第4話 茶と金と青、そしてハゲ

 「いいだろ別に!」

「いいや、認めねえな!」

大通りから外れた人通りの少ない薄暗い路上で、茶髪の男とスキンヘッドの男が言い争っている。

「餃子無料券に対して替え玉無料券は釣り合わんだろ!」

「お前それマジで言ってんのか!? 麺2倍だぞ!?」

「値段を見て物を言え阿呆が!」

「値段だけでものを語るなこのハゲ!」

この二人、勝った方に物を差し出すという

条件で勝負を始めようとしていたのだが、出すものが釣り合わないとスキンヘッドの男が

文句を言ったために揉めているのだ。

「何をしてるのだあいつは……」

「あはは……」

すぐ横で金髪と青髪の女二人がそのやり取りに冷ややかな視線を送る。

「というか、無料券を賭ける意味ってなんだろうね?」

「いっそ飯代一食分を賭けてもいいだろうよ」

「「そうか……」」

争っていた二人の声が綺麗に揃った。

そして二人は自分の財布の中身をちらりと確認すると小さく頷いて、よし、と言うと、数歩下がって構えた。


 「随分と……騒がしいものだな」

騒ぎの場にミントが到着した。静かに歩き、適当に観戦に都合のいい場所を探す。

「えっと……あなたは?」

金髪の女が問う。

「私は……ただの観戦者さ」

「あー、もしかして、俺らの戦いが見たいっつう人?」

茶髪の男、アキラが嬉々として問う。

「そうだ……友人が観戦が好きらしくてね。適当に有名どころ……らしい?キミたちを当たってみたんだ……よくわからないが」

「ははは! じゃあねーちゃん、いきなり大当たりを引いたな! 面白れえもん見せてやるから、期待していいぜ!」

ミントは彼らのことを、そして彼らの世界を視察に来たのだ。

「まあ、とは言っても今宵の闘いはただの飯代の賭け。大層な代物ではない。見ての通り、観客は貴女一人だ」

「公園で対戦会とかやると、パフォーマンス性の高い人とかも多くて盛り上がるんですけどね。見てる分にはそっちのが楽しいし」

「まあただ、所謂魅せ試合ってやつが多くてな。やってる側は挑発だとか、フリってやつに乗ってやらなきゃならねえのがちとめんどくせえが……ま、概ね楽しいもんだぜ」

ここまでの説明は概ねミントも把握していた。そして、彼らの闘争が真に娯楽の一種に過ぎないことを改めて認識した。


 「おーい、俺は放置かよアキラァ!」

ミントへの対応のために放置されていたスキンヘッドの男が、しびれを切らしたのか、アキラに向かって呼び掛ける。

「ハゲがやかましいが一旦置いといてだな……自己紹介が遅れたな。俺はアキラ。

ま、俺を見に来たってんなら知ってるとは思うが、一応な」

自分の知名度に気分をよくしたのか、アキラは少々自慢気だ。続いて、金髪の女が前に出てきて名乗る。

「僕はフォセカです。よろしく」

フォセカの声は女性にしては低い、若干少年

に近い印象を受ける特徴的な声だった。

「……」

最後の一人、青髪の女が一歩下がった位置でミントを見つめている。

「……どうかしたか?」

「いや……」

ミントの呼び掛けに対して、一瞬間を置いて反応し、一歩前に出てきた。

「自分はエレバスと言う。……いや失礼少々考え事をしていた」

挨拶が終わると、エレバスは再びミントから距離を取った。


 「おーい! 終わったか!?」

「そうだ。ついでにあいつの紹介もしとくか。あいつはハゲ。以上だ」

「おい!?」

アキラの雑にも程がある紹介に異を唱えるハゲ。

「って言うのは冗談でだな……あいつはトーガンってんだ。まあ俺とはよく飯食いに行ったりバカやってる仲だな。さっきエレバスも言ったが、今日はよくやる飯代賭けたバトルだ」

「そうか……そういえば、彼はキミたちの仲間というわけではないのか?随時親しげに見えるが」

「実際仲は良いけど、組むかどうかとは別だったりすることも多いんです。まあ……趣味の違いってやつかな?トーガンは単独が好きみたい。それに、グループ内でやり合うことも珍しくはないし。特に、こういう賭けに関しては」

フォセカの説明に、なるほど、とミントが納得している間に、アキラ達は戦闘体勢に入っていた。

「それじゃあ、そろそろ始めっか。もうそろそろ客も待ちくたびれただろうしな」

そう言うと、アキラの周囲に何か赤黒いものが漂い始めた。

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