第一章⑥ 喪失魔術と桜色の女騎士。



その女性は桜色で…。

宝石の如く艶光る全身鎧(騎士か?)を身に付けていたが、素顔を晒すつもりらしく 兜に手を掛けた……瞬間。


別の通路にでも隠れていたのか…。


残りの1体が 細身の長剣を平突きに構え、姉達の居る通路の、右下の通路から現れた例の女騎士に対し突進して行くのが …アタシの位置から。


…見えた!


「助けに行きたいけど…」

岩影に隠れたままの弓使いがこちらの隙を伺っているのが分かる。


あの怒濤の連射が、不気味に鳴りを潜めている…。


これでは、動けない…でも。


「残り動いたわよ!」

兎に角、と思い…辛うじて警告を送った時には、既に楯女は姉の前に回り込み 迎撃態勢だった。

そして、女騎士の方は…。


「…え?!」

アタシは思わず声を上げた。


そうアタシが 認識した時には…女騎士が片手を上げ、その掌の先に巨大な火球を作り出し…。



…ドヒュ…ズオゥン!!



その火球は 向かって来ていた細身剣使いの屍武者を包み、大気を震わせ…爆発四散したのだった。

離れているにも拘らず、余波の熱風がかなりの高温を保ったまま、こちらに届いた。


「な、何て威力?!…それに」

アタシは、事実におののいた。


現代では失われた〈現象系六天魔術ロストシックス〉の一つ…〈火〉系魔術を操る、魔術騎士の女。

アタシの脳裡に…ある大嫌いな、イヤな女の顔がチラついた。


「こんな所にいるはず無い……」

と呟きながら手にする透刃とうじんを眺め…それから岩影に隠れたままの敵の出方を、再度…。


ドゴオォウゥッ!!


…伺おうとしたアタシの視界は、質量共に膨大な火炎によって埋め尽くされた!


「…いつの間に移動したの?!」


敵が隠れていた岩の上に女騎士は立っており、その場を中心に魔術を発動させたのだろう。


「…………………」

アタシは呆然と見入るしかなかった。


こんな、出鱈目で圧倒的な戦い方…。

…否、鏖殺おうさつ作業は……嫌でも奴らを。

あの〈血刀ブラディア使い〉達…。


…時には〈英雄〉とも 呼ばれる忌々しい存在を輩出して来た『天性の殺戮者』達を、思い起こさせるものだった。





全身桜色という、非常にオメデタイ様相の女騎士は、自らを『自由皇帝ミナコ』と、これまたオメデタイ名前を名乗った。


角耳…。

薬叉エルフ族の魔術騎士で、恐らくは 南部国境の天険『ミナカタ要塞』の更に南…。

…一級河川『フルベ河』の対岸に広がるという大森林地帯゛妖精郷゛出身者だろうか。


しかし、そんな詮索よりも その、はっきり言って変な女性だった…。


「………………………………」


…特に一人称が。


彼女は鮮やかな蒼髪をかき揚げながら、自身の事を『わらわ』と称した。



戦闘の後、不思議な色彩と光輝を放つ兜を脱ぎ ミナコ陛下はのたまった。


「珍妙なる取り合わせの旅の者よ、陽動の大役、大儀であった」


「……あの………そんなに、珍妙、ですかね?」

色々言ってやりたいのを押し込み、アタシは辛うじて聞き返した。


「うむ。汝は〈霊震使いフュージョナー〉であろ? それも当代では珍しい雷の…」


「…え、まあ」



〈霊震〉………正式には〈霊震功術〉

約五千年前、最高位の精霊使い〈世界師〉の一人でもあった、かの〈探偵王〉が創始したと伝えられる『神降し』という召喚や憑依魔術を用いた心霊戦闘術の総称である。


有史以来、この戦闘術を修めた者の多くが英雄と呼ばれる特定の存在になった為、世間一般では『英雄への登竜門』と呼ばれている。



「まあ、それに…。…〈帝人領〉でもあるまいに 『聖学の徒』らしき 黒きドワーフ娘もおるしの?」


「フフハハハ! 失礼だな自由皇帝とやら、我はドワーフ娘などという俗な存在ではなひ! 黒き王である!!」

「ちょっと姉さん?!」


「おお相済まぬ、黒き王よ」

「あ、あの! ミナコさんでしたか? 姉が調子こくんで、乗っからないで下さい!」


「何を言っておる? 汝は黒き王殿の愚妹であろ?」

「いや殿とか付けなくていいし、あと愚妹って言うな!」


「いやいや謙遜するでない。 汝の姉君は王を名乗る資格を有しておるのだから……」


「い、いやいやいや皇帝とか超ヤバいし引くけど、王もかなりマズいでしょ?」


「な、なぬ?! ……もしかして 今時の汝らは『創世の〈地獄譚じごくたん〉』を知らんのか?……『〈障壁の蛇蝎ヴリトラ〉の〈天魔はみたしなみ〉』は、ともかく…。…もしや……〈麝香兵じゃこうへい〉をも、失伝しておるのか?」


確か…。

…〈麝香兵〉ってのは『皇国の盾』と称された大昔の〈大楯師アイギス〉達の伝承で、割と有名だけど…。

…創世の〈地獄譚〉って?

それに…。


「〈障壁〉……ですか?」

…どこかで聞いた覚えのある代名詞だ。


だけど、何よりも気になるのは…。




「…〈天魔〉」

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