第14話 ビームが撃ちたいお年頃

アキラ、フォセカ、エレバス。そしてトーガンも加えて、

彼らは夜中の公園で座り込んで駄弁っていた。

「俺、必殺技を考えようと思う。」

アキラは突然そんなことを言い出した。

当然ながら皆首を傾げる。

「突然何言ってんだこいつ?みたいな顔するなよ!」

「みたいな顔というか、そう思ってんだよ。どうした急に?」

アキラは腕を組んでから軽く咳払いし、改まって喋り始めた。

「どうした?その言葉を待っていた!前々から思っていたことがある。

俺には何かが足りない……いったい何が足りないか?わかるかお前ら!」

アキラ以外の三人は顔を見合せ、一瞬間をおいてから再びアキラの顔を見て、口を開いた。

「金銭感覚?」

「鍛練だな。」

「いや、遠慮ってもんがねえんだコイツ。」

まるで期待に沿った回答が返ってこず、それどころか、

それぞれ好き放題に罵倒紛いのことを言うために、

アキラは盛大にずっこけてしまった。

「あのな……ここまでの流れでなんとなく答え分かってたろ!?わざとか?わざと言ってんのか!?

必殺技が足りねえっつってんだよ!ド派手で、俺を象徴するような大技が!」


アキラが必殺技の必要性について全身を使って力説していると、

そこに変装したミントがやって来た。

「やあ……今日もまた、随分と楽しそうだな。」

以前変装せずに会ったために、変装がバレないか内心不安ではあったが、

それを表には出さぬよう努めていた。

「あっ!ハク姉!聞いてくれよ!今すっげえ重要な話してんだよ!あのな、必殺技が……」

「わかったわかった。一回落ち着け。」

ハクというのは、ミントが彼らに名を訊かれて答えた偽名である。

特に自分に関連したり、何か意味のある言葉ではないが、逆にそれが自然な偽名として使える理由にもなった。

ミントは彼らよりも一回り歳上であることと、親しみを込めてハク姉と呼ばれていた。


「必殺技か……しかしなんでまたそんな事を?」

「これ見てくれよ!」

アキラは懐から一冊の薄い本を取り出してミントに差し出した。

渡されたそれは紙がむき出しで複数枚留められ、字は全て手書き。

本というよりは、纏められた書類に近いものだった。

「これは?」

「ギークの評価だとか、評判だとかが纏められた本だよ。

俺らの仲間内で出回ってるんだ。観戦勢の中でも格付けとかが好きなやつがいて、そいつが作ってんだよ。」

散々回し読みでもしたのか、かなり縒れてシワができている。

「それで見てくれよこれ!ここ!ここのページ!」

アキラは本を開いて手渡し、ある部分を指してミントに見せた。

そこには……


『虚人』のアキラ

人気ランキング14位。

優れた観察力と高い汎用性を持つ能力で、他人の技を真似してしまう。

実力は折り紙つき、勝ち星数もトップレベル。

しかしながら見た目が地味という意見も多く、人気は低迷しがち……


コメント

強い強いって言うけど既視感がすごい。

代名詞的な必殺技とかがあれば……


このように書かれていた。

「クソふざけやがって!何が既視感だ!色々アレンジしてんだぞ!」

「ふ……それで必殺技か……」

「鼻で笑うこったねえだろハク姉!」

小さな紙面のコメント相手にムキになるアキラに、少し微笑ましさを感じながらも、

彼ならば実際に必殺技を完成させる。遠からぬ内に新たな驚異が生まれる。

そんな予感がした。それがミントの神経を逆撫でするのだった。

「だけど、必殺技って言っても、どうするの?何か案とか……」

「やりたいことだったらあるぜ!ビーム撃ちてえ!こう、バーン!ってな!」

掌を前に突き出し、それらしい構えをとって、口で大袈裟な効果音を奏でてみせる。

玩具を手にしてはしゃぐ子供のように、彼は無邪気で真剣な笑顔を見せる。

「とは言ったもののだな……実際のところこれで出てくるのは、それはそれはもう悲しいくらいの豆鉄砲なんだよなあ……」

ビームと称してアキラが放つのは、普段彼が纏うオーラの塊。しかし、彼の力の本質は破壊力ではなく柔軟性にある。

オーラは彼自信が思い描いた形状、性質を持つが、遠く離れた場所ではそれを保てない。

直線上に発射するだけでは、距離にしておよそ二メートルほどで完全に威力を失う。

ビームとして用いるには不適と言わざるを得ない。

「一応試したんだよ。なんかもうちょい飛ぶようにならないかって。

ボールにして飛ばしたら、なんかもうちょい遠くまで威力保ったまま飛んでくんだけどよ。

……ビームじゃねえんだよなあこれだと。」

アキラはビームであることに妙な拘りを見せる。

どうやら彼の中では派手な大技と言えばビームという図式があるようだ。

「派手な大技ねえ……頭突き一本でやってる俺にゃあ縁の無い話だ。」

「お前にそんなもん求めるほどアホじゃねえから安心しろ地味ハゲ。」

「地味ハゲ言うな地味真似。」

「ランク圏外ハゲ。」

「やるかこの野郎!」

トーガンとアキラがお互いに罵りながら小突き合いを始めた。

彼らの間ではよくあることだ。場合によってはそのまま戦闘にも発展するのだが、

本気で怒っていたりするわけではなく、所謂身内ノリのコミュニケーションといった意味合いが強い。

それを理解しているからか、フォセカ、エレバス両名共に特に意に介していない。


二人の小競合いが巻き起こる中、ミントは冊子の内容に目を通していた。

恐らく発行者個人の独自解釈の下にギーク達の解説や、

人気などが掲載されている。

エレバスやフォセカの事も載っているようだった。


『流転』のエレバス

人気ランキング1位

最近になってこの地域に姿を現した新星。

水や氷を操り、柔と剛を兼ね備える。

洗練された鋭い一撃に魅了される者多数。


『混濁』のフォセカ

人気ランキング5位

相反する力が衝突する瞬間を結晶化させる能力を持つ。

安定した強さと派手な範囲攻撃を併せ持つ。

カウンター中心のスタイルがやや好みが別れる。


「……これがどこ調べで何が基準か知らないが、キミ達、随分人気者らしいな。

特にエレバス。キミは一位だそうじゃないか。」

ミントがそう言うとつい先程までトーガンと小突き合いをしていたはずのアキラが

渋い顔をしながらすっ飛んで来た。

「言っとくけどな、お前が人気高いのは新参補整とルックスの問題だからな!

世の中にはな、美人は三日で飽きるっつう言葉があってだな…」

エレバスの顔を指差して、つかつかと歩み寄りながらまくし立てる。

誉めているのか貶しているのか、負け惜しみを言ってるのかわからないが、

とにかくアキラの言葉には妙に熱がこもっていた。

そしてエレバスは少し照れ臭そうに顔を背けている。

遠回しに自分のことを美人だと異性の友人に力説されるという、

中々妙な状況にどう対処していいかわからないのもあるだろう。

尤も、彼には特に他意はなく、単純に思ったことを言っているだけなのだろう。

「賑やかな集まりだな。……良くも悪くも。」

騒ぐアキラらを尻目に、再び冊子に目を通す。

人気者が載っているページが終わると、構成ががらりと変わった。

一度前のページに戻してみると、どうやら先程までのページは、人気トップ30というコーナーだったようだ。

それを確認してから再び読み進めると、次のページは特集コーナーらしい。

見出しに目をやると……


突然の襲撃!『破壊双』現る!


と、書かれていた。そして……

最近この近辺に出没する二人組、何を要求するわけでなく突然勝負を仕掛け、

相手の降参を認めず、苛烈な攻撃を仕掛ける。

一人は髪を腕のように動かし、一人は色とりどりの液体を爆破させる……


見出しから先はこのように続いた。

大いに心当たりがある。髪を動かす少女に、液体を爆破させる少年。

そう、ロメリアとランのことだ。

あの二人が、身内向けの個人誌とはいえこのように記事として取り上げられる、

すなわち注目を集めるというのは、ミントが求めていた展開そのものなのだ。

次会ったときは褒美でもやろうか。彼らは菓子は喜ぶだろうか?

ミントはそんなことを考えながら、誰にも気づかれないように、

密かに微笑むのだった。

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