に、偽書を敷き詰めた悪意に満ちた図書館でもある。
だが…歴史学者に言わせれば、当時の勝者達からの時空を越えた壮大な挑戦状なのだそうだ。
そう…歴史を観る際、世代を跨いで蓄積された偽造改竄が必ずある、と考えるのが賢人という訳だ。
〈
しかし…彼らが、いつの時期からこの世界に存在し始めたのか?その問いに答えられる者は、現在 生者の中にはいない。
凡愚なる未来人の我々は、ただ過去からの負の遺産を伴うかも知れない挑戦状に騙されないよう、確たる証左もない内には事実関係等を確定化させない…。
その事のみに傾注し、尽力すべきだ。
つまり 『何も知らないのなら
まあ〈ヒト〉は確かに存在し、滅び…しかし、遺したモノが多少あった。
では、彼らは何を遺したのか?
〈ヒト〉らは、自在に魔術を操り 世界中に点在していた。
中には〈失われし秘技〉である高等魔術…〈
その様な、元々高い〈魔術特性〉を有する〈ヒト〉らの中でも稀有な天才達を、真なる精霊使い…〈世界師〉として讃えたという。
そして…今から約一万二千年前。
各々の思想信条に基づいて国家級ギルドや秘密クラン等を、世界各地で主宰していた世界師ら全員が西大陸に集まり、巨大な版図を有する魔術王朝の樹立を世界に宣言した。
その名を〈精霊魔術帝国
…そして古代神に至るまで世界の余ねくを支配し尽くした。
正に我が世の春であったろう…。
様々な文明や慣習…そして それらが内包するあらゆる哲学、技術、思考形態等々 全てを併呑、吸収し、付加価値を与え応用の限界にさえ挑んだ。
そのたゆまぬ研鑽により、かの魔術帝国は栄耀栄華を極め無謬王朝と誉めそやされつつ絶頂期を迎えたのだった。
しかし、この王朝も…枚挙に暇無い他の亡国らと同じく、約5000年ほど前に 魔術実験の暴走と〈第二世 千年紀の厄〉のダブルパンチにより…滅び去ったのだという。
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