第6話 変幻自在の虚ろの器

 突進したアキラは姿勢を思い切り低くし、足元を狙っていた。攻撃が通りにくい頭を避けた形だ。大振りな爪がトーガンの足元を横に凪ぎ払う。しかし頭以外の守備力が並程度であるという点は当然トーガン本人も把握している。足元への攻撃を読み、後ろに飛び退いて難なく回避する。

「流石にバレてるのはお互い様だな!」

「じゃあ当たるまで……ってな!」

攻撃を空振ったアキラは、強引に体勢を立て直し、すかさず再加速、先程より更に高速で、もう一度足元を狙う。

「どうせそんなことだと思ったぜ!モノマネ名人よぉ!」

トーガンは高く跳躍し、アキラの爪の一閃を回避、勢いのついたアキラはトーガンの足元を通過してしまう。


 ミントは今この場で最も手が空いているエレバスに向かって、彼らの戦いの解説を求めた。

「お互いに手の内は読めているというわけだろうが、このままでは、埒が明かないんじゃないか?」

「まあ見ておくといい。奴の本領はこの先だ。」

エレバスはそう言うと、それきり黙ってしまった。


 アキラの突進を往なしたトーガンは、通過していったアキラが体勢を立て直す前に一撃を加えようと後を追う。

「貰ったあ!」

が、その時、トーガンの目の前に突如赤黒いものが現れる。そう、アキラのオーラの爪である。

「なにぃ!?」

足元を通過して体勢を崩して死に体となっていたはずのアキラが、攻撃を仕掛けてきていた。しかも、その攻撃はダメージが通りにくいはずの頭を狙っていた。もし仮にまだ攻撃が来るとしても、また足元を狙うだろうと

思っていたトーガンは対応できずに直撃してしまった。

「モノマネの真価は昇華だぜ?トーガン!」

「グッ……このっ……!」

相変わらず石頭のお陰でダメージ自体は殆ど無いものの、体が大きく仰け反る。

「ファンサービスだ、少しばかり派手に締めるとするか!」

アキラの叫びと共に、爪が霧散し、オーラが額に集中する。

「これで……仕舞いだ!」

額にオーラを纏ったアキラの頭突きが、トーガンの無防備な顎に直撃する。

「が……あが……ぐ……!」

トーガンは仰向けで倒れ、うめきながら起き上がろうとするが、地面をガリガリと引っ掻くばかりで移動すらろくにできていない。

「1!……2!……」

トーガンのダウンを確認したフォセカがカウントを開始する。意識がおぼろげながらカウントが進むことに焦るトーガンだが、体が動かず、起き上がることは叶わない。そして……

「3! 試合終了! アキラの勝利!」

「っしゃあ!」

戦いはアキラの勝利で幕を閉じた。

高らかな叫びと、小さな拍手が夜に吸い込まれていった。

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