第一章① 黒き姉王と妹勇者



 生物と本能の故郷ふるさと…〈デザイアシックス



 〈ヒトサピエンス〉と呼ばれし者達…。

 …いにしえに栄えし それらが、そううそぶいたとされる〈世界〉の西側…【西方さいほう大陸セプテンシア】。


 そんな【厄災やくさいの大陸】から始まる救済の物語を…。


 …いや、ある女性達の再生と帰還を祈り、促す物語を…。



 …始めよう。






第10世忌千年紀せんねんき暦17年



 …〈嵐塞郷らんそくきょう


 大陸最北端の丘陵地帯のふもとに存在する…。

 …古代魔術王朝の帝都『宵の嵐ナイトメアストーム』だったとされる 都市型複合遺跡群だ。


対角間たいかくかんの距離…実に15kmという、現代では考えられない程 巨大な正六角形の防壁が設えられ…。

 …そして 突如として主人たる精霊使い達が居なくなり、廃棄された この古都の地下に…。


 …何故か、ある……゛世界最大級゛の呼び声高い帝城地下の大迷宮。


 古文書に記されたる その名は…。



 『旧 帝立遊撃軍兵院:独立混成分隊訓練場 あと



 アタシ達は、その『元訓練場』だったとされる巨大迷宮の、地下24層目に…いた。







 ……………暗闇の中に光が見える。



 …7月、夏。


 そして、前に進む程 その光が…強くなって…。



 「…地下ダンジョンに来たはずよね? アタシ達って…」

 アタシは、後方を歩いて来るフードを目深に被った小柄な同行者に尋ねる。


 突き飛ばすような、かなり強い追い風に背中を押されながら…。

 …ソイツは、アタシを見上げるどころか、こちらを見もせずに。


 「先程から何だ…? 光と風? それが一体、何だと言うのだ? 脳の髄まで筋肉と化したのか?…ふ」

 などと、とても失礼な事を。


そんな 一見、 憮然ぶぜんとしているかの様な感じの 少女の声が…。

…石造りの通路に反響させながら聞き返してくる。


 しかし、次の瞬間…。

 …凄まじい閃光と暴風に見舞われたアタシは、1分ほど前から反芻はんすうしていたある予感の確定を知り、歩みを止めた。


  「……はあ」

 アタシは 溜息ためいきの後、事実を認める……通常運転である、と。



 そう…口を開いたかと思いきや雑言ぞうごんどころか 悪口あっこうまでを 吐き掛けて来た人物は、アタシの姉だ。

しかし まあいい、それは認める…。

 …でも、認めたくない事実というものも…この世にはある とも言いたい。


 だから アタシは…叫ばなければならない!



  「どおおゆぅうぅ事なのよっこれはあああぁ~?! ヤバいじゃん‼」



 アタシ…いや、アタシ達…探索・討伐系冒険者混成パーティー〈曇天アッシュ〉の前には…。

 …晴天の陽光に照らされ、薄くしろ瓦礫がれきの荒野が 広がっていたのだ。



  「『暗き迷路を抜けると、そこは荒野だった』とか冗談じゃないわよ! おいコラこの黒鬼くろおに!どういう事だ⁈」

アタシはかさず…。

 …いつの間にか横に来て、通路出口付近をなで回しているパーティーリーダーの姉を 怒鳴り付けた。


 すると…。

「ヲヒヲヒ騒がしいな。勇者女ゆうしゃおんなを自称するイタイタしい生贄の豚は…。…否、金星乳牛は! ふ」

 と、いきなりの侮辱的切り返しを ムカっ腹MAXの口調で言って来る始末。


「んなっ?! アタシは〈女勇者・・・〉よ! そんな怪人みたいな名乗りなんか、するはず無いでしょ?! それに公称だから! あとアタシは!……イタくなんか無い!!」

 そう! 全然イタくないアタシは、金髪巨乳少女…では無く、角無つのなし族の女勇者アユミ(15才)。


これでも、皇都こうとの冒険者ギルドに、 この若さで〈刀尾とうびぬえ〉の二つ名と共に登録更新されたAランク〈討伐系〉冒険者なのである。


 「ふ……つらい現実を意固地いこじに受け入れらない、 いとイタき者はみなそう言う…… まあ良い。 して? この我……〈隻眼の黒き王〉こと、 ヒマワリ=エンシェントサイクロプスに、何か聞きたき事でも?」


 「………」


 そう言って、殊更ことさら悪そうな笑みを浮かべつつ …銀髪と同色の眼帯に覆われた左目を、更に庇うような厨二ちゅうにスタイル を取り『王』を僭称せんしょうするリーダー…。


 「いや、あの…『黒き』って、姉さんだって十二分にイタいでしょ! ヤバいじゃん!」


  「ほう、愚妹の中の愚妹よ?この黒き王にして、パーティーのリーダーたる我とイタ自慢大会を……無謀にももよおそうと? ふ」

 ヤバいくらいイタい姉なのは確かにだけど しかし、賢い姉でもあるんだけどね。


 そんなイタ賢き存在に対抗する、という悠長さが許される状況なのか…いつも頭の奥にいる冷静な何かに、アタシは問い掛ける。




 冒険者ギルドからの被災ひさい遺跡の調査…未達成。

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